オレ達は、村人に邪険にされながらもどうにか話を聞いてみようと試みた。
すると、この村がどうして余所者に対して排除的なのか、その理由が見えてきた。
それは、この村人達を苦しめる水に関する深刻な問題だった。
オレ達は、その話を聞き、あまりの卑劣さに全員が憤っていた。
「何という酷い話だっ!!」
「最低最悪の連中なのだ!」
「モッカ、そんなやつらはぜったいにゆるせないっ」
オレ達がコチャバン村の人達に聞いた話は、想像を絶する酷いものだった。
元々この辺りはウユニと呼ばれる聖地に注ぎ込む豊かな水に恵まれた土地で、村人達も穏やかな生活をしていたらしい。
この村の人に聞いたところ、ウユニは古代文明の遺跡があると言われている場所らしい。
だが、ここ数年、突如復活したという水の魔王ベクデル・ユリティーズにより、水は枯れ、本来魔物から彼らを守ってくれるはずのボリディア男爵の兵士達は魔物を退治せずにそのまま野放しにし、水を高値で売りつけに来るようになったという。
また、この村の村長であるアグアス・トナリはそんな兵士達を諫めるどころか……村人から水税を搾り取っているそうだ。
水税はあらゆる水にかかっていて、井戸を掘ろうとすると何故か兵士達だけでなくモンスターまで現れて井戸を掘ろうとする人達を見せしめに惨殺していくそうだ。
そして……一度井戸を掘ろうとする人間を見つけると、水税はその罰としてさらに加算されてしまうらしい。
更にそういった者を見つけて村長に密告すると水税を一定期間免除してもらえるらしく、虚偽の密告が絶えなくなっているらしい。
そして、村人以外にこの話をした者も、漏洩罪として処罰されるそうだ。
コレ……魔族とボリディア男爵、それに下手すればナカタまで絡んでそうな話だな。
あまりにも利権の構築がオレの知っている話にソックリすぎて笑いすら出やしない。
こんな話を聞いたら普通の神経を持っている人ならだれでもブチ切れる案件だ。
現にカシマールもモッカも、そしてオレも全員が今にもブチ切れそうなくらい息巻いている。
「ありがとうございます。でも何故オレ達にそんな話を?」
「私の夫はもうこの世にはおりません、また、息子も処刑されてしまい、今私は一人だけなのです。もう失うものは何もありませんから……少しでも望みを外の人に……」
そういうことか、それでこの女性はオレ達にこのコチャバン村の酷すぎる有様を伝えてくれたんだな。
オレ達は通報されないよう、この未亡人の奥さんの家でカシマールの闇魔法の認識阻害を使い夜まで待つ事にした。
どうやらカシマールがこの村の話をこの未亡人の旦那さんに聞き出そうとしているらしい。
オレ達は走り続けた疲れをとるため、ゆっくりと奥さんの家で夜まで休ませてもらう事にした。
日もとっぷり暮れた夜になり、オレ達は奥さんの案内で彼女の旦那さんの眠る墓に連れて行ってもらった。
「ここに眠る人、ボクに伝えたい事があるみたいなのだ」
カシマールは旦那さんの魂からのメッセージを受け取ったらしい。
そして、カシマールは呪文を唱え、墓の上空に魂を呼び寄せる事をした。
「キ……聞こえる……か? おいの……声」
「あ、あんた……あんたなのね」
墓標にすがるように奥さんがすがり付いている。
彼女は大粒の涙を流しながら旦那さんの声を聞いていた。
「おいは……オリビオってもんだ。あんたら、よそもんだな」
訛りのある声で幽霊はオレ達に語りかけてきた。
「おいの名前はオリビオ、このコチャバン村のもんだ。おいはどうにかしてこの村の水を取り戻そうとした、けど……あの強欲の村長はそんなおいの計画を知り、井戸を掘ろうとするのを邪魔した挙句、モンスターを使っておいを殺しやがった……」
そういうことか、この人はこの村の水問題を解決しようとして、村長とその一派に殺されたというワケだ。
さぞ無念だっただろうな、その気持ちは彼の声からも伝わってくる。
「アンタら、頼む。おいの仇を討ってくれ。このコチャバン村の村長アグアス・トナリは魔族やボリディア男爵と組んで水を利権化して暴利を貪ってるんだ……おいはこのままでは死んでも死に切れん……。それに、井戸は掘れば間違いなく水が出てくるんだ……」
コレだけの意思の強さ、彼はオレ達が力を貸せばやりたい事が出来るのだろうか。
「カシマール、彼に力を貸してやろうぜ。そんな連中、全員ぶちのめしてやろう!」
「わかったのだ、後はお兄さんに任せるのだ……」
ネクロマンサーのカシマールのおかげでこの村の惨状を知る事が出来たオレは、オリビオさんに協力し、この村の村長達の目論みをぶっ潰してやる事にした。
しかし、どうやってそいつ等を出し抜いてやるか、一番良いのはその連中が嫌がっている井戸を掘る事だろうな。
水を暴利で売りつける奴らにとって一番困るのは、井戸を掘られて水が売れなくなる事だ。
「オリビオさん、オレに協力してくれるなら貴方の無念を晴らす事も出来るけど、どうだ?」
「本当か、それなら何でもやってやる」
これで決まりだな、オレはオリビオさんの魂と契約をし、彼をゴーレムの核に使う事にした。
しかし、井戸を掘るとしても普通のゴーレムでは手が伸びるわけでもない、それにあまりに大きな穴を開けてもそれで別の被害が出てしまっては困る。
……となると、一番適したのはボーリングが可能なゴーレムとなる。
だが、そんなドリルを持ったようなロボットみたいな都合のいい形のゴーレムを作る事は難しいだろう。
そこでオレはある事を考えた。
今までのゴーレムの素材は土、泥、石、岩、魔鉱石といった物を使っていたが、今回のゴーレムの素材に考えたのは砂だ。
つまり、サンドゴーレムならある程度にオレの考えたような自由自在な形に出来るだろうし、素材が足りなければその分砂を追加すればどこまでも先を伸ばす事が出来る。
「出てこい、ゴーレム!!」
「ザゴゴゴゴゴ…………」
オレはオリビオさんの魂を核としたサンドゴーレムを生み出した。
その右腕は細く長く作られていて、ドリルのような形になっている。
「オリビオさん、貴方はどこを掘れば水が出てくるか知ってるんだよな、それじゃあそこまで行ってくれ!」
「ザゴゴゴ……」
サンドゴーレムは右手を伸ばし、そのドリル状の手で地面に向かって深く掘り進めた。
長さが足りなくなると、その分砂を追加する事でボーリングのドリル部分はどんどん延長され、その長さは数十メートルから百メートルを超す深さにまで到達した。
「ザゴゴ……ゴ!!」
「どうしたんだ、まさかっ」
辺りに地響きが轟く。
そして、誰もいない夜中の荒野で、激しい音の後に勢いよく地面が揺れた。
ブッシャァアアアアアッ!!
「やった!! 成功だ!!」
オレ達は荒野の硬い岩盤を貫き、その地下に眠っていた地下水を掘り当てた!
これでようやく村が水不足で苦しむ事から解放されるはずだ。
「やったのだ、これでみんな水が飲めるのだ」
オレ達は井戸を掘り当てたことを喜んでいた。
だが、そこに血相を変えた兵士達とでっぷりと太った厭味ったらしい顔をした男が姿を現した。
「余所者が、貴様らいらん事をしおったな。まあいい、この井戸水はワシのものだ、ご苦労だったな、お前達にはここで死んでもらおうか」
まあこういう流れになるのは当然か。
オレ達はコチャバン村の村長アグアス・トナリの私兵とごろつきの傭兵達に囲まれていた。
まあいい、ここはオリビオさんのゴーレムに任せてみよう。
「ザゴゴゴゴォオオッ!!」
サンドゴーレムが兵士達に向けて大きく唸った。