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第54話 森の……悪魔??

 やはり人間、一番話のきっかけになるのは食事だな。

 なんだか餌付けしているような感じで少し後ろめたさはあるが、それでもやはり甘い物というのは一番人の心を掴む事が出来るといえるだろう。


 山に捨てられていた老人達は、オレ達が食事を用意すると全員が飛びついた。

 まあこんな山の中で肉を食べる事が出来るなんてもう無いと思っていたんだろうな。


 自分達で肉を採って食べるなんてとても無理で、落ちている木の実や草をどうにか食べているくらいだ、言えばまさに青木ヶ原の樹海か姥捨て山みたいな場所だろう。


 そんな黙って死を待つか、ひもじい思いをするだけだった老人達にオレはとっておきの料理を用意してやった。

 歯が弱っている老人でも食べれるように柔らかく皮と骨までしっかりと煮込んだワイルドボアのサトウタケ煮込み、つまりワイルドボアの角煮チャーシューだ。


 原生植物だったサトウタケは、この辺りに群生していたらしく、まだ誰の目にもついていない物だ。

 だが、オレはそれをフォレストベアが齧って舐めているのを見て、これは使えると考え、それを使って料理を作ったワケだ。


 味が濃いと思う人には水で煮汁の味を薄め、オレ達はその場所にいた老人達を全員集め、ワイルドボアの角煮チャーシューを振舞ってやった。

 老人達は二度と美味しい物なんて食べられるとは思っていなかったのだろう、中には食事をして泣き出す者まで出て来たくらいだ。


 やはり人間一番根底にあるものは食事なんだろうな。

 実際食事で泣き出す人が出てきている。


 これなら話は早いかもしれない。

 オレは食料にありつくために集まった人達に、語りかけてみた。


「皆さん、ここにいて生活できますか? ここで死を待つだけの苦しみに耐え続けるのですか?」

「そんなこと言われても、ワシらはもう村にも戻れん、まともに食うものを見つけることもできん。そんなワシらになにができるというんじゃ」

「そうじゃそうじゃ、死ぬ前にウマいもの食わせてくれたのは感謝するが、わしらになにをしろというんじゃ、もうほうっておいてくれ」

「儂らは昔じいさ、ばあさをここにつれてきた。こんどはそれが儂らの番になっただけじゃ、村の掟は破るわけにはいかん」


 まあ、老人を説得するのは難しいと思っていたが、やはり……一回の食事だけで信用させるのは無理だったみたいだな。

 仕方ない、明日も続けよう。


 オレ達はゴーレムにも協力してもらい、老人達の住処に甘いホットケーキを作って持って行った。

 コンゴウはあまりの巨体でビックリされても困るので、そのまま段々畑を作るのと、その横に水の流れるパイプを設置する為の溝掘りの作業をしてくれている。


 牛乳はグレートホーンから、玉子はクレイジーバード、モッカが呼んでくれたので牛乳と玉子はかなりの量を用意する事が出来た。


 だが一つ気になった事があったので、オレはモッカに尋ねてみた。


「モッカ、以前から気になっていたんだが……モッカは森の仲間として獣達と話が出来るんだよな。それで、お前達は他の生き物を殺して食べる事は抵抗が無いのか?」

「こばやしっ、なにへんなことをいっている。モッカはたべるためならあいてをころすのはふつうのことだとおもうっ。たべないのにわざわざころすやつのほうが、かみさまにさからっていてへんだっ」


 成程、そういう考え方なんだな。

 確かに一部のおかしな勘違いヴィーガンや、相手の命を何とも思っていないサイコパス、シリアルキラー以外は食べる為に相手を殺すのは生きる事、つまり罪ではないと考えるのは世界が違っても同じという事なんだ。


 それならモッカがワイルドボアを狩ってくれるのも、グレートホーンの牛乳やクレイジーバードの玉子を手に入れてくれるのも食べる為の事なので自然だと言えるのか。


 相手がこちらを殺すつもりで襲って来たモンスターや魔獣と戦うのも、殺すのが目的というよりは生きる為の事だからここをとやかく言う事も無いな。

 冒険者達がモンスターや魔獣を狩るのもそういった目的だから、責められる事でもない。


 さて、大量の玉子と牛乳、それに粗挽きの粉での蕎麦粉のような穀物、これにサトウタケを入れる事でガレットのようなホットケーキもどきは作れる。


 これを持ってまたあの老人達の所に行ってみよう。

 オレ達は準備をし、前日のうちにゴーレムに材料を運んでもらう事にした。


 ゴーレム達には今はいったん見えない場所に隠れてもらっている。

 下手にあの巨体を見て老人達に驚かれても困るからだ。


 次の日、オレ達は老人達の住処に訪れ、ガレット風ホットケーキを振舞った。

 たいていの老人は甘いお菓子にはほぼなじみが無く、初めて食べる甘い柔らかい食べ物に驚いていた。


「ま、まさか世の中にこんな食べ物があるなんて!」

「大昔、町に行ったときに食べた物より美味しい! まさか、またあの味が味わえるなんて……」

「うまい、うまい。もっとくわせてくれっ、モゴゴゴっ!!」


 焦って食べた事でむせた人もいるようだ。

 だが、この甘いガレット風ホットケーキはかなり老人達に評判が良かったようだ。

 昨日の肉は食べられないと言っていた老婆でも、このガレット風ホットケーキは食べる事が出来たらしい。


 さて、それじゃあ本題に入ろう。

 今日の満足した状態なら話を聞いてくれるだろう。


「実は、皆さんに食べてもらったのは、ここから少し行った森にある植物の汁なんです」


 オレはそう説明した後、サトウタケの枝を持ち上げて老人達に見せた。


「サトウタケ、コレはオレが名付けました。このサトウタケですが、この山の奥の方に生えているのをフォレストベアが見つけたんです」

「フォレストベア!? あの森の悪魔達か……」

「そんな場所、恐ろしくてとてもふみこめんわ」


 まあ普通の人にしたらあのフォレストベアは恐ろしい魔獣という事だろう。

 だからこの砂糖が取れるサトウタケが、人に荒らされずに無事だったと言えるのだが。


「オレはそれを育てる畑を今作っているんです。ですが、それを育てる人達の人手が足りません。だから、住む場所と食事はオレ達が提供しますので、その仕事を手伝ってくれませんか?」


 オレの提案を聞いた老人達は、唖然としていた。


「森からその枝を持って来たってことは、アンタ……あ、あの森の悪魔を手懐けたというのか?」

「そうだっ、モッカ……ひゃくじゅうのおうのむすめっ、こいつらモッカのいうこときくっ」


 老人達はモッカがフォレストベアを手懐け、サトウタケを手渡すシーンを見て、驚いていた。


「ま、まさかあんな小さな子供に、森の悪魔が従っておる……!」

「し、信じられん」


 まあフォレストベアは、通常だとB級モンスターと呼ばれるくらいの強さだ。

 老人が出くわしたらまず勝ち目は無いだろう。


 その森の魔獣がモッカに従っているのを見て、老人達の考えも変わったらしい。

 だが、今度はオレが老人達に質問されることになった。


「その娘っこはわかった、だがお前さんには森の悪魔は襲ってくる事は無いのかい?」

「大丈夫ですよ、オレには彼等がいますから」


 オレが指示をすると、後ろから巨大なコンクリートゴーレムが四体姿を見せた。


「あ、あわわわわわ……わ」

「で、デカいバケモンだぁ!!」


 老人達はいきなり巨大なゴーレムを見てしまい、大半が腰を抜かしてしまった。


 だが、どう見てもフォレストベアよりよほど強い巨大なゴーレムを操るオレを見て、老人達はもう反論する気すら失ったようだ。


 まあ、あまり脅しはしたくなかったけど使える時間が少ないからな。

 ここは少し強引に話を進めさせてもらおう。


「オレの話、聞いてくれる気になりましたか?」


 老人達は誰一人としてもうオレに逆らおうという意思は無かった。

 まあ、ちょっと脅かしすぎたかな。


 とにかく、この後の話できちんと納得してもらおう。

 サトウタケの大型プラント建造には、彼等の力が必須なんだ。


 オレは、老人達にこの後の事を説明した。

 それは、オレがサトウタケを育てる一大生産プラントを造り、そこで砂糖を作り出す工場を建造する計画の話だ。


 老人達はオレの話を素直に聞いてくれていた。


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