モッカが鳥をボリディア前男爵の元に送ってくれた。
これで、この土地の名産になるサトウタケから採れる糖蜜はボリディア前男爵の手によって王都に広まってくれるだろう。
多分伝書鳩の連絡が来るのは一週間から二週間程度と思っていいだろう。
それまでにこの場所に移り住んだ老人達に住みやすい場所を用意してやらないと。
超大型ゴーレムのコンゴウは地面をえぐり、段々畑を作ってくれている。
彼が居てくれるおかげで、オレ達は数年かかる作業をたったの一日で終わらせる事すらできる。
コンゴウは自らの力が破壊ではなく、建造に使えると知り、動く事は全く苦ではないようだ。
コンゴウが切り拓いた段々畑は、もう数ヘクタールに及んでいるだろう。
そこにコンクリートゴーレムがサトウタケを土ごと埋め、それをフォレストベアが土を掘り起こして耕す。
植物は植えられていた場所の土や水で育つので、下手に環境を変化させる事は出来ない。
だからサトウタケは土ごと掘り出され、土ごと埋められたという事だ。
この作業で造られた段々畑は、サトウタケ生産に適した場所として用意されていった。
後は老人達が住める家を用意してあげる事か。
オレはコンクリートゴーレムに命じ、木材を加工させて家をどんどん作っていった。
流石にこの家にまでシーディングを施す事は作業量的に出来ない。
まあその分、この家は少しずつ修理できるようにパーツ組み建築にしてある。
つまり、最近流行りのメタバース、ネットゲームの中に出てくる建築用パーツのような物で、最初から建てるより、一部分を作っておき、それを組み込む事で家等にする作り方だ。
この方法なら強度はあまり取れないが、時間を短縮化して建てる事が可能だ。
死の山から連れて来た老人達をあまり外に居させるわけにもいかない、だから早く家を用意しなければ。
「みんな、出来るだけ低めの部分を頑丈に作ってくれ」
「ゴッゴゴゴゴ……」
老人や子供が住む建物は、普通の人の住む場合よりもバリアフリーを考えて造る必要がある。
低めの階段や、しがみつける手すり、それに足腰の弱い人の為のスロープといったところだ。
オレはこれらの事を踏まえ、移住してきた老人達が快適に住めるように全体的に低めの段差の家を作った。
ベッドやテーブル等も低めにしている、それは体に負担をかけない為だ。
ゴーレム達はそんなオレの命令に従い、バリアフリーの施されたバンガローのような建物を作ってくれた。
今はまだ布がそれほど用意できるわけじゃないので、当分は藁や草を敷き詰めたベッドで寝てもらう事になるだろう。
なに、それもそれほど長い間にはならない。
ここで取れるサトウタケの糖蜜が王都で売れるようになれば、この人達全員に温かい布団で眠る毎日を約束できる。
オレは、ゴーレム達のおかげで老人達の住処を人数分用意する事が出来た。
それはサトウタケの段々畑の近くに用意され、彼等彼女等は仕事はその畑で行い、仕事が終われば家で休む事もできる。
本音を言えば何かレクリエーションの出来そうな場所、集会所を用意してやりたいところなんだが、それほどの余裕はなさそうだ。
この事をパナマさんに伝えると、屋敷のホール部分を自由に使ってほしいと彼女は言ってくれた。
まあこれで当面の住居問題は解決かな。
食事に関しては、今はまだわずかな備蓄を使いながら、モッカの命令してくれたフォレストベア達によって肉や木の実が集められている。
当然フォレストベアへのご褒美はサトウタケだ。
この老人、ゴーレム、そしてフォレストベアの少し変わった関係、これが上手く回り、パナマさんの領地は不毛の土地から少しずつ状況が変化していった。
そして、上から水を流す水路を作り、段々畑に穴の開いたパイプで水を流す事で、段々のサトウタケ畑は完成した。
さて、次は砂糖精製プラントだ。
サトウタケは切り取られ、大きな枝を細かく刻む事で蜜液を絞り出してジュースを出し、その砂糖の液体を加熱してから遠心分離器にかける事で砂糖が作られる。
本当はこれにさらに三工程くらい追加する事で真っ白な砂糖になるのだが、この世界ではまだそこまでは難しいだろうし、オレもそこまでの知識が無い。
だから用意するのは、サトウタケを細かくすり潰すための機械と、そのすり潰した蜜液を流し込んで温める窯、それに遠心分離にかける穴の開いた丸い回せる装置といったところだ。
幸い、老人の中には現役の頃鍛冶屋をやっていた人や、農家、元学者等もいて、そこそこの優秀な人材が混ざっている。
オレはそういった人達のスペシャリストな能力を発揮してもらい、力仕事の部分はゴーレムにやってもらう事で砂糖精製プラントを一か月足らずで完成させた。
ダイワ王との約束では一年の期間との事だったが、今で大体四か月くらい過ぎた頃だ。
アンディ王子の離宮改修に一か月、ボリディア男爵領から移動してアスワン・ハッタさんの村のダム建設にかかったのが約二か月少し、そして今ここでの時間が二週間強といったところだ。
まだ期間は半年以上有る。
オレ達にはコンゴウという最大最強のゴーレムが存在するので、大型重機なんかよりもよほど一気に思ったような作業が可能だ。
さて、ようやくサトウタケの精製プラントが完成し、ようやくプロトタイプの砂糖が出来た。
この砂糖、色は茶褐色で、三温糖や黒糖に近い色だ。
本来なら不純物を取り除くのには炭酸カルシウムが使われるのだが、オレはここであえて焼いて炭にしたサトウタケの砕いた破片を使った。
炭になったサトウタケの破片は、糖蜜の中の不純物とくっつき、加熱された砂糖だけが残る。
その残った砂糖を、水分を取り結晶化して粉状の砂糖に仕上げた。
これなら貴族でも喜んで手に入れたがるだろう。
老人達はすっかりこの土地に馴染み、それぞれが出来る事をしてサトウタケの精製の仕事に取り組んだ。
この人達が家族に棄てられ、死を待つだけだった人達だとはとても思えない。
彼等彼女等は第二の人生を取り戻せたようで、それぞれが生き生きと仕事に取り組んでいる。
これでようやくこの土地でも他所に出荷できる生産品が作れた。
オレがそう思っていると、空から鳥がオレ達の元目掛け、舞い降りて来た。
「こばやしっ、そのとり、ぼりでぃあのとこからきたっ」
「そうか、これを待っていたんだ!」
ボリディア前男爵の返答は、是非とも言い値で買い取りたい! といったものだった。
この世界では砂糖や甘味料は高級品、つまり……このサトウタケから採れる砂糖は十分に貴族、王都に受け入れられるものだと各省出来たワケだ。
「よし、これからもっと砂糖を作って他所の土地に売れるようにするぞ!」
「「「オオオー!!!!」」」
老人達はオレの呼びかけに大きな声で答えてくれた。
さて、これで砂糖の精製プラントと老人達の住める場所は作れたって事だ。
次にするべき作業は……この砂糖を運輸する為と、スエズ達の水路計画を阻止する為の大型水路建造だ!!
オレはモッカやカシマール、フォルンマイヤーさん達とここに巨大水路を作る為の計画を話し合った。
「コバヤシ、つかぬ事をお聞きするが、ここはかなり高い山岳地帯、水は下に下ろす事は出来ても上に汲み上げる事は出来ない。そんな場所にどうやって水路を作るのであるか? まさか、海と同じく高さまで山を削るか、穴を空けるのであるか?」
「違います、フォルンマイヤーさん。オレにいい考え、やり方があるんです。船が山を登れる画期的な方法が」
「何!? 本当であるか。コバヤシ。それはいったいどのような方法なのであるか!」
フォルンマイヤーさんはオレの船が山を登る水路の話に興味津々だった。