こんなどうしようもないクズ、マジで存在するんだな……。
ボリディア男爵は一貫して自分は悪くない、と主張し続けている。
これだけ多くの人を苦しめ、そして環境を破壊している時点でお前は真っ黒中の真っ黒だってのに。
今でもやれこのロープを解けだの、何か飲ませろだの、五月蠅いたりゃありゃしない。
「そ、そうだ。お前、ワシに仕えんか? そうすれば庶民が一生かかっても稼げないような金をお前にやろう、そうすればお前はもう働かずに遊んで暮らす事が出来るんだぞ!」
お断りだ、誰がそんなくだらない提案に乗るか。
オレは仕事もせず、遊んで暮らすようなことにはまるで興味が無いんだよ。
まあ、そんな言い方をするとワーカーホリックみたいに聞こえるかもしれないけど、仕事が生きがいみたいなモンなのは間違いないよな。
「お断りだ、誰がお前の部下なんかになるか!」
「下手に出ればつけあがりおって、キサマなぞワシが命じれば国王陛下に言って処刑してもらう事もできるんだぞ!」
あーあ、いるんだよね。こういった権力を勘違いした馬鹿って。
コイツ、オレがダイワ王と面識があるって知ったらどんな態度に出るんだろうか。
まあ馬鹿馬鹿しいから相手するのも面倒だ、とにかく一度コイツを屋敷に連れて行くのが先だろう、そこで悪事の証拠を本人に白状させればこんな態度も取れなくなるってもんだ。
オレ達がボリディア男爵の領地に着くと、男爵の部下達は手出しもできずにオレ達を見ている事しかできなかった。
まあ、オレの後ろには遠くからでも見てわかる超巨大なゴーレム、コンゴウの姿があったので、これを相手に戦おうというヤツはいないだろうけどな。
「だ、男爵様……一体これはどういう事ですか?」
「いいか、黙って門を開けろ、コレは命令だ」
オレ達はボリディア男爵を先頭にし、屋敷の中に入った。
そして男爵はロープで縛られたまま、椅子に座らされる事になった。
「キサマら、これで勝ったと思うなよ、今頃王都に書簡が届けられているはずだ、そろそろ使者がここにやってくる。そうすればキサマらのやって来た事が貴族に対する不敬罪だと伝わり、キサマらもオシマイだ!!」
コイツ、そういうところは抜かりがないというワケか。
しかし下手に王都から使者を呼ばれたら、話がこのままというワケには行かなそうだな。
そして、数時間後、屋敷に誰かが訪れた。
「ボリディア男爵、お前には聞きたいことが山ほどあるのである!」
この声は……ひょっとして。
「あ、貴女は、騎士団長の……フォルンマイヤー様ではありませんか、なぜ貴女様自らがこのような場所に?」
どうやらボリディア男爵が呼ぼうとしたのはフォルンマイヤーさんではないようだ。
それはあの男爵の挙動からも感じられる。
「私はお前の領地で何が起きているのか、それをこのコバヤシに聞かれ、その実態を調査する為に王都からここに来たのである。いいか、ここにいる者達に告げる、今から誰も動くな、コレは王命である!」
男爵の顔色がみるみるうちに変わった、どうやらオレ達が騎士団長のフォルンマイヤーさんと顔なじみだという事を知り、今の状況が自身にどれだけ不利かを感じたらしい。
「ひっ、ひいいい。ワ、ワシは悪くない。コイツらがワシの領地で好き勝手に暴れたのを自治権で鎮圧しようとしたまでの事だ!!」
「黙れ、お前には書類偽造、親族殺害、それに領地における領民への度重なる搾取からの脱税、他にも数えればキリがない容疑がかかっているのである!」
「ひぇえええー!!」
どうやらフォルンマイヤーさんは、このボリディア男爵のせいで数年前から川の下流での水害が増えた事の証拠の裏打ちをしていたようだ。
そしてそれらの証拠を突き付け、男爵を逮捕する為にここに来たという事みたいだな。
「コバヤシ、ここに来る前に山の斜面を見たが、あの板を壊したのはお前達だな。あんな事を出来る奴が他にいるわけがないからな」
あら、バレてるのね。
フォルンマイヤーさんは意地悪くオレに微笑んだ。
まあ、あれだけの立ち回りをすれば、そりゃあ言い逃れは出来ないな。
「まあその件についてはまた後程話すのである、誰か、男爵を私の前に連れてこい!」
ボリディア男爵は観念し、兵士達によってフォルンマイヤーさんの前に引き出された。
「ボリディア男爵、お前は前男爵を廃し、自らが後継者と名乗り、この領地を乗っ取った、その件に間違いはあるまいな!」
「そ、そんな事はございません。ワシは亡くなった父に代わり、この土地を治めるように言われ、その責務を全うしただけでございます」
どうやらボリディア男爵は父親が亡くなったので後を継いだと言っているようだ。
でもそれが本当かどうかを知る方法は、オレ達にはあるんだけどな。
「カシマール、少し調べてくれないか? 前男爵は本当に亡くなったのか、もしそうだとしたらどんな死に方をしたのか、それを調べてほしい」
「わかったのだ、ボクがやってみるのだ……」
ネクロマンサーであるカシマールは死者の声が聞ける。
つまり、本当に前男爵が死んでいたら、その声を聞き、事実を明らかにできるというワケだ。
「ダメなのだ、声が聞こえないのだ」
「ワッハッハッハ、死人の声が聞けるわけがないだろうが!」
「違うのだ、死んでいないのだ。前男爵は、どこかに捕らわれているのだ」
成程、そういう事か。
つまり、ボリディア男爵の父親は下手に殺すわけにもいかず、どこかで幽閉されているというわけだ。
しかし一体どこに捕らわれているというのだろうか。
「ボリディア男爵! お前は虚偽の発言をしたのだな、これは国家に対する反逆なのである! 直ちに前男爵をどこに捕らえているのか、伝えるのである!」
「フン、例えわかった所で助け出す事なんて出来ないんだよ!」
開き直ったボリディア男爵は、高笑いをしていた。
「あのジジイ、なかなかくたばらないからな。最低限の食事だけはやっているがそれでももう長くは持つまい。そうすれば今度こそワシが正式に男爵になるのだ!」
オレ達はボリディア男爵を問い詰め、前男爵がどこに捕らわれているのかを知った。
すると、前男爵は崖の向こう側の小さな陸地に作られたボロ小屋に捕らわれていることが分かった。
「ここの吊り橋を壊した事で、もう誰も死ぬまでアイツを助ける事は出来ないんだよ、まあ最低限の食事は鳥に届けさせているので当分死ぬことは無いけどな。ワシをいつまでも後継者にしなかったからこんな目に遭ったんだ、ざまあ見ろ!」
確かに、あそこに行くには吊り橋が無いと無理だ。
だが、この世界であんな場所に行く吊り橋を作るには、かなりの技術と労力を要する。
ボリディア男爵はそれをわかった上で前男爵をあの崖の向こうの陸地に追いやり、吊り橋を落として飼い殺しにしたというワケか。
「こ、この卑怯者! お前には貴族の誇りが無いのか!」
「フン、ワシを追い詰めようとしても、証拠が無ければ罪には問えまい。どうしてもこの書類が偽造だというなら、あそこにいる前男爵を連れてこればいい、出来るならの話だがな!」
ボリディア男爵が言うには、手元にある書類には印が押されているでそれが偽造だと証明できるのは書類を書いた本人である前男爵だけだと言っている。
だが、その肝心の前男爵は追い詰められた崖の向こうで吊り橋を落とされ、誰一人として連れてくる事が出来ない。
コイツ、ここにはそれだけの技術力が無い事を知っていて前男爵を連れてこいと言っているんだな。
この馬鹿そうな男爵にそんな狡猾な知恵が出せるわけがない、この件も間違いなく裏でナカタが入れ知恵をしていたのだろう。
よし、それならこちらも度肝を抜いてやろう!
現代建築の技術を見せつけてやる!
オレは崖の向こうから前男爵を助け出す方法を考えた。