とにかくあの崖の向こう側から前男爵を助け出さなくては。
その為にはここに吊り橋を作る必要がある。
吊り橋を作るなら、オレの知る方法で一番適しているのはドローンを使う事だろう。
だがこの世界にはドローンなんて存在しない。
もっと原始的な方法なら、対岸にいる人に向かい石を遠くに紐をつけて投げるといったやり方で二人でロープを張ったり、長いロープを作り谷底まで下ってから再び山の反対側に出てロープを張り直すといったやり方もある。
だが、このやり方はどちらもここでは通用しない。
反対岸にいるボリディア前男爵は体力が落ちていてロープを張る作業が出来る状態でない上に、この崖底がどこまで行けば底にたどり着くのかまるで見当がつかない。
だからどちらの方法も使えないといったワケだ。
そうなると、どうやってあの反対岸にロープを張る事が出来るのか、やはり……空を飛ぶ何かに頼るしかないか。
「こばやし、なにかてつだうかっ」
「モッカ、何か空を飛べる仲間を呼ぶ事は出来るか?」
「わかったっ、すぐにこのあたりにいるとりをよぶっ」
モッカが口笛を吹くと、鳥が現れ、モッカの周りをくるくると回り出した。
「よし、それじゃあその鳥にこのロープを括りつける事が出来るか?」
「わかった、でもすぐほどけるようにしてあげてほしいっ。このこそんなにちからつよくないっ」
「わかった、向こう岸に着いたらひもを何かの木に括りつけてくれ」
「わかったっ、こばやし」
モッカはダイブイーグルの足に石のついたロープを括りつけ、向こう岸に向かって飛ばした。
向こう岸に到着したダイブイーグルは足に括りつけられたロープを外し、モッカの命令通りにその辺りにあった太い木に括りつけてくれた。
その作業を何度か繰り返し、ロープはどんどん太くなり、それは頑丈で人が乗っても大丈夫なくらいになった。
よし、次は木を用意しないと。
オレはコンゴウにその辺りに生えている木を抜いてくれと頼んだ。
すると、コンゴウは一気に数本の木を引き抜き、その場所は小さな山のように土が盛り上がってしまった。
「オイオイ、やりすぎだ! もっと小さいのでいいんだ!」
「ゴゴゴ……」
どうやらコンゴウは力が強すぎて、こういった細かい系の作業には適していないのかもしれない。
オレは、別の方法を考える事にした。
ゴーレムは命を持っていない物体なら、何からでも作り出せるのだろうか?
それなら、ここでこの引っこ抜いた木をゴーレムにしてみるとどうなるだろうか。
「ゴーレム、力を貸してくれ!」
「モゴゴゴ……」
どうやら木からでもゴーレムは作り出せるようだな。
オレは人間より少し大きめのウッドゴーレムを作り出し、吊り橋を作る作業を指示した。
クレイゴーレムやストーンゴーレムでは自身の重みで木が折れてしまうので、軽量で作業するならウッドゴーレムが最適とオレは考えた。
コンゴウには手で木を押さえつける役目を頼んだ。
これで崖から飛び出た部分で作業をしても、木が重みで崖の下に落ちる事が無くなったと言える。
強すぎる力のコンゴウには。今は重しになってもらおう。
コンゴウは座ったまま、手で木を上から押さえつけている。
傍から見ると何ともシュールな光景に見えるだろう。
だがこれくらいの力でないと、コンゴウが全体重をかけたら崖が崩れてしまう。
これくらい力を抜いて木を押さえつけていて丁度と言えるくらいだ。
コンゴウが崖から飛び出た部分の木を反対側で押さえつけてくれたおかげで、ウッドゴーレムは順調に作業を進め、吊り橋は数日で完成した。
「ま、まさか……そんな」
もう二度と父親を連れてこられるわけがないと高をくくっていたボリディア男爵は、オレ達が前男爵を吊り橋の向こうから元男爵を連れて来た事で完全に心が折れてしまったようだ。
「この……馬鹿者がぁ!!」
ボロボロの姿だった前男爵は、ふがいない息子を大声で怒鳴った。
どうやら前男爵は体力的には弱っているようだが、体には不具合は無さそうだな。
前男爵が証人となり、ボリディア男爵の用意した書類が本人の許可を得ない偽造品だった事が判明し、男爵は逮捕されて王都に連行される事になった。
そして今まで男爵が牛耳っていた領地は、前男爵が統治するようになり、水は足りない土地に無償で配られ、魔鉱石パネルのエネルギープラントは廃止、貴族の為だけに作られたスポーツハンティング場は誰もが入れる土地として開放された。
成程、有能な父親に嫉妬した二代目にナカタが付け入り、自らの手下として私腹を肥やしたというワケだな。
実際、前男爵は有能で、彼は今までボロボロになっていた領地の問題を次々と解決していった。
「フォルンマイヤー嬢、貴女がたのおかげで助かりました。わたしはもう二度とあの場所から出られないものだと諦めておりました。でも死ぬわけにはいかない、あのバカ息子のせいで多くの領民が苦しめられているとなると死んでも死にきれないと思っておったのです」
「ボリディア男爵殿、今回の件、解決できたのは私の力ではありません、ここにいるコバヤシ達がいたから出来た事なのです」
フォルンマイヤーさんはオレ達の事をボリディア前男爵に紹介してくれた。
「おお、貴方のおかげでしたか。貴方は素晴らしい能力をお持ちのようだ。その力、是非ともこれからも人々の為に使ってください」
ボリディア前男爵は皺だらけの乾いた細い手で、しっかりとオレの手を握り締めて来た。
「わかりました、オレに出来る事でしたらご協力致します!」
「ありがとうございます。貴方は……凄いものをお持ちなのですね」
凄いもの、それはあのコンゴウの事なのだろうな。
「アレはこの地に伝わる伝説の黄金の巨人、そうですか……貴方がその主人というワケですね」
前男爵はバカ息子とは違い、別の意味でオレとコンゴウの事に興味を持ったようだ。
「流石です、貴方がたのあの力が無ければ、私はここには二度と戻れなかったでしょう」
「そ、そんな。オレ達は……」
ここで謙遜するのもなんだが、だからって恩を着せるわけにもいかない。
さてどうしたもんだか……。
そう思っていた時、丁度誰かが屋敷の中に血相を変えて飛び込んできた。
「男爵様、大変です! ハイダム村が、水没してしまい、壊滅です!!」
「な、何だと!? それはどういった話だ!」
「え? 貴方は、前男爵様? お亡くなりになられたと聞いておりましたが」
伝令も今の状況についていけず混乱しているようだ。
だが、前男爵は状況を冷静に判断し、的確な指示を出していた。
「いいか、村に生き残りがいたらすぐに助け出すのだ。金や人員はどれだけ投入しても構わん!」
前男爵はあのドクズの馬鹿息子と違い、人員や金、資材を一気に投入して村の危機を救おうとしている。
「すみません、コバヤシ様。わたしは急用が出来てしまい、これ以上貴方がたをお構いする事が出来なくなってしまいました」
「ボリディア男爵様! オレ達も何か手伝わせてくれませんか! ハイダム村ってどこになるんですか」
「まさか、貴方がたは、縁もゆかりもないハイダム村の人達を助けようというのですか?」
「今苦しんでいる人達がいるんだ、そんな事言っている場合じゃない!」
ボリディア前男爵は何か考え事をした後、オレ達の方に向かい話しかけてきた。
「わかりました、貴方がたにお渡しするものが有ります、是非受け取ってください!」
オレ達は前男爵に呼ばれ、彼の執務室に向かう事になった。
「これをお受け取り下さい、この領地の通行許可証です」
「こ、これは??」
「これさえ有ればこの領地で行けない場所はありません。さあ、一刻も早くハイダム村に向かってください!」
オレ達は前男爵に発行してもらった通行許可証を手に、大事故のあったというハイダム村に向かった。