さて、それじゃあ作業開始と行きますか。
まずは、パナマさんが無事に寝られるだけの断熱材のある部屋の確保だ。
これが成功するかどうかがこの屋敷の改修作業の取っ掛かりになるだろう。
それじゃあゴムっぽい樹脂を見つけるところからスタートだな。
モッカに頼んでこの辺の生き物に樹脂を集めてもらう事から始めるか
「モッカ、この辺りに住む生き物で数の多い奴っているか?」
「ふぉれすとべあがいるっ、そいつらをよべばいいのかっ」
どうやらこの辺りにはフォレストベアという熊の魔獣がいるそうだ。
まあ熊なら木に傷をつけるのは簡単に出来そうだな。
樹脂とは、木に傷をつけて取れるネバネバしたゲル状の液体の事だ。
有名な物には松脂や天然ゴム等がある。
オレはこの樹脂を利用して天然ゴムのような使い方で家の断熱材にできないかと考えた。
これが上手く使えれば、潮風の風化を食い止める樹脂サイディングのような使い方も可能だ。
だが、この樹脂を集めるのはゴムのプランテーションでもかなりの人海戦術となる。
だからオレはモッカに頼んで森の獣でそれが出来そうなのがいるかを確認したワケだ。
フォレストベアはこの森にかなりの数がいるらしく、モッカはそいつらを集めて木に傷をつけるように命令してくれた。
おかげで二日後にはたっぷりの樹脂が集まったので、オレはパナマさんの住むことになる屋敷の壁を全てこの樹脂で塗り固める事にした。
細かい作業は大型のゴーレムには難しい、それなのでオレはこの作業はウッドゴーレムを多数呼び出し、作業してもらう事にした。
しかし、このウッドゴーレムの中の魂のどれだけが家族に蔑ろにされた人達なのだろうか。
仕事が終わったらカシマールにきちんと天に還してもらう事にしよう。
これ以上酷使して呪われたらたまったもんじゃない。
オレ達は多数のウッドゴーレム、そして四体のコンクリートゴーレムとコンゴウ、それにモッカの呼んでくれたフォレストベア達のおかげでパナマさんの家を一週間ほどで改築する事が出来た。
家全体を天然樹脂によるサイディングで守られたこの造りは、ちょっとやそっとの塩害では風化すらしない。
鉄のサッシ等は使わず、木を樹脂コーティングした物にカエンオオトカゲとゴーレムが協力して作ってくれた水晶と石灰石から作ったガラスをはめ込んだので窓の開閉も可能だ。
この屋敷ならパナマさんも安心して住めるだろう。
オレは作業の終わったウッドゴーレムの中の魂をカシマールに頼んで天に還してもらった。
「ありがとうございます。ですが、わたくしにはこの家を綺麗にしてもらってもこれ以上貴方がたにできる事はありません。ですが、この家のお礼はどのような形でも必ずお返し致します」
いや、そんな事言われても……産業がなきゃ何を返してもらえばいいのやら……。
――そんなオレ達の起死回生の策を見つけてくれたのは、フォレストベアだった。
モッカの命令で動いていたフォレストベアは、疲れを取る為か、何かの木の枝のような物に嚙り付いていた。
その木の枝からは何かドロッとした液体が流れているようだ。
――アレは!? ひょっとして笹? 竹? いや、違う……アレは、サトウキビではないのか??
オレは思わずフォレストベアの舐めていた木の枝の液体を指にとって舐めてみた。
甘い! 間違いない。コレはサトウキビのような植物だ。
「コレだ! コレがあれば……!!」
「こばやしっ、どうしたっ。なにがあったっ」
「モッカ、これ舐めてみてくれ」
オレはモッカにフォレストベアの残した木の枝の粘液を舐めさせてみた。
「これはっ、はちみつっ? でもすこしちがうっ」
「お兄さん、ボクも……欲しいのだ」
カシマールもこの樹液を舐めてみたいみたいなので、オレは小さな枝を手渡してみた。
「甘いのだ! これは……美味しいのだ!」
間違いない、これはメープルシロップと砂糖の中間のような竹に似た植物だ。
これを使えば、この土地に産業を起こせるかもしれない。
「パナマさん、喜んでください。今にここはとてもたくさんのお金が手に入る場所になりますよ!」
「えっ? どういう事ですか?」
オレはパナマさんにも甘い樹液の木の枝を渡してみた。
「これは……お砂糖ですか?」
「そうです、この森には、この木の枝がたくさんあるという事です。これをきちんとした畑にすれば、ここは砂糖の一大生産拠点になるって事です!」
「そんな、信じられません……」
まあそりゃあいきなりここに巨大な砂糖精製プラントを造ると言っても誰も信じられないよな。
でも、オレなら可能だ。
「出来ますよ、オレが協力します。あのスエズのヤツを見返してやりましょう!!」
「コバヤシ様、わたくしの為に……本当に有難うございます」
パナマさんは、アスワン・ハッタさんの為に私財を出してまでダムの資金と住民の避難先を用意しようとしてくれた善人だ。
こんな善人が苦しむのは見たくない!
それに、オレはナカタと同じくらいボリディア男爵やスエズが嫌いだ。
ああいった特権階級にふんぞり返るやつが周りを不幸にする。
だから今回のパナマさんへの手伝いは、そいつ等の鼻をあかしてやる目的でもあるワケ。
さあ、作業開始だ。
オレはモッカに頼み、フォレストベア達にサトウタケ(これはオレが命名した)を見つけさせた。
そしてサトウタケが見つかると、コンクリートゴーレム達がその土ごと根元から掘り起こし、折れないように運んだ。
その頃コンゴウは山の斜面をオレの指示通りに階段状の畑に作り替えていった。
これは段々畑、あまり土地の広くない場所で食物を栽培させる際に作る畑の一種だ。
本来ならものすごい時間と労力がかかるのだが、コンゴウはそれをたった一体でそれも数時間もかけずに地面をまっ平にしている。
まあ、そのやり方はとてつもなく強引で、手刀で地面をえぐり取った分、それをどんどん下に置いていくといったワイルドなやり方だ。
まあ、土はコンクリートゴーレムがその上にサトウタケごと植えてくれるので、段々畑は順にサトウタケで埋まっていった。
フォレストベアは植えた後のサトウタケの根元の土を掘り起こし、水がきちんと行きわたるように耕してくれている。
もちろん、働いてくれたご褒美はサトウタケの樹液だ。
フォレストベア達は作業を終わらせてはサトウタケの枝を折り、大事そうに舐めていた。
さて、ここまで出来たら次は、このサトウタケを世話したり砂糖を作る作業の出来る人達の確保だ。
とりあえず、一旦あの姥捨て山みたいになっていた場所に行ってみよう。
その前に、パナマさんの屋敷の台所を借りて持っていくものを作ろう、これなら絶対に欲しがるはずだ。
オレ達は家族に捨てられ、死を待つだけの老人が細々と暮す森に戻り、彼等、彼女等に語りかけた。
「皆さん、もう皆さんはここで死を待つ必要はありません。仕事を手伝ってくれるなら、住む場所と食事は保証します! だからオレに着いてきてください」
「あんだって? ワシらみたいな老人に何をやらせるってんだい、冗談は顔だけにしときな!」
まあこんな所に捨てられた老人が人を信じられるわけないよな、だからオレ達はもうそんな場合に備えた準備をしている。
「皆さんこちらをどうぞ。沢山有りますから、好きに食べてください」
オレ達が用意したのは、この辺りでは滅多にお目にかかれない砂糖をふんだんに使った猪の煮物だった。
まあいうなら、角煮チャーシューみたいなもんか。
老人達はオレ達が用意した食事を見て、思わず飛びついてしまった。
まあ、人間やはり食欲には勝てないよな。
オレ達の用意した猪の煮物を食べて満足した老人達は、ようやく話を聞く気になったようだ。