凄まじい威力だ……!
古の文明が生み出した超巨大ゴーレム、コンゴウの放ったビームは、遺跡の天井を焼き砕き、その光は空高くまで貫いた。
きっとその光の柱ははるか遠くまで見えたに違いない。
オレ達は改めて古代文明の生み出した最強の巨人の力に驚いていた。
「す、すごいっ、そらがみえてるっ」
「ここにいる人は、これでもこれはコンゴウの力の一部だと言っているのだ……」
カシマールもモッカもオレも全員が乗れるほどコンゴウの手は大きかった。
そしてコンゴウはオレ達を手に乗せたまま、空に舞い上がった。
コイツ、空まで飛べるのか? まるでスーパーロボットだな。
だが、どうやら本当は空を飛んだのではなく、足を曲げて大きくジャンプしただけのようだった。
そうだとしても数百メートルジャンプできる時点で凄いんだけどな。
コンゴウはオレ達を手の上に乗せたまま、遺跡を突き破りウユニの泉に到着した。
あー、ビックリした。
オレ達はコンゴウにゆっくりと地面に下ろしてもらい、周りを見渡した。
すると、オレ達は完全に何者かに囲まれていた!!
「まさか、本当に伝説の巨人が存在するとはな。ご苦労だったな。お前達はその巨人と共にワシの下僕になるのだ! 逆らうと村人の命は無いぞ」
くそっ、この腐れ外道め。
どうやらあの中年太りの小男がボリディア男爵らしいな。
「ワシの魔鉱石パネルを粉々に壊したのもお前達だな、絶対に許さんぞ!」
ナカタの口車に乗って村人を苦しめ、そして魔鉱石パネルで私腹を肥やそうとしていたのがこのボリディア男爵というわけか。
そして今は村人を人質にしてオレ達を捕まえてコンゴウを自分のものにしようというワケだな。
くそっ、そうはさせるか!!
「お前達には礼を言わねばならんな、まさかこんな所に良質の塩田があるとはな。さあ、村人をここに連れてきて掘り起こさせるとしようか」
「お前は、どれだけの人を苦しめれば気が済むんだ!!」
「おっと動くな、お前達が動けば、村の水に毒を流し込むだけだ。確か……カドミウムとかいったかなぁ??」
やはり、この件の裏にいるのはナカタで間違いないな。
アイツはこの異世界で放射性物質やカドミウムといった有害で猛毒の物を為政者の悪徳貴族に渡して住民を人質にするやり方を得意としているようだ。
アイツにとってこの世界は金儲けの場所で水質汚染とか環境破壊なんてことは二の次なのだろう。
典型的なブラック企業の社長ムーブ丸出しだな。
しかし、下手にカドミウムを水に流されてしまうと、折角助かったコチャバン村の人達が……。
くそっ、ここは従うしかないのか……。
オレはコンゴウに手出しをさせないように命令し、ボリディア男爵達の手下に捕まった。
このままではあのボリディア男爵、いや……下手すればナカタにコンゴウを奪われてしまう。
一体どうすればいいんだ……。
だが、そんなオレを助けてくれたのは意外な人物だった。
「な、何だお前は!」
「あら、ずいぶんな言い方ね、アタシの水をそんな汚らしいものでどうしようというの?」
この声は……!
「誰だ! お前は!?」
「あら、アタシはそこのコバヤシのお友達よ、よろしくね」
この飄々としたしゃべり方、間違いない、アレは水の魔王ベクデルだ!
「アンタ達、水を汚すって事はアタシにケンカを売るって事なの、わかってるのね?」
「で、出たぁ! バケモンだ!!」
「あら失礼ね、こんな美しいアタシをバケモノだなんて」
ベクデルは霧を巻き上げると、水のシャワーを細長い針にして一気に突き刺した。
ボリディア男爵の手下達は突如の乱入者に驚き、あっという間に蹴散らされた。
「ふ、ふざけるなっ。こんな奴がいるなんて聞いていないぞ!」
「あら、もうおしまいかしら」
ベクデルはおれたちの方を見ると、縛られたロープを水のカッターでスパッと切ってくれた。
「アンタ達、お人よしよね。あんな村人なんて放っておけばいいのにね」
「あ、ありがとう。おかげで助かったよ」
「あら、アタシはあの連中が水を汚そうとしたのが許せなかっただけよ、勘違いしないでね」
そう言ってベクデルは空中に舞い上がり、笑いながら姿を消した。
「アハハハハハ、さあ、後は人間同士で決着をつけるのね、頑張ってねー」
ボリディア男爵は部下がことごとく倒されたのを見て、半狂乱になっていた。
「そ、そうだ。お前達に恐ろしいものを見せてやろう!! 見るがいい!!」
そう言ってボリディア男爵が呼び出したのは、車輪のついた魔鉱石パネルを並べた車両だった。
「どうだ、コレは魔鉱石の力を一気に集めてどんな敵でも焼き払う最強の武器だ! コレがあるかぎり、ワシに逆らうものなんて全て消し炭にしてやるからな!!」
どうやら魔鉱石パネルをエネルギーにした移動式砲台、つまり簡易式戦車といったところか。
アレはナカタが与えた武器に違いない。
アイツ、異世界人にいらないものを与えて調子に乗らせているみたいだな。
「さあ、跪いて命乞いをしろ、それでもむごたらしく殺してやるからな。ワシの水利権だけでなく魔鉱石パネルまで無茶苦茶にしおって、殺しても飽き足らんわ!」
下卑た笑いのボリディア男爵はオレ達に狙いを定めて魔鉱石砲を撃って来た。
「コンゴウ、オレ達を守ってくれ!」
「リョウカイ、マスター!!」
コンゴウの手が伸び、オレ達を庇ってくれた。
そして、魔鉱石砲の直撃を受けたはずのコンゴウの手は、傷一つ付いていなかった。
「な、何だと!? あんな金で出来たようなものが、焦げ一つ付かないというのか?」
どうやらボリディア男爵は見た目だけでコンゴウを黄金で出来ていると思い込んでいたようだ。
コンゴウの機体は古代金属のオリハルコン、そんなものでは傷一つ付かないだろう。
想定と違った結果に、ボリディア男爵は驚き、その場にへたり込んでいた。
「コンゴウ、あの砲台を壊してくれ!」
「リョウカイ、砲台……破壊スル!」
オレはコンゴウを戦わせるつもりは無い、あくまでもこれは妨害に出てきた敵を無力化する為の行動だ。
コンゴウもそれを理解してくれているのだろう、コンゴウは人間には一切攻撃を加えず、その巨大な手で魔鉱石砲台とパネルだけを持ち上げ、両手でバラバラに砕いた。
「ひ、ひぃぃぃぃ!!」
「どこへにげるつもりっ? モッカはおまえをゆるさないっ!!」
どうやらモッカはこの辺りにいた魔獣、スカイコンドルを呼び、ボリディア男爵達をボコボコにしたようだ。
「アンタ達の身体を縛らせてもらうのだ! 覚悟するのだ!」
カシマールは浮遊霊の力を借りてロープでボリディア男爵達をグルグル巻きにして縛り上げた。
これでようやくオレ達は無事にこの場を切り抜ける事が出来たワケだ。
「さて、コイツらをどうしようか」
「は、離せっ! ワシは男爵だぞ。キサマら下賤の者がワシに逆らうなんて……」
「うるさいっ、だまれっ」
ボリディア男爵はモッカの呼んだスカイコンドルに何度も突かれ、ようやく大人しくなったようだ。
さて、コイツをどうしてやろうか。
とりあえずオレ達は男爵を人質にし、彼の屋敷を目指す事にした。
その途中で見たものは、ナカタとボリディア男爵がどれだけこの住民を苦しめていたのかを証明するような格差のある場所だった。
オレ達が歩く道は、綺麗に舗装され、水が滔々と湛えられたスポーツハンティング場だった。
いうならば、自然を壊して作り上げた作り物の森で、まるで会員制超高級ゴルフコースやテニスコートといったところか。
ボリディア男爵とナカタ達はこんな物を作る為に多くの住民達を苦しめ、搾取していたというワケだ。
マジで許せんな……。
「な、何だその顔は、ワシは悪くない。ワシは土地と人員を提供しただけだ、悪いのはあの異世界人の男だ、だから……ワシの事は見逃してくれ!!」
恥知らずのボリディア男爵はこの期に及んで自分は悪くないと自己弁護を続けた。