「僕には四人の仲間がいました。ヤンバ、シモクボ、オゴーチ、クロベの四人です。僕と同じ思いを持った彼らは、僕より一足先にこの村に向かったのです。ですが、僕一人だけが生き残ってしまった……。もう、これ以上何もできません。せっかく資金と資材を提供してくれる貴族を見つけたというのに……」
アスワンは悔しそうにオレに話を続けた。
「この村は大昔から水害に苦しめられてきた村です。雨期になると川が氾濫し、山の上の水が一気に溜まって村をめちゃくちゃにしてしまうのです。ですが、それでもどうにか村人は協力してこの村で生活を続けてきました。他に行く場所も無い僕達には、ここしか無かったからです」
選択肢が選べないって辛いよな。まさに貧すれば鈍する、選択肢が無いからどんどん条件が悪くなっていく、それでも現状を維持するしかない、といった状態だ。
「それで、ダムを……」
「そうです、僕は土木の仕事をしている時にある人物からダムの話を聞きました。その巨大なダムが有れば、この村は救えるという話を信じ、僕は資金集めと人材の確保に乗り出したのです」
ナカタのヤツ、こんな純粋で真面目な人間まで騙して食い物にするなんて、マジで許せない腐れ外道だな。
「ですが、なかなか計画は進まず、僕は途方に暮れていました。そんな僕を助けてくれた仲間が技師仲間のヤンバ、シモクボ、オゴーチ、クロベの四人だったのです」
「その四人は……」
「はい、僕よりも先にこの村の水害を助けようとここに向かい、水害で命を落としました……僕は、どうしても資金とこの村の住人の新たな住処を確保する為にすぐにここに来ることが出来なかったのです」
アスワンはそういう事情で遅れたから一人助かったわけだが、仲間全員を失ったとなるとそれは辛いものが有るよな。
「ここの村の住人達の新たな住処とは?」
「はい、僕にダム建設を協力してくれると言ってくれた方は、もうすぐ大災害が来るので、その前に村人を説得して全員立ち退かせろと言っていました。ですが、それだけでは村人が路頭に迷ってしまうので、僕はどうにかこの村人達が移住できる場所を探していたのです」
やはりそういう話か、ナカタはこの村を助けるつもりなんて無かったワケだ。
むしろ村が水没すれば、邪魔者がいなくなり、そこに巨大ダムを造る予定だったのだろう。
しかしそれを良しとしないアスワンが村人の為に動いていたという事だな。
「どこの貴族も僕の話をまともに聞いてくれる人はいませんでした、しかし一人だけ……僕の話を聞き、村人の移住先を用意してくれるという方がいたのです!」
捨てる神あれば拾う神ありだな、本来ならその人のおかげで本来ならここの村人達は水害で亡くなる前に助かるはずだったのか。
「その方とは? 誰ですか??」
「ウンガ子爵のお嬢様、パナマ様です。あの方は狭い土地でよければと言って、僕達村人全員の移住を快く引き受けてくれました。また、資金も可能な限り提供してくれると約束してくれたのです」
立派な貴族様もいるもんだな。
「パナマ、か。久々に聞いた名前だな。そうか、彼女は元気だったのか?」
「はい、パナマ様はお元気です。貴女は? もしやパナマ様のお知り合いの方ですか?」
「私はファンタ―ジェン・フォルンマイヤー。パナマとは古い友人だ」
「も、もしかして貴族様でしたか! これは、大変申し訳ございませんでした!!」
アスワンがフォルンマイヤーさんに深々と頭を下げた。
「いい、気にするな。今はそれどころではないのである」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
アスワンはフォルンマイヤーさんに頭を下げ続け、少し落ち着いてから話の続きを始めた。
「パナマ様のおかげでどうにかこの村の人達の移住先も確保出来、僕は村人を説得する為にここに戻ってきたのです。ですが、僕が戻ってくる前に大雨で村はこの有り様になってしまったのです……」
そりゃあやるせない話だ。
せっかく良い話を持ってきたと思ったのに、肝心の村は水没し、仲間は全員が死亡……これで冷静でいろという方が無理に決まっている。
まだ確証は出来ていないが、この水害がナカタによって仕組まれたものだったとすれば、アイツはこの村を水没させてから邪魔者がいなくなってダム工事に取り掛かるつもりだったとも考えられる!
ここでオレが出来る事は、やはりゴーレムを使ってダムを造る事か。
オレはアスワンに自分の考えを伝えてみた。
「アスワンさん、貴方はもうここにダムを造るのを諦めるのですか?」
「僕だって諦めたくない、でも……僕にはもう仲間もいなければ、守るべき村も無いんだ……」
その時、カシマールが呟いた。
「アスワンさん、アナタの仲間達が、アスワンさんに伝えたい事があるみたいなのだ……」
「何だって!? それはどういう事だ」
「アスワンさん、カシマールは死者の声が聞けるネクロマンサーなんです」
カシマールがネクロマンサーだと聞き、アスワンは彼女の言う事を仲間の言葉だと信じたようだ。
「アスワン、オレ達の事は気にするな。お前はお前のやるべき事をやり抜いてくれ。そう言っているのだ」
「僕のやる事……でも、僕はお前達がいないと……もう、無理だよ。終わりなんだ」
これだけ心が折れてしまっていると、もうこのままでは立ち直れないな。
だけどこのままアスワンが折れたままだと、ここにナカタの手下がやってきてこの村は何もかもを失い、ダムの底に沈んでしまうだけだ。
くそっ、そんな事させてたまるか!
「アスワンさん、オレに任せてくれないか。貴方のやりたかった事、オレが手伝ってやるよ」
「コバヤシさん、そんな……本当ですか!!」
これはただの人助けじゃない、ナカタの悪事を露呈させる事と、アイツの野望を挫く事だ。
オレはコンゴウを呼び、作業に取り掛かった。
コンゴウはオレの指示通りに動き、彼のおかげで水没した村の水は大半を汲み出す事が出来た。
そしてオレはフォルンマイヤーさんに無理言って用意してもらった石灰石と砂利を集め、モッカに呼び出してもらったカエントカゲの炎でそれらを高温で焼き、コンゴウの手で力任せに捏ね出した。
オレが作っているのは大量のコンクリートだ。
だが、オレはこれを工事の為に使うわけじゃない。
「お兄さん、話が出来たのだ。彼らは四人ともお兄さんに協力すると言っているのだ」
「わかった、それじゃあ四人とも、ヤンバ、シモクボ、オゴーチ、クロベ……オレに力を貸してくれ! 行くぞ、ゴーレム、出てこい!!」
オレは大量のコンクリートから四体のゴーレムを作り出した。
さしずめ、コンクリートゴーレムといったところか。
四体のコンクリートゴーレムは、まだ半生状態と言えるものだった。
まあ、ここで下手に土、岩、金属、木等でゴーレムを作り出したとしても、耐久性が低くなりそうだったので、あえてコンクリートを素材にしてみたってわけだ。
雨はまだ降り続き、コンクリートは高熱を発する状態にはならないと見た上での判断だ。
一般的にコンクリートが乾くまでにかかる時間は28日と言われている。
だがそこまで時間を待っているほど余裕があるわけではない。
だからここでやる事はコンクリートを使ってダムを造るよりは、一度土を練り固めて堤防にする方が確実だろう。
だがそれはあくまでも一時しのぎであり、この水没問題を解決するにはやはりコンクリートを使った工事が必要になる。
さて、もしそれだけの技術を持つ技師がいたとして、どれくらいの期間でこの工事を完成させられるのだろうか?
それなら力業でも巨大なゴーレムを用意し、一気に突貫で壁を積み上げてダムを完成させてしまった方が良いだろう。
よし、作業開始だ!!