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第50話 ウンガ……子爵??

 ロックフィルダム完成に喜んでいたオレ達は、慰霊碑の前で今回の水害で亡くなった人達、そして今までの水害で亡くなった人達に祈りをささげていた。


「アスワン様……」


 その時、村に到着したのは、オレ達の予想だにしない人物だった。


「これは……とても立派な物が完成したのですね、アスワン様」

「はい、無事完成しました。これも皆さんが協力してくれたおかげです」


 オレは、アスワンと親しげに話す女性に問いかけてみた。


「あ、貴女は??」

「これは、申し遅れました。わたくしは、パナマと申します」


 品の良い貴族のお嬢様といった感じの彼女は、パナマと名乗った。

 少し浅黒い褐色の肌の彼女は、整った顔立ちの美人だった。


「パナマ、久しぶりであるな! 無事息災だったであるか?」

「え、ええ。ファンタ様こそ、お元気そうでなによりですわ」


 どうやらパナマさんとフォルンマイヤーさんは知り合いのようだな。


「アスワン様、工事は無事に終わったようですわね。完成おめでとうございます」

「い、いえ……僕の力ではありません。ここにいるコバヤシさんのおかげです。彼がいなければ、僕は何も出来ませんでした……」

「そうなのですか、コバヤシ様、ご苦労様でした」


 パナマさんはにっこりとオレに微笑んでくれた。

 そんなオレをモッカとカシマールの二人が何か厳しい顔で見ているけど、オレ何かやったっけ?


「それで、移住の件はどうなりましたか?」

「それが、生き残った村人はそれほど多くなく、今後はこの村でも十分に暮らしていけそうです」

「そうでしたか、それは良かったですわ」


 パナマさんは笑顔でアスワンに話しかけていた。


「パナマ様、申し訳ございません。移住先の確保に、資金提供まで約束してくれていたのに……」

「構いませんわ、アスワン様が無事叶えたい願いを叶えられたのでしたら、その事にとやかく言うつもりはありませんから」

「ありがとうございます、パナマ様」


 アスワンとの話を終えたパナマさんはオレの方を見て会釈した。


「初めまして、わたくしはカラクーム・ウンガ子爵の娘、パナマ・ウンガと申します。コバヤシ様、貴方様のお噂はかねがね伺っておりますわ」


 どうやらオレの事は貴族達にも伝わっているらしいな。


「それで、もし宜しければ貴方様に是非ともわたくしのお父様にお会いして頂きたいのですが、如何でしょうか?」

「わ、わかりました」


 オレ達は村人に別れを告げ、パナマさんに案内されて彼女の住むカラクーム子爵領に向かった。

 ボリディア前男爵の出してくれた通行許可証のおかげで、関所は難なく通る事が出来たが、流石に四体のコンクリートゴーレムと超巨大なコンゴウを見て、番人達も相当驚いていたようだ。


 オレ達がカラクーム子爵の城に着くと、そこには一人の人物がいた。

 彼はオレを一瞥すると、吐き捨てるようにこう言っていた。


「フン、パナマが何か妙な奴を連れて来たみたいだな!」

「お兄様、その言い方はコバヤシ様に失礼ですわ!」

「フン、下賤の者をどう言おうが俺様の勝手だ、それよりも誰が兄だ! 俺様はお前を妹などと認めんからな!」


 何とも嫌な雰囲気の男だ。

 彼は典型的な人種差別の貴族主義者といったところか。


「俺様を呼ぶならスエズ様ときちんと名前を言え、コレだから下賎の血の混ざり物は困る」


 アイツ、スエズというのか……。

 パナマさんはスエズにキツい言葉を投げかけられ、表情を曇らせてしまっていた。

 こういう時、オレはどう言えばいいのだろうか。


 だが、この直後にオレは珍事を目にする事になった。

 なんと、あれだけ高圧的な態度だったスエズが、オレ達の後ろにいるフォルンマイヤーさんを見た途端、いきなり襟を正して態度を豹変させたのだ。


「え、あ……貴女は、フォルンマイヤー様ではありませんか。ぼくはスエズ・ウンガです。覚えていませんか?」

「お前は誰であるか? 生憎だが私は相手によって露骨に態度を変えるような卑怯者と話をするつもりは無いのである!」


 けんもほろろ、まあ、いきなり相手によってコロコロと態度を変えるような奴は、そんな対応をされても仕方ないわな。

 スエズはその場に呆然としたまま取り残され、オレ達はパナマさんの案内で城の中に通してもらった。


「ようこそお越し下さいました。儂はカラクーム・ウンガ子爵です。貴方が巷で噂の凄腕のゴーレムマスターの一級大工ですな」


 カラクーム子爵は品の良さそうな、物腰の柔らかい初老の人物だった。

 だが、どうも身体は良くなさそうだ。

 彼はどうにか杖をついて歩いている。


 そうだ、ここで彼の為に車椅子を用意してあげるのもアリかもしれないな。


「初めまして、オレはゴーレムカンパニーの社長、小林(こばやし)太(たい)盛(せい)です」

「コバヤシ様ですな、よろしくお願いします」


 カラクーム子爵は貴族でも人を見下さないような立派な人物だった。

 しかし、ボリディアといい、ウンガといい、何故親は立派でも子供の方は貴族主義のろくでなしの連中ばかりなんだ??


 これは本来の性格の悪さにあのナカタがいらない入れ知恵をしてさらに悪化させていると考えていいかもしれないな。

 さっき城の入口で会ったスエズって奴も、何かろくでもないことを考えてそうだし。


「早速ではありますが、もしよろしければ食事を用意させます、是非ともお召し上がり下さい」

「あ、ありがとうございます」


 オレ達は城の客間に通され、おもてなししてもらう事になった。

 コンゴウと四体のロックゴーレムは置き場がないので城の中庭に待機してもらっている。


 ゴーレムにはメンテは特に必要は無さそうだが、以前の反省からで彼等には適度な休憩を取ってもらっている。

 下手に使い続けて彼らに暴走されても困るからという一面もあるが、休みを与えないのも自分の中で許せないといった部分があるからだ。


「わーふかふかだっ」

「ゆっくり……休める……」


 オレ達はそれぞれが用意してもらったベッドにゴロゴロして休んでいた。

 まあ最近は、ずっと働き続けていたようなもんだからな。


 この二か月近く、オレはずっと堤防やダム、水回りの工事といった作業に取り組んだ。

 その中でとんでもない相手、水の魔王ベクデルなんてのにも出くわしたけどな。


 そろそろ水の問題からは解放されたいってのが本音だ。

 堤防に井戸掘りにダム、どれも水に関する事ばかりやっていたような気がする。


「食事の用意が出来ました、どうぞお越しくださいませ」


 メイドさんがオレ達を呼びに来てくれたので、全員でホールに向かった。

 そこでは豪華な食事が用意され、オレ達は久々に甘いものを食べる事が出来た。

 そういえば町を出てからしばらく、甘い物を食べる事が出来なかったからな……。

 久々の甘い物にモッカやカシマールも目を輝かせていた。


「お食事中申し訳ございません、コバヤシ様、この後ご相談があるのですが、宜しいでしょうか?」

「カラクーム子爵、お話とは?」

「ここでは言えませんので、後程儂の部屋に来て下さい」


 何か嫌な予感がするが、これを断るわけにもいかないな。


「わかりました、オレでよければお話をお伺いします」


 さて、一体どう言った話をされるのだろうか。

 ひょっとして、サスペンスドラマによくあるような後継者に関する話だったら勘弁してほしいけどな……。


 だが、オレの悪い予感は的中する事になる。


「おお、来ていただけましたか。実はお話というのは、儂の後継者を誰にするかという事でして、その相談をしていただければと思ったのです」


 勘弁してくれよ、オレ、貴族のお家騒動に巻き込まれるのかよ。

 でも食事を出してもらった以上、下手に断る事も出来ないよな……。

 さあ、どんな話になるのやら。

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