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「ナカタ様、これより飛行船は魔族の国との空域に入ります」
「いいカ、何か建物があれバ徹底的に破壊しロ!」
「了解です」
そうだ、壊せ。
あのいけ好かない雑草の造った物など全て壊してしまえ。
アイツ、どうやら僕と同じ転生者みたいだが分をわきまえない生意気な態度ばかり取りやがって。
挙句に僕よりも仕事やプロジェクトが評価されたなんて、許せない。
だから壊してしまえばいい。
僕にはこの世界最大の機械帝国、エシエス帝国が付いているんだ。
「ナカタ様、魔族の襲撃です。飛行戦艦目がけて何者かが攻撃を仕掛けてきました」
「そんな連中、追い払ってしまエ」
何が遊園地だ、何がテーマパークだ。
貧乏人は娯楽など持たず、死ぬまで働き続ければいい。
それをあんなものを与えて調子に乗らせやがって。
僕は立場をわきまえない貧乏人が大嫌いだ。
貧乏人は貧乏人らしく、つつましい生活で強者の踏み台になって生きていればいい。
それをあの小林というヤツは、貧乏人だけでなく魔族の魔王まで取り込んで僕の計画を目茶苦茶にしやがった。
僕の名前はナカタ・タケミ。
僕は前の世界でも生まれながらの特権階級だった。
当然ながら勉強は出来る、スポーツも万能、家柄も金も全て持っている勝ち組。
仕事も無試験で父親の会社に役員待遇で入り、最初から大型のプロジェクトを任された。
……だが僕は、底辺のはずの社員や下請け孫請けの連中達に能力が無いと、下の連中に陰口をたたかれ、いるだけ役員なんて言われていた。
だから僕はそういった生意気な連中を徹底的にいびり、二度と逆らえないように休みも与えずに仕事をさせて搾取し、反論できる力を奪ってやった。
そしたらあの連中、建設現場で僕に報復しやがって……。
アイツらが手を抜いた工事のせいで第八環状道路の完成式典の日に大崩落が起き、僕はその瓦礫に巻き込まれて死んでしまった。
その後なぜかこの世界に転生した僕は、スキルを手に入れ、前の世界では僕の言う事を聞かなかった連中の代わりに、作り出した重機を魔法で操る事が出来るようになった。
このスキルがあれば僕を馬鹿にしたやつらを全て見下す事が出来る。
実際、前の世界では上手く行かなかった事がこの世界では何をやっても上手く行くようになった、だが……それもあの忌々しい小林の奴が現れるまでの事だ。
あの小林の奴、見るからに底辺層のくせに、王侯貴族や魔王まで自らの陣営に取り入れて僕の仕事を悉く邪魔してきやがった!
奴隷貿易なんて前の世界では禁止された事もこの世界では普通に行われていたので、率先して知恵を貸してやったのに、それを邪魔してきたのもあの小林だ。
また、人種差別も前の世界ではなんだかんだと人権団体が五月蠅くてやりづらかったのがここだと意図的に出来ていたのに、それもあの小林が邪魔してきた上、双方を争わせてその上前を撥ね、戦後には資材を高値で売りつける計画だったのにそれも阻止された。
気に入らない、全く気に入らない。
貧乏人のくせに、わきまえもせず、それでいて強者を味方にするなんて。
だから僕はそんな小林の側につく無能なダイワ王や、忌々しい魔王達と敵対する、エシエス帝国に技術の全てを譲り渡し、古代遺跡の発掘に取り掛かった。
そこで見つけたのがこの飛行戦艦、そして封印されていたという大魔王の石板という事だ。
コレがあればダイワ王、魔王達、そしてあの小林といった連中全てを苦しめる事が出来る。
特権階級が下々を従え、搾取する秩序ある社会が作れるという事だ。
「来ます! 敵は雷の魔王ネクステラと火の魔王エクソンの軍かと」
「撃ち落とセ、そしてあのテーマパークと鉄道を徹底的に破壊しロ」
アレも小林が作ったらしい。
この異世界にあんなものを作りやがって、便利になったり貧乏人が娯楽を覚えてしまえば素直に従わなくなるだろうが。
だからあえて見える形で徹底的に破壊してやる。
お前のやった事が無駄だったと思い知らせてやるためだ。
飛行戦艦からの攻撃は小林の造った忌々しいテーマパークや鉄道を次々と破壊、これで少しは気が晴れたかな。
だが、本番はこれからだ。
アイツが作った物は全部破壊してやる。
こちらには世界最強の機械国家、エシエス帝国の力と、封印から解き放った大魔王がいるんだからな。
「貴様、この程度で余が満足できると思っているのか。もっと多くの絶望と悲鳴を与えよ。そうすればお前の願いを叶えてやろう」
「はイ、大魔王様、必ずや最良の絶望を用意して差し上げまス」
この飛行戦艦に設置された玉座に座っているのが、僕が遺跡で発掘させた大魔王。
この大魔王の力があれば、小林のやった事を全て無に出来る。
見ているがいい、お前のやった事が全て無になる絶望を味わってから僕の社畜として一生飼い殺してやる。
それが分をわきまえずに特権階級に逆らった罪だと思い知らせてから、過労死するまで徹底的に絞りつくしてやるからな、見ているがいい。
「フン、人間ごときが、偉そうな事をいう前に行動して見せろ、この無能が」
「無能……はイ、申し訳ございませン」
この大魔王、偉そうな態度だが、流石の僕でもコイツに勝てるワケがない。
だから素直に従うしかないが、再度封印する為の石板はこっちにあるんだからな。
まあいい、小林と四人の魔王を徹底的に叩き潰してから必要無くなったらこの大魔王を再び封印してやればいいだけだ。
そうすれば、この世界で僕に逆らう者は誰もいなくなる。
僕を無能呼ばわりした奴は誰であろうと許さない。
それと……分をわきまえずに逆らう貧乏人や弱者、これも許さないからな。
「大魔王様、それデ……何をどうすればいいのでしょうカ」
「そうだな、無能の貴様に教えてやろう。まずは余に逆らった火の魔王エクソンと雷の魔王ネクステラを血祭りにしてやるか」
「わかりましタ、それでは火の魔王の城に向かいまス」
ここは素直に大魔王に従っておいた方が良いだろう。
本当ならもっと完全に焼き尽くすまで忌々しいテーマパークを焼け野原にしてやりたかったんだけどな。
飛行戦艦は小林の造ったテーマパークを離れ、火の魔王エクソンの城に方向を変えた。
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「誰か、火を止めてくれ」
「いや、無理だ。空を飛べる魔族がどうにか力を貸してくれているから救援作業は進んでいるが」
「くそっ、誰なんだよ。こんな場所を攻撃しても何の意味も無いだろう」
空爆されたテーマパークでは、人間と魔族がお互いを助け合い、どうにか犠牲者を出さないように救助作業が進められていた。
「これは困った事になりましたね」
「そうですわね、この事はすぐにベクデル様、エクソン様やヴォーイング様にお伝えしなくては」
雷の魔王ネクステラの部下、トーデンとカンデンはこの状況を伝える為、瞬間移動の魔法で各地に向かい、惨状を伝えた。
一方、テーマパークを燃やし尽くされた雷の魔王ネクステラは、恐怖の感情が自らの力にならない事に疑問を感じていた。
「何故だ、本来なら恐怖の感情は儂の物になるはずなのに、それを奪われておる……まさか、大魔王様が復活されたのか!!」
本来なら近くで起こった災害による苦しみや恐怖の感情は一番魔力の高い雷の魔王ネクステラの物になるはずだ。
だが、そのテーマパークでの惨状による苦しみや恐怖の感情は彼のエネルギーにならず、どこか別の場所に奪われているようだ。
彼がこのような事を体験したのは、かつて大魔王が存在していた時以来だと言えるだろう。
雷の魔王ネクステラは、この状況から大魔王の復活を確信していた。