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#017. ミルシーダ・ダンジョン


「ダンジョンに行ってみるか?」

「ダンジョン?」

「迷宮もしくは秘境って意味だけど」

「いや、意味は分かるよ、私だって」


 妹が><って顔で言ってくるけど、ああ、ミルシーダ・ダンジョンの詳細ね。


「ミルシーダ・ダンジョンは、全5層からなる開放型ダンジョンで、王都ミルシーダの南門近くにあります」

「うんうん」


 エリスの説明に納得顔の妹とタピオカさんを連れて、南門へ行く。

 王都は昔のゲームでいえばリアルぽさとか人口の関係で無駄に広いので、少し歩く。


 いろいろな人がいる。

 NPCもそれからプレイヤーも。


「ルルちゃんだ」


 名前を見て、手を振ってくれる人がいる。

 別に知り合いではない。

 俺はちょっと嬉しくて手を振り返してみる。


 特にプレイヤーネームは本当にさまざまで、自分では想像も付かないような名前の人もいる。

 ただし、本人ではない有名人とか公序良俗に反する名前にはできないので、そういう人は皆無だ。

 また前後に「xxあかりxx」みたいに記号を付けるのも禁止らしい。だからそういう人もいない。

 そもそも名前はユニークではないので、そうする必要がないんだけど。


 ある意味非常にクリーンだ。

 昔はNGワードとかしかなかったが、現在は高度AIがスクリーニングしているので、目視チェックとほぼ同等の効果がある。

 それも複数人の判断材料に差がある目視よりもよっぽど統一意識による識別なので、その規制レベルは一定だ。


 もちろん通報機能もあるので、AIの判断では通過したが問題がある人がBANされるという稀なケースもあるかもしれない。

 知らないけどね。


 監視の目という意味では、無数にいるガイド妖精やNPCも、その一端を担っている可能性もある。


 それらの莫大な処理はクラウド統合型の次世代量子サーバー上にある。

 ハードもソフトもすごいの一言に尽きる。

 そしてAIの応用の最終形がこのアリスシステムというVRギア。


 AIの分野でトップメーカーに躍り出た会社が本気で作った「ゲーム機」というから、会社のトップはどこかおかしい。

 もしくはフルダイブVRに並々ならぬ興味があったか。

 世界最先端の会社が億ドルとか掛けて宇宙開発に力を注いだりするのに似ている。


 まあ、なんにせよ、俺たちはブラックボックスで遊ぶだけだ。


 入口は普通に建物だった。

 正確にはダンジョンの入り口を覆うように、この世界でいう現代の建物がある。


 特に入場制限とかもなく入っていく。


 定番のようにスロープではなく階段を降りると、そこは草原だった。

 空もある。

 階段は空間に空いた穴につながっている。不思議だが、そう言う世界としか言いようがない。

 ミニマップには「1階層 草原フィールド」と書かれている。


「ここにはスライム、ストラ、ストルン、ホーンラビット、ウルフが出ますね。ウルフがちょっと強いですけど、大丈夫だと思います」

「大丈夫なの?」

「た、たぶん」


 珍しくガイド妖精のエリスが言葉を濁す。

 まあ、俺たちの実力は数字以外の部分もあるので、不確定要素はある。


「それから、フィールドボスのビッグスライムが出ます」

「ああ、あいつな」

「ええ」


 チュートリアルであった以来のビッグスライム君だ。


「いきなりスライムボンバーで殺された恨みは覚えてるからな」

「あはは、お兄ちゃん。私もやられた」

「私だってやられたんですよ」


 3人で微妙な顔をして笑いあった。

 チュートリアルの楽しい思い出だ。


「復活の結晶、どれくらいある?」

「3つずつくらいのはずだけど、全部小。中以上は倍々で高いし」

「だよな」


 これは単に材料に高い魔石が必要だからに尽きる。

 課金ショップでも相場とそれほど離れた値段ではないので、課金で買ってもいいけど。


 おさらい。


 ――俺は無課金ノーマルプレイを極める。


 まあ気休めですけどね。

 お金を投入したら、上は際限がない。

 株や仮想通貨で億円とかの資金を持った人に勝てるはずがないので、そういう例外中の例外を相手にしてはいけない。

 月の上限金額はあるけど、それはクレカや電子マネーの月の上限額とかなので。


 無課金のゼロ円での中で、最強を目指す。

 あとニートに勝ちぬけるのは難しいが、ニートだって寝る時間ぐらい必要だ。

 加速世界ではなく、俺たちには平等に24時間が流れている。


 あと恥ずかしいけど、俺には妹とクラスメートの彼女の支援もある。


「あ、私、闘技場ポイント100CPあるから、復活の結晶中買うね」

「ああ、すまんな」

「いいって、どうせ他のに交換してもって感じだし」

「強化添加剤は?」

「欲しいけど、まだ要らないでしょ」

「まあそうだね」


 ちなみに現時点の交換可能リストはこちら。


 ▼闘技場ポイント

 ・即時復活ポーション30% 100CP

 ・即時復活ポーション50% 150CP

 ・復活の結晶中50% 100CP

 ・HPポーション70% 10CP

 ・MPポーション70% 15CP

 ・強化添加剤 200CP

 ・ペットフード(汎用)10個セット 200CP


 俺は1勝1負なので75CP、2勝のタピオカさんは100CP、2負のウタカは50CPだろう、たぶん。

 手抜きとか、一方的すぎたりすると点数が引かれるらしいが。


 変換効率を考えれば、一日中闘技場に籠って「強化添加剤」とか「即時復活ポーション」とか量産したいところだが、それだとレベルが上がらない。

 レベルが上がらないと、勝てなくなって貰えるCPも半分になって効率が悪い。

 つまり、俺の目指すものではないな、うん。


「復活の結晶特大100%、2つ買っておくね」

「すまん、150ジェム2つか、けっこうするな」

「いいってことよ、お兄ちゃん」


 これは公式ショップだ。つまり運営の儲けになる。


 ちょっと寄り道が長かったが、ダンジョンの1階の探索だ。

 見た感じはミルシーダ平原とあまり変わらない。


「スライム3匹!」

「お、おう」


 うりゃうりゃとみんなで片づける。


「ストラ、ストルン4匹!」

「あ、ああ」


 頑張って攻撃する。


「ホーンラビットとウルフ」

「うぉっと」


「うりゃあ」

「ていやあ」


 なんとかタピオカさんがその機動性を生かしてウルフと対峙している間に、俺と妹でホーンラビットを始末する。

 あのLv8ウルフよりは弱いみたいで、3対1になったウルフに3人の連携攻撃でなんとか、なんとか、倒した。

 戦闘不能にはならずに済んだ。


「はぁはぁ、けっこうしんどい」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫だよ、お兄ちゃん」

「ちょっと休むか」

「ん」


 ダンジョンのど真ん中だが休憩をする。


「そうだ、サンドイッチでも食うか」

「あー、食べる食べる」


 基本、妹もタピオカさんも食べるのは好きみたいで、こういうところの食いつきはすごい。


 例のジャムサンドだ。

 俺たちの取ったベリーがジャムになってサンドになってると思うと、なんとも感慨深い。


「うまうま」

「ああ、うまい」

「美味しいですね」


 もちろんバフもつくので、お得だ。

 効果は「HP+150/20分」ここでいう150とは10秒毎に回復することを意味している。

 最大HP増加ではないらしい。


 HPは今400ぐらいなので、30秒で全回復する。

 そう言う意味では、かなりお得だ。

 攻撃を受けまくっても、死ななければHPポーションを節約できる。


 ただし、死ななければという条件が厳しいかもしれない。


 さて休憩も終わりというところで、プレイヤーが通過していった。


「ボスあっちだ」

「おお、初ボスだな」


 どうやらボスを見つけたプレイヤーから知らせを受けて移動中らしい。


「俺たちも行くか? 別に参戦しないで見てるだけでもいいし」

「いくいく」

「行きましょう。できれば討伐も」

「お、おう、では」


 その人たちは見失ってしまったが、他の人が早足で移動しているのが見えたので、それを追う。

 別に、これぐらいならマナー違反とかでもないと思う。

 一応聞いてみるか。


「一緒しても?」

「おお、どんどんこいよ、全員個別にドロップ判定するから人数は多くても問題ないんだ」

「なるほど」


 ということで俺たちもフィールドボスを目指した。


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