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第39話 水の……魔王??

 水の中から姿を現した謎の人物は、オレ達を見下ろしながら質問を投げかけて来た。


「ねえ、誰なの? アタシの水をこんな汚らしいもので汚そうとしたおバカさんは!?」


 男? 女?? 謎の人物はスラっとした外見で、中性的なこの世のものとは思えないような美しさの人物だった。

 その謎の人物は水を汚されそうになった事に大変ご立腹のようだ。


「ひっひいいぃいー。ワ、ワシは悪くない。ワシは悪くない!!」


 この期に及んで村長アグアス・トナリは必死で自己弁護をしている。


「そう、そうなのね。それならこの水を飲んでみなさい」


 そう言って謎の人物は空中から作り出した水を村長の口に流し込んだ。


「!?!? ウグェェェオオオオェェエロオォッ!!」

「あら、飲みきれなかったみたいね。コレがアンタが入れようとした水の中身よ、よくもこんな物でアタシの水を汚そうとしたわね、許さないからね」


 コイツ、飄々とした態度をしているが、ものすごく強い!

 村長アグアス・トナリは体の色が次々と変色し、相当苦しんだようだ。


「そろそろ元に戻してあげるね、少しは反省したかしら」


 謎の人物は、村長アグアス・トナリの身体から毒らしいものを霧に変えて外に放出させた。

 何という魔力だ、この人物は水を自由自在に操れるのか。


「そうそう、この目障りな物、アタシが消しておくからね」


 そう言うと謎の人物は空中に浮かせた水玉の中の瓶と放射性物質を粉々に砕き、霧に変えて消し去った。


「これで無害なものになったからね、もう二度とこんな事はしない事ね」

「ひっ、ひいいいいー!!」


 村長アグアス・トナリは後ろも振り返らず一目散に逃げだした。


「ア、 アナタは……一体」

「あら、そうね。まだアタシの名前言ってなかったね。アタシは……ベクデル・ユリティーズ。人には水の魔王とも言われるわね」


 な、何とオレ達の前にいる人物は、水の魔王と名乗っていた。

 そりゃああれだけの魔力を使えるのも当然といったところか。


 というか、今回の水不足を引き起こしたのがこの水の魔王ベクデルじゃないのか!


「おまえがみんなをくるしめていたまおうだなっ、いけっさんどいーたー」

「あらあら、そんな虫けらでアタシに勝てると思ってるのかしらね」


 ベクデルは空中に水を作り出し、巨大なサンドイーターの全身にぶっかけた。

 すると、サンドイーターの身体がみるみるうちに縮み、小さな手のひらに乗るような虫になってしまった。


「ビッ。ビギィイイッ!」

「あっ、どこにいくっ!?」


 小さな虫になってしまったサンドイーターは砂漠の砂の中に逃げ込んでしまった。

 ここで怖気づいては、相手のペースに乗せられてしまう。その前に聞く事を聞き出さないと。


「ベクデルさん、アナタは水の魔王だと名乗りましたよね。ひょっとして、今回の水不足の原因を造ったのはアナタですか?」

「そうね、今回この辺りの水を枯らしたのはこのアタシ」


 やっぱりそうだった。

 それじゃあなぜベクデルは、オレ達を助けてくれたんだ? ただの気まぐれなのか。


「あら、聞きたいことがあるって顔ね。良いわ、折角久しぶりに人に会ったわけだし、少しくらいならお話に付き合ってあげるね」

「ベクデルさん、何でアナタは水を枯らしたのですか」

「そうね……義理よ、義理。アタシも封印を解いてもらった以上、何もお礼をしないってわけにはいかないからね」

「お礼、ですか?」


 つまり、ベクデルは封印を解いてもらった見返りとして、この辺りの水を枯らす願いを叶えたってワケか。


「封印を解いてもらった……って言ってましたが、相手は誰だったんですか?」

「そうね、ハンサムな顔をした異世界人だったわね、彼がアタシの封印を解いてくれたのよ。だからそのお礼に何をしてほしいかって聞いたら、この辺りの水を枯らしてほしいって言われたのよね」


 ナカタのヤツ、ここでも自らの水利権を造る為に魔王すら利用したという事か。


「でも、まさか……アタシが枯らした水よりもさらに下の地下から水を引っ張ってくるなんて、アンタ達面白いわね」


 どうやらベクデルはオレ達に敵対的では無いようだ。

 これなら話をすればわかってもらえる相手なのかもしれない。


「そうそう、この水、折角だから村まで届くようにしてあげるわね、よっ……と」


 なんと、ベクデルは水を飴細工のように練り上げ、乾ききった川に水が流れるように地下から掘り出した水の流れを一本の川に流し込んだ。

 これだけの魔力、もしこれを工事でやろうとすれば、人力なら一週間以上はかかるかもしれない。


 今は機嫌が悪く無さそうなので、話が出来るとすればこのタイミングだろう。


「ベクデルさん、お願いです。もし知っていればなんですけど、この辺りに伝説の黄金の巨人が眠っているという話を聞いた事ありませんか」


 黄金の巨人と聞いたベクデルの表情に少し綻びが見えた。


「な、何ですって……アンタ達、まさか……あのバケモノを復活させるの?」


 魔王ですら驚愕するような巨人、いったい何者なんだ。


「ま、まあ良いわ。アンタ達にあのバケモノが使いこなせるとはとても思えないけど、知りたいなら教えてあげる。ウユニの湖に行きなさい。そこに行けば何かあるはずだからね」


 ウユニ、そこにコンゴウが眠っているのというのか。


「アンタ達、ゴーレム使いなんでしょ、だったらもしかしたら使いこなせるかもね」

「え、何でアナタはオレがゴーレム使いだと知っているんですか??」

「アタシは水の魔王、だから世界中の水から情報を得る事が出来るの。そうね。アンタ達のやって来た事も色々と見させてもらったわね」


 流石は水の魔王というべきか、ベクデルはオレ達の行動を全て見ていたという。


「あの上下に開く大きな橋とか、筒を使って水を巻き上げる装置とか、人間にしては面白い方法を考えたモノね、見ていて楽しかったわ」

「えっっ、まさか……本当に見ていたんですか?」


 マジでベクデルは……オレ達の行動を、水を通して見ていたようだ、コレは本当に気を付けないといけない相手かもしれない、下手に悪口を言えば世界中のどこからでもそれを聞き取れるって事だ。

 これ以上会話を伸ばして不機嫌にさせてしまえば、マズい事になってしまう。


「ベクデルさん、ありがとうございます。オレ達は一端コチャバン村に戻ってからウユニに向かってみます」

「そう、元気でね。また、会えるのを楽しみにしているからね」


 そう言うとベクデルは水玉を作り、その中に入って姿を消した。


 ……恐ろしい相手だ、一瞬で水を操る事が出来るなんて、もし本気を出せばオレの作った建造物なんて一瞬で押し流されてしまう……。


「水の魔王……ベクデル、恐ろしい相手だった」


 実際もしベクデルが本気を出していたら、オレ達は全滅していただろう。


 オレ達はその場に残ったアグアス・トナリの手下達をロープで縛り、コチャバン村に戻る事にした。

 捕まえたオレ達を縛り上げるつもりで持ってきたロープで、反対に自分達が縛られるなんてある意味皮肉なものだな。


 そしてオレ達がコチャバン村に到着すると、村では水が川に戻った事を喜んだ人達で大騒ぎになっていた。



「ここがウユニね。あら……辺り一面の水、これじゃあ入れないわよね」


 水の魔王ベクデルは、ウユニ一面に張っていた鏡面のような水と周囲の川の水を魔力で空中に舞い上げ、全てを巨大な水球とし、自らの身体に取り込んだ。


「ぺっぺっぺ、なんて塩辛い水なの! こんなのを取り入れたらアタシの身体が弱ってしまうわね。コレはいらないから全部捨てちゃいましょう!」


 ベクデルは水の中に含まれていた塩を全て辺り一面に撒き散らし、ウユニ周辺は雪のようになり、ウユニは湖から塩の振り積もる大地と姿を変えた。


「これで準備は出来たわね、あの子達……ここに来れるかしらね。さあ、アタシは他の復活した魔王ちゃん達に久々に会ってこようかしらね」


 そう言ってベクデルは霧の中に姿を消した。

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