Lv1で経験値は80%まできてもうすぐレベルも上がりそう。
しかし戦闘も飽きたし、少し休憩しよう。
実はイベント用ポーションは消えてしまったし、普通のポーションとか持ち合わせがない。
スライムとストラ、ストルンだけなら自然回復や5分座るとかで何とかなっていたけど、この先もそうとは限らない。
▼観光ガイドブック
・Lv1 戦闘をしてみよう Clear[完了]
当然戦闘をしたので、チュートリアルもクリアになっていた。
>「攻撃スキルを習得しよう」完了。10ジェム。8000TEA取得
さて一度町に戻るか。
王都の入り口だから長い行列が、なんてことはなく普通に門を通過する。
「この世界にはワープゲートがあるので、遠くから来る人は転移門を使います」
「なるほど」
「直接来る人は比較的近くの村の人とかですね」
「うんうん」
ガイド妖精さんがガイドしてくれる。
従来の普通のゲームでは、しっかりガイドしてくれるのは難しいので、AI搭載型は伊達ではないらしい。
この高度AIもアリスシステムの運営が量子サーバー上で動かしている優れものだ。
優れものというか、このAIありきでこのゲームは作られている。
AIがゲームを作ったというほうが正しいかもしれない。
露店街に到着した。
「いらっしゃい、いらっしゃい」
NPCのベテラン露天商だろうか。呼び込みをしている。
売り物は、HPポーション
「本日大特価。今週は来訪者がいっぱいくる特別な週だからね。今日から特別サービスだよ」
なるほど、ゲーム内でも一応、告知のようなものがあったようだ。
王によるものか、神託なのか分からないけど。
「値段が安いか分からない……」
「はい、大丈夫です。エリスにお任せください。えっとNPC価格の30%引きくらいですね。安いと思いますよ」
「なるほど」
「まだ開始日なので少ないとは思いますが、プレイヤーの商品のほうがもっと安いかもしれないですね」
「ああ、なるほど」
NPC価格は高めなので、プレイヤー製のほうが安いのだろう。
「ちなみに、売らないと思いますけど」
「なあに?」
「そのストラ帽子を今売ると高値で売り抜けられるかもしれないですね」
「ああ、そうだよね」
そうだ。先行者利益。
最初に手にしたものの利益だ。
今は数が圧倒的に少ない。
「ねえ見て、あの子めっちゃかわいい帽子被ってる」
「あの子可愛いわね」
「あの子の頭、可愛い」
みんなこんな感じで俺を見てくる。
こそばゆいが、これも悪くはない。
ちょっとアイドルみたいな気分だ。
これを売りに出すとか、とんでもないが、とんでもないからこそ、高値が付く。
しかし逆に言えば、もしレア率が本当は異常に低くて、滅多に出ないレア中のレアだと、買い戻すのは難しい。
「むむむ」
俺はうなって悩む。
「なんか悩んでるみたい、可愛い」
「ああ、いいな」
「おい、見てるだけにしとけよ。おさわり禁止だからな」
なにか不穏な台詞も聞こえるが、いいんだ。
美少女顔にしてくれって言ったのは俺なので、顔が美少女なのはしょうがない。
いやあ、美少女って罪なんだなぁ。
周りにも美少女はそれなりにいるが、俺が目立ってるのは帽子のせいだもんな。
売り飛ばすか、売り飛ばさないか、それが問題だ。
せっかくのキュートな帽子。
ちやほやとか抜きにしても、VR空間では自己満足も重要だろう。
そう思うと、この頭の上の子が、より可愛く思えてくる。
「まあ、そう易々と手放せないよな、うん」
「そうですね。手放したら戻せませんが、手元にあるうちはいつでも売れますから、賢明な判断だと思います」
「だろう、うんうん」
よし、今は売らない。これが結論だ。
一時の金に目がくらんで、後悔しても後の祭りであるし。
「それで440ジェムあるけれど……」
「そうですね。ショップで買い物するか、あるいはワールドマーケットを使うかですね」
「ワールドマーケット?」
「はい、案内はLv7からですが、直接依頼してくれれば、ウィンドウの呼び出しは可能です」
「何その裏ワザ」
「裏ワザではないです。ただ最初は煩雑なので浅いところに表示されていないだけです」
「ふーん」
とにかくワールドマーケットというのが使えるらしい。
細かい仕様はややこしいが、要するに露店ではなく、ウィンドウ一覧形式で取引ができる。
マーケットの通貨単位はTEAではなく課金用のジェムだ。
「試しに帽子の値段だけ確認してみようか?」
「そうですね。でもきっと売りたくなっちゃいますよ?」
「う、値段しだいではそうだね、って実は直接見なくても、値段知ってるの?」
「はい、ワールドマーケットの検索機能もワタシたちにはあるので」
「結構便利なんだね」
「そうでしょ、えっへん」
「うう、でも値段は言わなくていいよ?」
「分かりました」
「おばちゃん、HPポーション小ください」
「はいよ」
俺はポーションを仕入れる。
ユーザー製を探すことも考えたけど、今の需要が多い状況で、ほいほい売っているとは考えにくい。
20個くらい買って、せっかく増えたTEAも減ってしまった。
「おまけに、復活の結晶小ひとつ、つけてあげるね」
「ありがとう、おばちゃん」
「あははは、いいんだよ。お嬢ちゃん」
「わーい」
ちょっとリアルでやったら男とは思えない喜び方をしてしまったけど、大丈夫だろう。
今の俺は美少女なので。大丈夫、だろう、たぶん。
「よし、再びストート狩りじゃわい」
「わかりました。ご主人様」
エリスを連れて、道をいくいく、門を通って、お外へ。
「今度こそ、戦闘しまくりじゃ」
スライムをシバいて歩く。
そしてストラ、ストルンエリアへ。
「毛皮より、帽子くれくれ」
「えいやぁ」
ストラを攻撃する。
「おいやぁ」
ストルンを攻撃する。
合間に休憩ではなく、HPポーション小でささっと回復して、また戦闘する。
「調子でてきた」
ストラをまた倒した。ピコーン。
うおぉ、メッセージきた。
>ルルがLv2になりました
おおお、そうだった。もうちょっとだったんだ。
まさかレアドロップと一瞬思ったけど、ちょっとだけ残念だと思ったのも事実だけど、これはこれでうれしい。
「レベルアーップ」
「はい、おめでとうございます」
「ありがとう~エリス」
観光ガイドブックに新着マークが付いている。
▼観光ガイドブック
・Lv2 パーティーを組んでみよう
・Lv2 フレンドを登録してみよう
う、うん。俺ソロだからな。
そのうちやろう。
よし、もっともっと倒せば、きっと帽子がまたドロップするはず。
1回出たんだから、2個目も出る、はず。
出るはず……。
戦闘を続ける。
ストラ、ストルン、ストルン、ストラ、ストルン……。
そのうち、出るはず……。
チャラーン。
うおおお。
>ルルが「魔石」を取得
レアだけど、ち、違うんだ。
「おしかったですね!」
「お、おう」
ストラ、ストルン……。
なんか可愛いはずのこの子たちが、俺を笑っている気がしてくる。
いつか、出るはず……。
「出ない。全然、出なーい」
「そうですね。レア率は低いみたいですね。ちなみにレア率はワタシも知りません。低いとだけしか」
「そうなんだ、低いんだ」
「はい。相対的にですけどね。実際にどれくらいまで低いかは分かりかねます」
「あーあ、なんか日も陰ってきたね」
「そうですね」
地球でいうなら午後4時くらいだろうか。
まだ夕方ではないけど「ちょっと過ぎてきたな」くらい。
現在時刻は午後11時。
「一度ログアウトきゅーけーにしよう」
「はい。ここはフィールドですけど、そのままログアウトしますか? できますけど、ワタシたちは推奨はしていません」
「大丈夫なんだよね?」
「はい。安全性は問題ありません。ただ出た瞬間に、目の前にフィールドボスが居たりする危険はあります」
「あー了解。大丈夫だよね?」
「はい、一応は」
「では、ログアウト」
変な白い雪みたいなエフェクトに包まれて、俺は一時ログアウトをした。