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第47話 アスワン……ハッタ??

 ハイダム村で事故が起きてからもう二十四時間は軽く過ぎている。

 どうやらハイダム村はボリディア男爵の領地のオレ達が登って来た盆地の反対側の川を下った場所にある村のようだ。


 話に聞くとこの村も大雨が原因で度々水害が起きた場所だったらしい。

 そして村人が何度もこの村を助けてほしいと嘆願に訪れたのだが、悪徳貴族のボリディア男爵はそれを一切聞かずに追い返していたらしい。


 オレ達は雨の中でコンゴウの手の上と肩に乗せてもらい、ハイダム村に向かった。

 古代文明の集大成ともいえる巨大ゴーレム、コンゴウは激しい雨や押し迫る水をものともせず、大雨の洪水の中を一気に駆け抜けてハイダム村に向かってくれた。


「コバヤシ……これは、一体何なのであるか?」

「フォルンマイヤーさん、コイツはコンゴウ、古代文明が作り出した最強のゴーレムです」

「まったくお前は、私の想定を軽く超える事を平気でやらかすのだな」


 フォルンマイヤーさんはコンゴウの手の上でオレとコンゴウに感心していた。

 そしてコンゴウは山を下り、川のふもとの大きな池に到着した。


 いや、ここは池ではなかった。

 ここは……大雨で水が流れ込んで水没した村だったようだ。


 それはあまりにもひどい光景だった。

 家だった残骸が澱んだ水の中に浮かび、他にも逃げ切れずに死んだ死体が池の上に浮かんでいる。

 村は大半が水の底に沈み、生き残る事が出来た人達はほとんどいなかったようだ。

 わずかに残った人達は高台に逃げ延びる事が出来たから助かったわけで、それ以外の人達は鉄砲水に押し流されてしまったらしい。


「ひどいっ、こんなにもみずびたしだなんてっ」

「聞こえるのだ、溺れ死んだ人達の悲しみと苦しみの声が……」


 オレ達はどうにか生き残ったまま板の上等で動けない人達を助ける為、コンゴウに手のひらから降ろしてもらい、小高い丘の上に移動した。

 ここにはわずかに生き残った人達が着の身着のままで恐怖に打ちひしがれていた。


「皆の者、安心するがいい。私は王国騎士団団長、ファンタ―ジェン・フォルンマイヤーである。今王都からここに救援の要請を出しているので、ここでは私の指示に従ってほしいのである!」


 こういった時に王国騎士団長の肩書は重要だな、混乱と恐怖の中にいた避難民達はフォルンマイヤーさんの話を聞き、素直に従った。

 それも彼女のカリスマ性と魅力と言えるところなのだろう、流石は生まれながらの貴族、ノブレスオブルージュというべきか。


 さて、オレ達はオレ達で出来る事をしよう。

 オレの出来る事と言えば、ゴーレムマスターのスキルを使っての人助けだな。


「コンゴウ、力を貸してくれ!」

「グォゴゴゴゴ……!」


 コンゴウはその巨体で池に手を突っ込み、溜まった水を汲んでは下流に投げ捨てた。

 流石は超巨大ゴーレムというべきか、コンゴウの一度の水掬いで数百リットルにあたる水が水没した村から放出された。

 それを何度か繰り返すだけで、水没した村の水はあっという間に激減した。


「かわのいきものっ、モッカにちからをかしてくれっ」

「ピキィイッ!」


 モッカが指笛を吹くと、濁った水を掻い潜ってイルカのような生き物が姿を見せた。

 どうやらモッカの魔獣使いのスキルは陸海空場所を選ばないようだ。

 イルカのような生き物は、木の板の上に取り残されていた人達を助け、その背中に人間を乗せて小高い丘の下まで連れてきてくれた。


 カシマールは村人が拾って来た死体を見ては、その魂を天に送っているようだ。


 オレ達はそれぞれが全員、自身の出来る事でこの水没したハイダム村の復興作業に取り掛かっていた。

 そんなオレの所に一人の男が現れた。


 バギッッ!!


「アンタが、噂のゴーレムマスターか。アンタがもっと早くにここに来てくれていれば……」


 男は悔しそうにオレを殴り飛ばした。

 いきなりの男の態度に驚いたオレだったが、どうやら何か事情があるのだろう。

 オレはそのまま男に殴られ続けた。


「くそっ! くそっ!! もっと早く、もっと早くアンタが来てくれれば!!」

「アンタ、誰なんだよ……?」


 流石に何度も殴られ続けるのは、オレにも限界ってもんがあるぞ。

 オレは殴ってきた相手の手を掴み、背負い投げで地面に叩きつけた。


「ぐはっ!!」


 男はまさか自分が反撃されるなんて思っていなかったのだろう、その場にあおむけになった男はその場で見た目も気にせずに号泣していた。


 これは少し放っておいた方が良いのかもしれないな。

 オレは泣きじゃくる男をその場に残し、作業を続けた。


 彼はいったい誰だったのだろうか??


 その疑問はその後に解消されることになった。

 生き残った村人達は、ボリディア前男爵の支援による炊き出しで食事を用意してもらったらしい。

 オレ達も夜になり、その食事をいただくことになった。

 その時、昼間の男がオレの所にやってきて、深々と頭を下げた。


「すまない、みっともないところを見せてしまった。あなたは何も悪くないのに、僕のせいで怪我させてしまい、申し訳ありません」


 オレに頭を下げたのは、昼間の男だった。

 だが昼間の興奮した様子とは違い、冷静さを取り戻せたようだな。

 今の彼なら話をできるかもしれない。


「大丈夫ですよ、これくらいなら問題ありませんから。それより、貴方は誰なんですか?」

「僕は、アスワン・ハッタと言います。この村の者です」


 彼は自らをアスワン・ハッタと名乗った。

 アスワンはオレにいったい何の用があったのだろうか。


「アスワン・ハッタさんですね。オレは小林(こばやし)太(たい)盛(せい)、ゴーレムカンパニーの社長をやってます」

「ゴーレム……カンパニー。そうですか、貴方がいてくれれば、この村はこんな事にならなかったのに……」


 昼間も聞いた話だったが、アスワンはオレに会いたかったらしい。

 しかし、一体どういった用件でオレに会いたかったのだろうか?


「申し遅れました、僕はアスワン・ハッタ。この村出身の土木技師です」

「土木技師、それでオレに会いたかったのか」

「そうです、僕はこの村がこのようになる事を避けたかったので、貴方を捜していたのです」


 成程、少し深刻そうな話みたいだな。

 オレはアスワン・ハッタの話を聞いてみる事にした。


「アスワンさん、それで、オレに何をさせたかったのですか?」

「コバヤシさん。僕は、この村にダムを作りたかったのです」


 ダムを造る、それはこの世界にはまだ存在しない言葉のはず。

 しかし、彼はダムと言っていた。

 つまり、この件にもナカタが絡んでいる可能性は高いというワケか。


 アイツ、マジでどこにでも現れては地元民を不幸にするやつだな。


「ダム、ですか。アスワンさんはダムというのがどのような物かわかっているのですか?」

「はい、ダムとは、巨大な堤防、川をせき止める為の巨大な壁のような物の事です」


 どうやら知識としては間違っていないようだ、ナカタのヤツ、この村でも金儲けのために何かタチの悪い策を考えていたんだろうな。


「土木技師だった僕は、他の土地で工事を手伝っている時にダムという建造物の事を聞きました。この村を水害から守る為にダムを造ろうと考えたのです。しかしそのダムを造る為には莫大な費用と人材が必要と知り、僕は仲間達と一緒に資金集めや人材の確保に出かけていたのです。ですが、僕は村が水害で壊滅したと聞き、ここに戻って来たのです」


 そうか、それでオレは能力があるはずなのに水害を見殺しにしてそのダム事業を手伝ってくれなかったと思い、アスワンはついカッとなってオレに手が出てしまったというワケか。


 ここはきちんとアスワンと話をした方が良さそうだな。

 オレは、アスワンの話の続きを聞く事にした。

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