「殺せ、殺してしまえ!! ワシの水を脅かすものは全て殺してしまえ!!」
悪徳村長のアグアス・トナリが叫んだ。
その命令を聞いた村長の私兵とごろつきの傭兵達がオレ達に襲い掛かって来た。
どうやらまだコイツらは水の事に目が捕らわれていて、巨大なサンドゴーレムの事には気が付いていないようだ。
「ヒャッハー! 殺せっ殺せー!!」
「いいねぇ、弱い者いじめして金がもらえるなんて、傭兵稼業さまさまだぜ」
「むごたらしく殺したら特別手当くださいよ、ダンナ」
どいつもこいつも三下のチンピラそのものだな。
オレ達は襲い掛かって来た傭兵達の攻撃を避け、その場から逃げた。
「どこに逃げようってんだよ! 逃げ場なんてないぜ」
「男は殺せ、女は少しガキだが奴隷商に売るなら問題ないだろ」
「ギャハハハハ、逃げろ、逃げろー」
オレ達を追いかけてチンピラが走って来た。
よし、この辺りなら人に見られないだろう。
そろそろ反撃と行くか!
「出てこい、ゴーレム!!」
「ザゴゴゴォォォォォオッ!!」
小さな砂山に偽装していたサンドゴーレムが盛り上がり、地面から手を伸ばしてチンピラ達を捕まえた。
「な、何だこれは!!」
「ひぇええっ! バケモンだ!!」
オレ達を追いかけて調子に乗っていたはずの傭兵のチンピラ達は、いきなり地面から現れた巨大な砂の手にむんずと掴まれて、身動き一つ出来なかった。
「よし、そいつ等を力任せに放り投げてやれ!!」
オレがサンドゴーレムに命令をすると、サンドゴーレムは巨大な砂の手を振りかぶってチンピラ傭兵達を村の方に投げ飛ばした。
「うわぁあああああーっ!!」
数名のチンピラが空中に弧を描き、そのまま村のある方に消えていった。
まあ、あの速度で地面に落ちたら死にはしなくても骨折と致命傷は確定だろうな。
村長のアグアス・トナリとその手下達は、オレ達のまさかの反撃に驚いている。
圧倒的に村長側に有利だったはずの立場が、あっという間に形勢逆転してしまったのだからそりゃそうだろうな。
「でてこいっ、さんどいーたーっ」
モッカが叫ぶと、砂地を突き破り、超巨大な大ミミズが姿を見せた。
どうやらこれがサンドイーターらしい。
モッカって、こんな巨大な魔獣も自在に操る事が出来るのか……あの娘を怒らせるのはやめておこう。
「さんどいーたー、てっていてきにあばれてっ」
「シャゲエェェェエ!!」
何とも言えない叫び声を上げた大ミミズは、その巨体を振り回して村長達の私兵や傭兵を次々と薙ぎ払った。
吹き飛ばされた兵士達が次々と空に舞う。
それをサンドゴーレムは拾っては投げ、拾っては投げ、村長の手下は次々と数が減っていった。
「ひっ、ひいいー。何だお前らは。誰に、誰に頼まれた!? そ、そうだ。金をやる、だからワシの所で働かんか。その強さならいくらでも仕事になるじゃろ、どうだ、悪い話ではあるまい」
ふざけるな、誰がお前みたいな悪党の手下になるか。
こう思っていたのはオレだけではなかったようだ。
「いやだっ、モッカ、おまえだいっきらいっ!!」
「お断り……なのだ」
モッカもカシマールも村長アグアス・トナリの言う事に反対だったようだな。
まあ当然と言えば当然だよな、あれだけ他人を苦しめて私腹を肥やすようなヤツ、好きになるとすれば同じ思考のクズぐらいのもんだ。
「え、あ……あの、暴力はやめましょう、話し合いで、話し合いで解決しませんか?」
「ふざけるな、誰がお前みたいな悪党の言う事を聞くものか」
「え、そ、そんな事言わないで、そ……そうだ、水、水を欲しいだけ差し上げますから、どうかここは退いてもらませんか?」
オレ達が説得出来ないとなった途端、村長アグアス・トナリは卑屈な態度でオレ達をこの場から退けようとした。
悪党って大体行動パターンが似通ってくるもんだよな。
「黙れ! お前は村人を苦しめて水を奪ったのに、自分は許してもらえるとでも思っていたのか!」
「くそっ、こうなったら……最後の手段だ、これだけはやりたくなかったんだがな!!」
そう言って村長アグアス・トナリが懐から取り出したのは何かの瓶だった。
「くそっ、アイツめ。まさかこういう事態を見越していたんじゃないだろうな、まあいい、もしこの村に邪魔者が現れたらこの中にあるホウシャセイブッシツを使って地下水をオセンスイに変えてしまえと言っていたからな!」
――何だって!? 放射性物質だって!
「お、お前……それが何かわかってるのか!」
「フン、この中身が何でもいい、ワシの金と地位を脅かすものがいたら、これを使えば問題は解決するとアイツが言っていたからな! ワハハハハ、ざまあ見ろ、これで水をオセンスイにしてやる!!」
村長アグアス・トナリの持っていた瓶に入っているのは放射性物質だという。
どうやら魔法か何かで瓶そのものをコーティングされているらしく、今は瓶を開けない限りは外に放射能が漏れる事は無さそうだ。
……間違いない、こんな外道な事を思いつくのはナカタ以外にいるわけがない。
何故ならこの世界ではウランやプルトニウムといった放射性物質を使った発電などという技術はまだ発明されていないし、ましてや放射性物質や汚染水なんて言葉をこの世界の人が知っているわけがない。
つまり、ナカタはこの土地で水利権を脅かす相手がいた時には、地下水に放射性物質を放り込んで汚染水にしてしまい、人の住めない土地にしてしまおうと考えているワケだ。
当然ながら、現地人の村長は、自身の持っている物がそんな危険な物質だと知っているはずが無い。
ここでもし、放射性物質によって水が汚染されてしまえば、呪いか何かだと勘違いされたまま病気で住民が全員死に絶え、水利権の証拠は消えてアイツには何の容疑もかからないという事だ。
アイツ、マジで最悪の腐れ外道だな。
昔からのタチの悪い為政者のやり方に、強欲な地元権力者を使って地元住民から搾取させるやり方がある。
ナカタが村長アグアス・トナリやボリディア男爵を使っているのはそういった理由だろう。
しかし、今はそんな事を言っている場合じゃない。
もし放射性物質を地下水の中に投げ込まれたら、この地域全部が汚染されてしまい、ここは人の住めない土地になってしまう。
下手すればここを上流とすれば、盆地から山を下った下流の村や郊外の町までもが水の汚染で病気が蔓延し、大勢の人達が不幸になってしまう!!
それだけは絶対に阻止しないと!!
オレは高笑いする村長アグアス・トナリの後ろに砂地に偽装させたサンドゴーレムを移動させ、隙をうかがった。
「ワハハハハハ、ワシの地位を脅かすものは全てくたばってしまえ!」
「やめろ、それを使えばお前まで被曝してしまうんだぞ!」
「ヒバク? 何だそれは、負け惜しみか?」
ダメだ、コイツまるで人の話を聞く気が無いようだ。
こうなったらあの瓶を取り上げてしまうしかないな。
「今だ、サンドゴーレム、その瓶を奪ってしまえ!」
「ザザザザゴゴォ!」
「な、何だこれはぁあ!?」
地面からいきなり現れた砂の腕は、村長アグアス・トナリの持っていた瓶を奪い取り、村長を砂の手で地面に押さえつけた。
「やった、これで瓶を奪えばっ」
だが、はずみで瓶は転げ落ち、蓋の開いてしまった瓶はそのまま水の中に落ちようとした。
「しまったぁっ!!」
ダメだ、このままでは水が汚染されてしまう!!
……だが、その時、水の中から現れた何者かが瓶をキャッチし、空中に舞い上がった。
「あら、誰かしら……アタシの水を汚そうとしたおバカさんは……?」
空に舞い上がった謎の人物は放射性物質の入った瓶と漏れた放射性物質を水玉の中に閉じ込め、空中に浮かせながら不機嫌そうにオレ達を見下ろしていた。