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第49話 ダムの……種類??

 さて、ダム工事を開始するわけだが、どういったダムを造るかが問題だ。


 ダムには直線型で下から水を流す重力ダム、アーチ状で両端の山に挟まれた形に作るアーチダム、そして大量の土砂や粘土、岩石を強い力で積み上げて作るロックフィルダムの三種類が存在する。


 この中から消去法で考えてみると……。


 まず、重力ダムはコンクリートを作り上げる高い技術力と時間が必要だ。

 そんな長い時間をかけていると、工事をやっている最中にナカタのヤツにあの手この手で邪魔されたり権利を奪われる可能性があるので×。

 それに途中に空けた穴から少しずつ水を出すとしても、そこからダム全体にひびが入ればあっという間に崩壊して大惨事だ。


 つまり、文字通りに蟻の穴から堤も崩れるといった事例そのものになるってワケだ。


 次にアーチダム、これは両端に山がある事前提で挟み込む形で作るダムだ。

 これは力の分散が図れる上、コンクリートの量を少なく造る事が出来る。

 だが、それだけに重力ダムやロックフィルダムに比べて高い技術力を要する上、素人が手を出せるような工法で造れるものではない。


 異世界の事を馬鹿にするわけではないが、これだけ高い技術力のダムがまともに作られるようになったのは地球でも二十世紀に入ってからだ。

 だから技術力の面からこのアーチダムも×という事になる。

 両端の山を使うという意味では便利だったんだろうけどな。


 となると、最後に残ったロックフィルダム、これが今回の工事で採用される形になるだろう。

 このロックフィルダムとは文字通りに石や土、砂利にコンクリートなどを積み重ねて造るタイプのダムだ。

 これならこの世界の技術力でも可能だし、オレの生み出した四体のコンクリートゴーレムとコンゴウがいれば十分作業が可能だ。


 それに、技師としてのアスワンもこれくらいなら十分工事に協力する事が出来るだろう。


 問題は、どうやって積み重ねる砂利や粘土、岩石を確保するかといったところだが、これも四体の十メートル超えのゴーレムと六十メートルサイズの超大型ゴーレムのコンゴウがいれば問題は無い。


 よし、決まったぞ! この村に作るダムはロックフィルタイプのダムだ!!


「アスワンさん、明日から作業に入りましょう! オレに任せてください!」

「え? でも……人手が……」


 アスワンはまだ自分の仲間がコンクリートゴーレムになっている事を知らない。

 何故ならオレは生み出した四体のコンクリートゴーレム達に、誰もいない場所に隠れて動かずにある程度に内部が固まるまで待機しているように伝えたからだ。


 まあ、後一日半もあれば、周りにくっつくことはなくなるだろう。

 幸い雨も小雨になって来たので、明日くらいからは工事を開始できるはずだ。


 翌日、オレはアスワンを村の小高い場所に呼び出した。


「コバヤシさん、僕に何を見せようというのですか?」

「アスワンさん、見ててください、来い! ヤンバ、シモクボ、オゴーチ、クロベ!!」


 オレが名前を呼ぶと、四体の巨大なコンクリートゴーレムが姿を見せた。

 それを見たアスワンはビックリして腰を抜かしてしまった。


「あわわわわわ……ゴ、ゴーレムだ!!」

「アスワンさん、彼らはアナタの仲間達なのだ、彼らは死んでもこの村を助けたいと願い、自らゴーレムの核になる事を選んだのだ」

「お前達……そんな姿になってまで、僕に協力してくれるのか……」


 四体のコンクリートゴーレムは肯定を示すように手を高く掲げた。

 どうやらこれは彼らの中の合図だったらしい。


 ゴーレムの中身がかつてのアスワンの仲間達だと確信した彼は、やる気を取り戻し、ダム建設の為の計画をオレと話し合った。


「まさか、こんな方法があったなんて!」

「アスワンさん、ダムの事を教えてもらった人はこの方法を教えてはくれなかったんですか?」

「そうですね、僕が聞いていたのは、この二番目の方法、二つの山を使って挟み込むアーチ型と呼ばれるやり方だけです」


 アイツ、コスト削減のやり方だけを教えてこの世界の技術力なんて無視していたんだな。

 もしこれを計画通りに完成させたとしても、この世界の技術力じゃ数年と持たずに決壊確定だ。


 もしそうなったとしても、アイツは責任を取らず、ここにいる技師のアスワンに擦り付けたんだろう。


「確かにこのアーチ型は材料を少なく造るには最適な方法です、でも、この方法はよほどの高い技術力が必要とされ、ここにはそれだけの技術力はありません。もしこの方法でダムを造っていたら、間違いなく数年後には決壊してたはずです」

「まさか、そんな……あの人はこのダムなら数百年は安泰だと言っていたのに……」


 マジでクソだな、そういって村人達を騙して工事費だけピンはねするつもりだったんだな。

 こうなったら徹底的にアイツの嫌がる、盤石の数世紀は持つような凄いダムを造ってやる!!


「大丈夫ですよ、オレのやり方なら本当に数世紀は維持できるようなダムを造ってみせますから!!」


 さて、それじゃあオレの本領発揮だ、現代日本の建設技術力を見せてやる。


「アスワンさん、この場所に作るなら、ロックフィルダムが一番確実だと思います。これなら材料さえあればすぐにでも造れますし、どれだけ高い堤高でも造る事が出来ます。それに、頑丈さではアーチ型に負けないだけのものを造る事も可能なんです!」


 オレの説明はアスワンに通じたようだ。

 アスワンはオレの指示で図面を引き、どこからどこまでをダムにして、洪水吐きを設置するかを考えてくれた。

 その間、四体のロックゴーレムとコンゴウは村の瓦礫を撤去し、その跡地に周りの山から取って来た粘土を力任せに押し固めていった。


 流石は巨大ゴーレムといったところか、本来なら数年はかかりそうな作業を、彼らは一週間足らずで完成させ、心材になる粘土の壁はどこかのアニメで見たような巨人から町を守る壁くらいのデカさになっていた。


 よし、ここまで出来たら後は三層構造のデコレーションをするだけだ。


 ロックフィルダムとは、基礎岩盤の上に粘土で出来た土質遮断壁、砂利で出来た遮断壁、そしてその周りを防護する岩石で出来た防護壁のサンドイッチで完成する。


 本来ならこの岩石を積み重ねる作業が人力でやるには一番大変なのだが、それをものともしないゴーレムのおかげでこのペースならダム完成までにかかる時間はあと一か月必要としないだろう。


 村人達は最初オレ達の事を胡散臭がっていたが、巨大な壁が完成するにつれ、どんどん見る目が変わって来た。

 中には工事を手伝いたいという人達まで出て来たので、彼らには細かい部分の作業を手伝ってもらい、女性や子供達は食事や服の洗濯等の身の回りの作業をやってもらった。


 モッカは子供達の相手をし、息抜きで一緒に遊んであげている。

 彼女の呼んだ魔獣も工事の手伝いをしてくれたり、大活躍だ。


 水害から村を守る、その思いは被災した村人達の心を一つにしていったのだ。


 そして、土壁が完成した時、村からは歓声が鳴り響いた。

 ずっと昔から苦しめられ続けた水害から解放されたからだと言えるだろう。


 そして、一か月後、ゴーレム達のおかげでロックフィルダムは無事完成した。


「ついに……完成だ!」

「本当に……本当にもうこの村が水害で苦しめられる事は無いのですね」

「はい、このダムがある限り、どんな大雨が降ろうと、この村はもう水に沈むことはありません」


 村人達は完成したダムを見上げ、今までの水害の事を思い出していたようだ。

 欲を言えば本当ならダムの上の部分にすぐに移動できるように、エレベーターでも造りたかったところなんだけど、転落防止の柵くらいしか作れなかったのが心残りではある。

 まあ、それでも急ではあるものの、ダムの両端に長い階段を設置したのでダムの両端から両端までは歩く事が出来るようになったんだけどな。


「こばやし、でっかいのできたなっ!」

「亡くなった人達、皆……喜んでいるのだ……」

「コレはなんとも立派な物が完成したのである。この事はすぐに王都に伝えるのである」


 カシマールとモッカ、それにフォルンマイヤーさんも、ここにいる全員がダムの完成を喜んでいた。

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