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#006. 妹とストラ帽子


 地球に戻ってきた。

 いや、別に違う惑星とかではなく、ログアウトしただけだけど。


 印象としてはそんな感じ。


 俺が部屋から出てトイレに行き、水を飲んで戻ってくると、隣の部屋からも人が出てくる。


「あ、お兄ちゃん」

「なんだ、よみ

「『なんだ、詠』じゃないんだよなぁ。1人でアリストーン始めたでしょ」

「げ。いや、まあ、そう、だけど……」

「酷い。私と一緒にやってくれるって、約束、したよね?」

「いや、歴史を改竄かいざんしないでほしい。一緒にできるといいね、とは言ったが、約束まではしてない」

「うぅぅ、そうだけど、約束した、もん――」


 参ったね。こういっちゃなんだが、生意気なところもあるが可愛い中学2年生の妹である詠。

 上目遣いでうるうる目で攻撃されたら、俺のちっぽけなマイハートでは、太刀打ちできるはずないんだわ。


 ちなみに黒髪のセミロングで、まだだいぶ幼い。

 どこがとは言わないが、まだ成長途中で見た感じ、怪しいおじさんに大変好かれそうな容姿をしている。


「わかった。すまん、今、平原の真ん中でログアウトしたんだ。ミルバスタン王国。王都ミルシーダ。ミルシーダ平原、だと思う」

「分かるけど、なんか、ずるい」


 妹もすでに始めてはいるらしい。

 ただ俺と合流できてないだけで。


「ごめんって」

「ちゃんと謝って」

「ごめんなさい」

「じゃあ、明日、イチゴのショートケーキね」

「ああ、ショートケーキな」

「あれ? いつもならお金がないっていうのに」

「俺には今、余裕がある」

「なにその謎の貫禄……」

「ストート帽子、な、ゲットした」

「えっ、あの、可愛いオコジョの帽子? えっ」


 妹の目が点になる。

 数秒してから目に光が戻ってくる。


「私も、ほっ、ほしい、ぐやじい」

「お、おう」

「王都の東門、だよね? そこ集合でいい?」

「いや、俺は西門だけど」

「え、西門? 分かった、西ね、あっちのほうが人もモンスターも少ないんだっけ」

「人気ないのか? 西門」

「うん、なんかオオカミが徘徊はいかいしてて、危ないって噂で」

「お、おう、知らんかった」

「それは、運がいいんじゃない?」

「俺、やっぱ運がいいのかな?」

「たぶん……あ、話し込んでる場合じゃないや。日没まで1時間。付き合ってもらいますよ」

「えいえい」


 俺たちはそれぞれの部屋に分かれて、VRギアを再び被る。


「リンクスタート」


 一瞬目の前が暗くなるが、すぐにマイルームを経由して、アリストーンを起動させる。


 キャラクター選択画面だ。


「ぐへへ」


 俺は変な笑いが出そうだった。

 そこには、等身大の俺のアバターの美少女がストラ帽子を被って立っている。


 キャラは今、1人しかいない。

 何かあれば増やしてもいいが、今はいい。大丈夫。


「キャラクター選択っと」


 ゲーム内にログイン処理される。


 再び視界が反転して、緑と地面の大地、ミルシーダ平原に出てくる。

 相変わらず、この瞬間は変な違和感がある。


「おかえりなさいませ」

「変な感じだな。ただいま、エリス」

「はい。待っている間に、勝手にワイルドベリーを5個、取ってきました」


 そういってすぐ近くの低木を指さす。


「ふむ。そういうこともできるの?」

「はい。ログアウト後、1週間までは、自立行動が許されています。戦闘とかは、ほとんどできませんから、レアドロップ狩りとか無理ですけど」

「先を言われていた」


 俺が寝てる時と学校行っている間に、レア狩りしてくれって言おうとしたら、やっぱりだめか。


「基本的にはワールドマーケットの監視とかですね。購入とかは端末との連携アプリにワタシから通知が行くようになっているので」

「ああ、もうインストールしてある」

「じゃあ大丈夫ですね」

「たぶんな」


「さて、急いで戻る」

「戻るんですか?」

「妹がな、西門で待ってる」

「あぁ、妹さんがいるんですね。きっと可愛いんでしょうね」

「それなりには」

「ノロケですか」

「違うが」

「ノロケですか」

「はい……」


 有無を言わせない顔をしていたので、今度はうなずく。

 そうするとなぜか満足そうに、うんうん言っていた。


 西門に戻ってきた。


 どこかな。こちら側は人がそこまでは多くない。


 端末ツールを起動、SNS連携ツールで詠に連絡を入れる。


 ルア>おーい、西門着いたぞ? どこだ

 ヨミ>え、いるの? 名前は?

 ルア>ルルっていう美少女だよw

 ヨミ>ああ、ストート帽子被ってる、見つけた


 すぐ近くから黒目、黒髪でセミロング、どことなく面影があるキャラが走ってくる。

 顔は白い。それから耳が尖っている。黒髪のエルフなのだろう。


「ふむ、ウタカちゃんか」

「詠の読みを変えてウタ。カはなんとなくサフィックス」

「サフィックスねえ」

「うん」


「んじゃ、フレンドよろしく」

「いいよ、認証っと」


 ピローン、と効果音が鳴る。

 フレンド第一号が妹とか、俺は友達が少ないからな。


 エリスが実体化して出てくると、もう1人、赤髪の妖精さんが出てきた。


「よろしく、エリスです」

「よろしくです。トモエです」


 トモエちゃんらしい。


「ご主人様、このように握手をすると、友好度があがるんですよ」

「ふむ、んじゃ、ほい、握手」


「あ、うん、よろしくお兄ちゃん」

「ああ、よろしくウタカ」


 はにかんだ妹と握手すると、妹がニヘらと笑う。

 なんだか、いつもより素直で可愛いな。


「パーティー、組むよ?」

「うん」


 パーティー承諾画面が出るので、承諾する。


 観光ガイドブックを開いて、完了を押しておく。


 >「パーティーを組んでみよう」完了。10ジェム。8000TEA取得

 >「フレンドを登録してみよう」完了。10ジェム。8000TEA取得


 おっ、おう。

 ちょっとずつ貯まっていくな、ジェム。


「それじゃあ、お兄ちゃん、西平原いこ」

「おう」


 俺たちはまたミルシーダ西平原に繰り出す。

 スライムエリアを早々に抜ける。


 ストラ、ストルン、ストラ……。


 ストルン、ストルン、ストラ……。


 2人でやると、1人よりずっと早い。


「ええい」


「やぁ、アタック」


「とうぉ」


 妹が掛け声を掛けながら戦闘してく。

 わが妹ながら、なかなか可愛い。


「ねえ、お兄ちゃんはアタック使わないの?」

「アタックって戦闘スキルのか?」

「そう」

「あ、レベル2だったわ。忘れてた」


 Lv2に上がって3sp取得した。


「じゃあ休憩に1sp、アタックに2sp割り振ればいいかな?」

「はい、いいと思いますルルさん」


 ガイド妖精のエリスが答えてくる。


 ◎Lv2 休憩[Lv1/10][パッシブ]

  座ったり寝たりすると、素早くHP、MPを回復できる。

 ◎Lv2 アタック[Lv2/10]

  攻撃スキル。剣などで物理攻撃。


「おりゃあ、アタック」


 青白いスキルエフェクトが出て、ストラを攻撃する。

 普通の通常攻撃よりは強いみたいで、ダメージの数値が大きい。


 2人でどんどん倒していく。


 夜の0時はもうすぐだ。

 日はすでに傾き掛かっていた。


「出ないな……」

「つ、次には出るかもしれないし」

「そうだな」


 ストラ、ストルン、ストラ、ストルン。


 諦めかけたその時。


 ピコーン。


 >ウタカが「ストート帽子」を取得


「きたああああ」

「やった、私ドロップしたよおおお」


 2人でハイタッチを交わす。


「はぁはぁ、よし、もうすぐ暗くなる。戻ろう」

「うん、やったねお兄ちゃん」

「ああ」


 最初は俺が2個目をゲットして売りさばこうと思っていたけど、妹のほうにドロップしたし、妹にあげるつもりだったので、これでいいんだろう。


 お揃いのストート帽子を装備して、夕暮れのミルシーダ西平原を太陽を背にした王都ミルシーダに戻っていく。

 2人は久々に手をつないで、平原を歩く。


 西の城門にたどり着いた。


「おつかれさま、お揃いの帽子で仲がいいっすね」

「ああ、そっちもお疲れ」

「お疲れさまです、お兄さん」

「あはは、ありがとう。女の子に激励されたら、うれしくなっっちゃうな」


 門番さんが鼻の下を伸ばして、うれしそうにしている。

 まあ、気持ちは分からんでもない。


 門の中に入ると、露店も店じまいなのか片付けをしていた。


「よし、今日は終わりだな」

「もう12時だよお兄ちゃん」

「ああ寝るか」

「うん、おやすみなさい、ルルちゃん」

「おおう、おやすみ、えっとウタカ」


 俺たちは雪のようなエフェクトに包まれてログアウトした。


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