オレ達はスエズとミッテルラント家の連中にカラクーム子爵の城を追い出されてしまった。
フォルンマイヤーさんだけはスエズが言ったので城の中に残された状態だ。
ここまで露骨な人種差別の貴族主義ってのも清々しいくらいだな。
オレ達はコンゴウ、それとヤンバ、オゴーチ、シモクボ、クロベの四体のコンクリートゴーレム達とその場を離れる事にした。
まああんな城、コンゴウが本気を出せば一瞬で消し炭に出来るのだが、オレはコンゴウには戦わせないと誓った以上そんな事はされられない。
それに、下手に攻撃をしたら中にいるフォルンマイヤーさんまで傷つけてしまう事になるので手を出すわけにもいかない。
仕方ない、ここはいったんこの場所を離れて作戦を考えよう。
オレ達はコンゴウの手に、または他のコンクリートゴーレムの手に乗せてもらい、カラクーム子爵領を移動する事になった。
幸い、ボリディア前男爵の発行してくれた通行許可証はこの土地でも効力があるらしく、オレ達は各所の関所をスルーで通る事が出来た。
まあ……こんな巨大なゴーレムの集団相手を食い止める事が出来る兵士がいるワケないので、手出しできなかったともいえるだろうけど。
オレ達はどんどん道を進み、海沿いにたどり着いた。
この世界で初めて見た海、どうやらこの辺りの海は崖があって遠浅の海岸が無さそうな場所で、船をつけられる場所が無さそうだ。
そうか、それを見込んだ上でスエズ達はこの土地を嫌がらせのようにパナマさんに押し付けたってワケだな。
こんな不毛の土地、どう開発しようとしても港にも漁村にもならない。
その上潮風が強いので塩害の被害が出やすく、まともな植物も育たない。
アイツら、マジでクソの集まりだな……貴族が聞いて呆れる。
オレ達は海路に出る事を諦め、少し戻って山岳の部分からカラクーム子爵の別邸がある場所を目指した。
だがここも整備はされておらず、獣道といった感じだ。
金が無かったのか、それともここを整備する事が時間も人員も無駄とみられたのかはわからないが、とにかくこの山岳地帯は何もない場所だった。
途中で見かけた老人達によると、ここに住んでいるのは流刑で送られた者達だとも聞く。
いうならば姥捨て山みたいな扱いか。
住むには適したと言えないようなボロ小屋で着の身着のままの老人がここに少しいるようだが、直接聞くワケにもいかないよな。
カシマールが山を移動するたびに表情を曇らせている。
やはり、ここは憶測ではなく本当に姥捨て山とか青木ヶ原の樹海のような扱いの場所なのかもしれない……。
「お兄さん、ここはあまり良い場所じゃないのだ。いや、とても良くない場所なのだ……」
「カシマール、それってどういう事だ」
「ここにいる人達、オレ達は無実だ、とか……家族に捨てられた……とか言っているのだ……」
やはりそうなのか、ここは流刑地でもあり、姥捨て山でもあったという事だな。
となると、さっき見かけた老人も食い扶持を減らす為にここに捨てられた一人で死を待つだけの人だったのかもしれない。
でも今のオレ達ではすぐにその人達を助けてやる事は出来ない。
とにかくパナマさんをカラクーム子爵の別邸に連れて行ってあげないと。
オレ達は泣く泣くその場にいた老人達の事は考えず、そのまま山岳地帯を抜けて別の海岸線に向かった。
海の小高い崖の上にその屋敷はあった。
ここがカラクーム子爵の別邸なのだろう。
オレ達はゴーレムを家の入口に待機させ、屋敷の中に入った。
「な、何だここは……!?」
「くさいっ、なにかがくさったひどいにおいがするっ」
「ここは、ボクも嫌なのだ」
オレ達があまりにひどい反応だったのを見て、パナマさんは何も言えずにうつむいてしまった。
これは悪い事をしたな……。
でも、こんな場所、どう考えても人が住めるような場所じゃないぞ。
潮風でボロボロに壊れた扉、腐食した壁、そして吹きっさらしの廃墟としか思えない建物。
まるでスマホゲームで、理不尽に旦那に追い出された可哀そうな親子連れが下手な選択で泣かされる広告にでも出てきそうなボロ屋だ。
何が温情で屋敷を与えるだ! 人を馬鹿にするのもたいがいにしろ!!
こうなったら怒った、オレがここを完全リフォームで最高の場所にしてやる。
パナマさんにはこれ以上悲しい思いをさせるわけにはいかない。
「みんな、ちょっと大変かもしれないけど、ここの屋敷の改築を手伝ってくれ!」
「わかったのだ……」
「わかったっ」
「グゴゴゴ……!!」
オレ達がこの家を改築すると聞いて、パナマさんはニッコリと寂しそうに微笑んだ。
見るからに幸薄そうな美人といった感じか。
「ありがとうございます。ですが、もうわたくしには貴方がたに差し上げる事の出来るお金もものも何もありません。お気持ちだけで結構です……」
「お金なんて取りませんよ、コレはオレのプライドの問題です!」
「プラ……イド、ですか?」
「そうです、目の前に困難があれば、それだけオレの建築士としての技量を発揮してやりたくなる、そういった気持ちなんです」
パナマさんはオレに何度も何度も頭を下げ、感謝した。
「ありがとうございます、ありがとうございます……」
この健気なパナマさんの為にも、ここは絶対に快適な屋敷を作らないと、まずは断熱材をどうやって作るかだな。
それ以外にも海風に強い家、何十年でも持つようなものにしてあげないと。
まず考えられる事は、ここは潮風が匂うくらいに海に近い、だからあまりコンクリートや鉄筋で建物を作ったとしても、数年で腐食してしまうのは目に見えている。
だからサッシとかをもし現代技術で作ったとしても、錆びてしまい、すぐにダメになる。
それくらい海沿いの家を作るのは難しいのだ。
だから建築会社によっては海沿いの家は立て直しの保険適応外だったりする場合もある。
よく子供とかが海沿いの綺麗な家とかを絵に描いたりするが、実際に建築するとなるとメンテが大変だったり建て直しをしたりでかなり大変なものだと言える。
だからといって木で作ったとしても、やはり潮風で傷んでしまう場合が多いので、材料を考えるところからやらないと。
そう考えると、一番確実に使えそうなのが樹脂コーティングという事になる。
本来の樹脂は天然の松脂のようなドロドロしたものをいうが、現在日本では樹脂=石油から作られたプラスチックというイメージの方が多いだろう。
だが、本来の天然樹脂は文字通り樹の脂から採れるゴム液や松脂のような物を指す。
この世界の樹木がオレの思い通りの物かどうかはわからないが、それでもやってみる価値はあるだろう。
つまり、木材だったとしても、石やコンクリートだったとしても一度この樹脂でコーティングしてみれば潮風に強い建材になるのではないかという算段だ。
「こばやし、どうしたっ?」
「モッカ、もし出来るならで良いんだけど、この辺りの魔獣もモッカの命令には従ってくれるのか?」
「もちろんっ、モッカ、ひゃくじゅうのおうのむすめっ、どんなけものもモッカにしたがうっ」
そうか、それならモッカに協力してもらった方が良さそうだな。
今回の家を建てる方法が、ゴーレムのデカさだけは無い人海戦術が必要になるやり方だからだ。
さて、それじゃあ作業開始と行きますか。
まずは、パナマさんが無事に寝られるだけの断熱材のある部屋の確保だ。
これが成功するかどうかがこの屋敷の改修作業の取っ掛かりになるだろう。
それじゃあゴムっぽい樹脂を見つけるところからスタートだな。
モッカに頼んでこの辺の生き物に樹脂を集めてもらう事から始めるか。