世間では憂鬱な月初めの月曜日なのだろうが、俺は朝からにんまり笑顔だ。
俺はついにこの日がきたことに感動している。
世界初フルダイブVR装置「アリスシステム」が2047年2月に発売されてから5か月。
今日7月1日は待ちに待ったフルダイブVRMMORPGが配信開始になる。
その間に、予約の抽選に当選し無事にハードは入手していた。
ソロ用PRGなどをプレイして感覚をすでになじませてある。
しかし俺がやりたいのはMMOなのだ。
広大なオープンワールドをみんなで生活しているかのようにプレイしたい。
高校から下校して家に帰ってきた。
着替えて、食事とお風呂にも入ったので、あとはゲームと寝るだけの状態だ。
ヘッドギアを被ってベッドに寝る。
アリストーンは日本時間午前9時にすでにオープンしている。
世界標準時午前0時というやつだ。
今は午後5時半過ぎになろうとしている。
アリストーン・オンライン内は午後6時から午前0時までが昼間なので、限界まで快適に遊ぶには今しかない。
「リンクスタート」
VR装置が起動してVR空間に移行。
デフォルト空間、マイルームに俺はいた。
「システム。ゲーム起動、アリストーン・オンライン」
俺の音声入力に応答して、ゲーム空間が展開されていく。
異世界風のタイトル画面が表示される。
アリストーン・オンラインは、アニメチューンというかアニメ風世界観なので、全体的にほんわかしていて、優しい雰囲気だった。
このゲーム機は脳波などの身体チェックによる自動ログインだ。
転売、複垢などの規約違反になる行為は、事実上することができない。
もちろんbotなども作ることができなかった。
かなり不正行為には厳しい目を向けていると聞く。
ログイン先サーバーが「日本語サーバー」と表示されていた。
このゲームは言語別になっている。
自動翻訳システムも搭載しているが、ゲーム内のネイティブ言語が日本語なのが日本語サーバーなのだそうだ。
それで各言語毎に独立している。
言語を確定すると、設定用空間にログインしていた。
いわゆるキャラクリ画面だ。
1匹、というには失礼だろうか。
15cmくらいの1人の妖精が浮いている。
青髪、青と紫の蝶の羽が特徴的だ。
緑のミニスカ妖精服で見せパンの白いかぼちゃパンツ。
「こんにちは」
「こんちには、妖精さん。名前は?」
「ワタシはガイド妖精ルルコ族の通称、エリスです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
「名前を入力してください。それからオプションですがIDをお願いします」
「わかった」
俺は名前を入れようと思う。
ID:@[ruru_highland]
名前:[ルル______]
俺の本名は
ちなみに高校1年生。
ルアー釣りが、三度の飯より好きだという父親による。
ルアではあまりにあんまりなのでルルにしようと思う。
「はい、次はキャラクターの性別を決めてください」
「わかった」
俺は女性を選ぶ。
ルルにしたのは、女性アバターを選ぶつもりだったからだ。
理由は女の子になりたい、からではない。
こういうゲームはアバターが女性用のほうが豊富だ。
そしてそんなアバター装備に高補正がついていることがある。
例えばこのゲームではないが「大きな赤いリボン」に「魔法攻撃+10」とか。
男がリボンをしてはいけないわけではないけれど、女性にしたほうがいい。
ごほん、いや、女の子になりたいわけではなくても、可愛い女の子操作したいじゃん、な?
では、次。
ちなみにこのゲームでは複数アバター制なので、別に男性アバターを用意して切り替えもできる。
「種族を選んでください」
・ヒューマン
・エルフ
・ダークエルフ
・ドワーフ
・キャットレイス
・ドッグレイス
・ラビットレイス
・ハーフリング
・ジャイアント
・エンジェル
・デビル
・マシンナリー
以上12種類。
アバターの種族は後で変更できないらしいので、ここでミスると、詰んだりする。
俺はハイパー安全マージン人間なので、一番普通のステータスのヒューマンを選んだ。
ちなみにステータスは
ヒューマン
攻撃力:★★★☆☆
魔法力:★★★☆☆
防御力:★★★☆☆
俊敏性:★★★☆☆
エルフ
攻撃力:★★☆☆☆
魔法力:★★★★☆
防御力:★★★☆☆
俊敏性:★★★☆☆
ラビットレイス
攻撃力:★★★☆☆
魔法力:★★☆☆☆
防御力:★★☆☆☆
俊敏性:★★★★★
マシンナリー
攻撃力:★★★★☆
魔法力:☆☆☆☆☆
防御力:★★★★☆
俊敏性:★★★★☆
こんな感じ。
それぞれのステータスの特性はこの段階で決まる。
ゲーム内ではキャラクターのステータス割り振りはない。
マシンナリーの魔法星ゼロは、ピーキーで怖いな、こういう地雷。
俺は運動神経にそこまで強くないので、そういうバランスは遠慮しておく。
職業はゲーム内で決めると特集記事で書いてあったので、後で決める。
次は容姿だ。
「容姿をカスタマイズしてくださいね」
「ああ」
デフォルトでは俺をヒューマンでカスタムした女性アバターになっている。
黒髪、黒眼、ショートのキュートな感じ。
ミニスカートの初心者風冒険者服を着ている。
それが俺の目の前に浮かんでいた。
「髪の毛はロングのふわふわなやつ」
「ふわふわですね」
「金髪、緑眼で」
「はい」
「目はもう少し丸い感じ」
「ええ」
「もうちょっと美少女みたいな細長い感じの顔に」
「はい」
「背はどうしたらいい? 俺と同じ170でいいかな」
「えっと、ヒューマンの女性は150cmくらいが平均ですね」
「じゃあのっぽになっちゃうか、じゃあ150cmで」
「了解です」
うん、俺好みの美少女だ。
おっと重要な部位を忘れていた。
「おっぱいはDカップ」
「Dカップ、ですね? いいんですか?」
「おお」
胸がBくらいからDにアップした。
ちょっと巨乳ぐらいのバランスだ。
「仮適用してみますか?」
「はい」
デフォルト男性アバターだった俺が、美少女に変身した。
左側が鏡張りなので、そちらを向くと、俺が、美少女に、なってる!
「あ、なんかスカートがスースーするな……」
「大丈夫ですか? 今からでも男性アバターに戻せますけど」
「だ、大丈夫」
変な感じがする。
股間がキュンキュンするが、まあ、うん、大丈夫だろう。たぶん。
「そうですか」
「それより、あーあー、なんだこれ」
「はい、可愛い声ですね」
「俺、いや、ボ、ボク、女の子の声になってる」
「そりゃあ男性の声だったらびっくりですね。声も選択できるので、違うのが良ければ要望、伺いますよ」
「あ、うん。変な感じだけど、大丈夫」
声が可愛い。俺が可愛い。
「お、おっぱいがある」
「そうですね」
白い目で見てくる妖精エリスちゃん。
「おっぱい、おっぱいが……」
「Bカップにしますか?」
「あ、うん、いやしかし……やはりDカップで」
「はい。ちなみに800ジェムですけど、容姿の変更も後でできます。男性にはできませんが」
「わかった」
うん、俺はゲーム内では、女の子、女の子で、プレイするんだ。
大丈夫だろう。
「チュートリアル島はやりますか?」
「ああ、たのむ」
「わかりました」
「以上、確定でよろしいですか? よければ『確定』と言ってください」
「か、確定」
俺は設定部屋から、チュートリアル島へと飛ばされたのだった。