アンディ王子は軟禁の身で離宮から本人が出る事は許されていない。
だが、彼には優秀な部下達がいたらしく、その部下が国中のあちこちを巡り、様々な情報を集めていた。
そして、その情報を一つにまとめ、アンディ王子はある事にたどり着いた。
その事をダイワ王に伝えようとした矢先、エシエス帝国の発掘した飛空船がこの離宮に空爆をしかけて来たらしい。
内部に裏切り者がいるとは限らないが、魔族には伝達に特化した魔力を持つ者もいると聞く、その魔族がナカタと組んでいたとすればこの情報が筒抜けだった可能性も十分考えられるな。
不幸中の幸いと言えるのが、オレがこの離宮を改修した時に水回りを強化していた事と、エレベーターを設置していた事だと言える。
念のために付けていた脱出用のエレベーターは、実際に空爆の際に目印にされたアンディ王子の住む塔目がけて行われたので、彼は見張りにドアを開けてもらい、エレベーターで下に降りたらしい。
その際、途中で止まってしまったらしく、踊り場で脱出できるようにしておいたので問題なく非難する事が出来たようだ。
また、テラゾーブロックで作られた建物は、難燃性で火が燃え広がらなかったのでそれも幸いしたと言えるだろう。
水回りのアルキメディアンスクリューポンプは簡易的な作りだったので、故障してもすぐに修理できたらしく、水を引き上げながら消火作業が出来たので爆撃の被害は思ったよりも少なくて済んだようだ。
これが水が無ければ、火災の被害はもっと大きくなっていた可能性もある。
奇しくも今回の爆撃でオレの建築技術がこの世界でもかなり標準よりも優れていると証明できたともいえるだろう。
「僕達はコバヤシ様の造った建物のおかげで誰一人として犠牲者を出す事無く済みました。これがもし、元のボロボロの離宮だったらここにいる大半が亡くなり、僕もここにはいなかったかもしれません」
「その通りです、コバヤシ様がここを建て直してくれていなければ、どれだけの兵士が犠牲になっていたかわかりません!」
確かに、建築で何が重要かというと、頑丈さもだが緊急時の避難や災害対策といったところだろう。
転生前の日本の耐震や防火基準がどんどん厳しくなり、建築技術や防災設備が整ったのは、そういった基準が厳しくなるきっかけの大災害、大事故による大勢の犠牲の上に成り立っていたからだ。
オレが手掛けた建造物は未曽有の大災害に備え、そういった部分を特化した造りにしているので、こういった爆撃などの事は想定していなくても、地震や火災の際の避難経路や防火等を考えていたので誰一人犠牲者が出ずに済んだのかもな……。
「それで、話の本題に入りますが、コバヤシ様はエシエス帝国の名前しか存じなかったようですね。それでは僕が部下に命じて調べてもらっていた事をお伝えしますので、こちらにお越し下さい」
アンディ王子は空爆された塔にオレ達を呼び、そこで話を進めた。
どうやら、誰が内通者か分からないので、あえて誰もいない場所という事で焼け残った尖塔で話をした方が安全と見たのだろう。
「ここにいるのは僕達だけですね、それではお話をさせていただきます。こちらにおられるのは……魔族の方でよろしいのでしょうか?」
「そうだ、我はヴォーイング。皆には空の魔王ヴォーイングと呼ばれている」
空の魔王ヴォーイングの名前を聞いたアンディ王子は一瞬驚いた様子を見せたが、その後冷静になり、話を続けた。
「貴方が空の魔王……名前はお聞きした事がありましたが、実際に見たのは初めてです。コバヤシ様は凄い方とお知り合いなのですね」
「はぁい、アタシもいるわよ。アタシはベクデル。そうね、水の魔王ベクデルって言われるわね」
流石に魔王が二人も同じ場所にいると聞いて、アンディ王子もその場で腰を抜かしてしまった。
「あわわわわ……何故、なぜこんな場所に魔王が二人もおられるのですか??」
「そうねー、コバヤシちゃんが困ってるみたいだから力を貸してあげたのよね」
「コバヤシ様の交友関係って……一体……」
これ以上は話がややこしくなりそうなので、オレはアンディ王子に今までのいきさつを話した。
魔王がオレに協力してくれている理由が分かったアンディ王子は椅子に座り直し、話の続きを進めた。
「成程、コバヤシ様は僕の離宮を修繕した後、様々な場所でその建築技術を使って人助けをしていたのですね。それなら納得です」
「それで、アンディ王子。エシエス帝国とは何なのでしょうか」
「そうですね、それではその事についてお話ししましょう。ここにはボク達以外誰もいないから本当の事が言えそうですから」
アンディ王子がオレ達に教えてくれたのは、エシエス帝国はダイワ王に反対する貴族派の裏で暗躍し、この国を乗っ取ろうとしていたという話だった。
どうやらオレが最初に解体工事を進めた元公爵邸の主も、エシエス帝国の手先だったようだ。
そしてエシエス帝国は貴族派の連中と組み、スエズやナカタが国外に奴隷を売りつける先として取引をしていたようだ。
となると、あの飛空船を使って空爆してきたのがエシエス帝国で間違いないだろう。
ナカタはダイワ王がオレの方にインフラや国内の工事全般を任せると聞いてすぐにこの国を裏切り、エシエス帝国に付いたのだろう。
いや、下手すると最初からダイワ王は利用するだけで、元からエシエス帝国の側にいて行動していたと考えた方が違和感は無さそうだ。
「僕が掴んだ話だと、エシエス帝国は古代遺跡の発掘を成功させたそうです。そこで古代技術の飛空船を見つけたと考えるのが間違いないようですね。アレだけ高性能の飛空船は残念ながら我が国にはありません。そうなると、エシエス帝国が古代遺跡から発掘した技術で作ったと考えるのが間違いなさそうです」
そうか、それでナカタの奴は古代遺跡発掘の技術をエシエス帝国に提言し、それを成功させた事で帝国での立ち位置を確保できたからダイワ王はもう必要無くなったという事か。
「古代遺跡だと? そこには我等の大魔王様が封印されていたはずだが、その遺跡を破壊したというのか」
「大魔王? ベクデル様やヴォーイング様が魔族の支配者ではないのですか?」
「う、うむ。今の人間は知らないようだな、我等には大魔王様がおられるのだ。そのお方に比べれば、我等の力は子供のようなモノ、あのお方には勝てるはずもない」
オイオイオイ、マジかよ。
この世界には四大魔王以外にそれを上回る大魔王なんて奴がいるのかよ。
まさか、ナカタの奴、エスシス帝国に協力した理由って……その大魔王を復活させる為じゃないのか?
「コバヤシちゃん、なんてこと言うのよ。大魔王様にはアタシ達が束になっても勝てないわ、滅多な事言わない方が良いからね」
「そうだ、大魔王様は全てのエネルギーを司るお方。あの方に睨まれてしまっては、我らの水、雷、火、空、全ての力だけでなく、感情や言葉すら奪われてしまう」
何だよその究極チートみたいな相手。
どうやら、水の魔王ベクデルも、空の魔王ヴォーイングも恐れる大魔王というのがいて、その大魔王を怒らせると彼等のエネルギー源すら断ち切られてしまうという話らしい。
そんな危険な相手を意図的に目覚めさせるとしたら、ナカタはいったい何を考えているんだ。
オレは大魔王を相手にどうやったら勝てるのだろうかと考えてみた。
四大魔王のエネルギーすら奪う相手、大魔王とはいったいどんな奴なのだろうか。
オレはぬぐい切れない不安を抱えながら、アンディ王子の話の続きを聞く事にした。
「話の続きをしてもよろしいでしょうか」
「あ、はい。よろしくお願いします」
アンディ王子が隣国エシエス帝国について調べた内容は、オレの想像する以上に衝撃的なモノだった。