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第36話 スチール……ゴーレム??

「殺せ! 殺せ! 殺せェェェ!!」


 隊長らしき男がオレ達を殺せと部下に命令している。

 このままではマジでオレ達か相手側かに死者が出てしまう。


 そうなると、もし裁判をやったりしたら泥沼化確定だ。

 それを避ける為には、相手を殺さずに無力化してしまうしかない。


 だが、いったいどうすればあの連中を殺さずに無力化できるか……だ。


 こちらの戦力は巨大なヤマオオカミとそれを操れるモッカ、ネクロマンサーのカシマール、それにオレと魔鉱石パネルから作られたスチールゴーレムといったところだ。


 戦力的にはB級モンスターのヤマオオカミ、それに匹敵する強さのモッカ、C級冒険者相当のネクロマンサーであるカシマールは、戦闘力は未知数なのでカウントに入れないでおこう。

 そしてオレはD級冒険者くらいだろうな、一般成人男性くらいの力はあってもモンスター相手に勝てる程ではない。

 だが、オレが生み出したスチールゴーレム、これは10メートル相当のデカさでしかも素材が魔鉱石パネル、この魔鉱石パネルというのがどれくらいの硬度かは分からないが、材料が魔鉱石ってだけにストーンゴーレムより強いのは確定だろう。


 つまり、マッドゴーレム、クレイゴーレム、ウッドゴーレム等がB級だとすれば、ロックゴーレム、ストーンゴーレム、アイアンゴーレム、スチールゴーレム等はA級モンスター並の強さというワケだ。


 さて、それじゃあ相手を殺さないで無力化するやり方でやってみますか。


「モッカ、相手は殺さないでくれ、殺すと後々面倒な事になってしまう」

「わかったっ。おい、やまおおかみっ、あいてはころさずにやっつけろっ」

「ワオォォーン!」


 どうやらヤマオオカミはモッカの命令に従っているようだ。


「こ。こっち来るななのだァァァ!!」


 カシマールは何かの呪文を唱え、石やパネルの残骸から人間サイズの骸骨兵を生み出し、兵士と戦わせている。

 やはりここでは以前に何人もの死者が出てしまったようだな。

 ネクロマンサーであるカシマールの闇魔術で、何人もの犠牲者の魂を持った骸骨兵が出てきたのがそれを証明している。


 どうやら魂の核があれば肉体が無くても何かに宿らせる事は出来るようだ。

 それを超巨大化したモノがゴーレムみたいなものなのだろうか。


「お前達の恐怖の感情、大きくしてやるのだぁあ!!」

「ウギャァァァアア! 何だこれはぁぁあ!!」

「た、助けてくれ、おれはまだ死にたくないー」

「目の前に、アレが、アレがぁぁあ」


 骸骨兵に気を取られていた兵士達はカシマールの闇魔術で負の感情を増大化され、目の前にとてつもなく恐ろしいものを見せられているらしい。

 そして次々と兵士達が気を失っていった。


 気を失った兵士達は、浮遊霊の力でロープグルグル巻きにされ、次々とミノムシのように樹に吊り下げられていったようだ。


「お、おのれ。この怪しげな連中め。死ね、死んでしまえぇえ!!」


 第一波をやっつけて安心できるかと思ったオレ達だったが、敵は第二波、第三波を用意していた。


 ここの魔鉱石パネルはそこまでして秘密を守りたいモノなのだろうか。

 このままでは増えた兵士達にオレ達がやられてしまう。

 こうなったら、ゴーレムに一気に敵を一網打尽にしてもらうしかないな!


 だからといって、ここで下手に地響きでも起こそうものなら、山崩れが起きてしまい、折角助けたふもとの村が今度こそ土砂災害で壊滅してしまう。

 そうなると、下手に地響きを起こしたり、地面を掘って落とし穴というわけにはいかなそうだ。


 こうなれば! あの方法しかない!!


「ゴーレム、その魔鉱石パネルを持ち上げてくれ!」

「ドゴゴゴ……」


 スチールゴーレムはオレの指示で壊れた魔鉱石パネルを魔法陣プラントから引っぺがし、大きく持ち上げた。


「それをそのまま地面に刺して立ててくれっ!」

「ドゴゴゴ……ゴ」


 スチールゴーレムはオレ達とボリディア兵の間に魔鉱石パネルを突き立て、境目にしてくれた。


 突き刺したパネルは巨大な壁のようになり、ボリディア兵は魔鉱石パネルの壁をどうにかよじ登ろうとしていた。

 だが、この雨が幸いしてか、パネルは雨で濡れてツルツル滑り、兵士達はパネルの壁をよじ登る事が出来ないようだ。


「ゴーレム、他のパネルも突き立ててくれ! 全部だ」

「ドゴゴ……ゴ」


 スチールゴーレムはオレの指示で魔鉱石パネルを次々と地面に突き立て、それはまるで波打ったドミノのように並べられた。


「よし、それを一気に倒すんだ!」

「ドゴゴゴォー!」


 スチールゴーレムが一気にパネルを倒し、それがドミノ倒しに連鎖的に倒れた。


「のわぁああ!!」

「な、なんだこれはぁぁあ!?」

「逃げろ、逃げろぉぉ!!」


 ボリディア兵達は連鎖的に倒れてきた魔鉱石パネルの下敷きになり、身動きが取れなくなっていた。

 敵を手加減して倒すにはこれが一番確実な方法だろう。


 魔鉱石パネルは、一枚一枚はさほど重くないが、何枚も重なるととんでもない重さになる。

 だからこれに押しつぶされて圧死する程のものではないが、その重さで身動きが取れなくなり、兵士達は全員がパネルの下敷きになった。


 オレはゴーレムに足止めを頼み、そのままヤマオオカミに乗ってその場を離れた。

 兵士達は魔鉱石パネルの下敷きになり、死にはしないが大多数が骨折して重軽症を負っている。


 こんな状態ではスチールゴーレム相手に戦えるわけもあるまい。

 オレはゴーレムにその場に立っているだけでいいと伝え、その場から逃げ出した。


 いくら増援が来てもスチールゴーレムを倒す事は出来ないだろうと見たからだ。


 オレ達がその場を離れると、スチールゴーレムは音を立ててその場に崩れ出した。

 どうやら、カシマールの持っていた黒い宝石、ソウルオブシダンは、死者の魂を一か所に固定化出来るようだが、持ち主から離れるとその効果が切れてしまうようだ。


 オレ達は崩れ落ちるスチールゴーレムを背に、その場から走り抜けて平らな土地まで走り抜けた。


 ここは盆地になっているようだ。

 遠くに山は見えるものの、この辺りは高原か盆地といったところで、どこまでもなだらかな土地が続いている。


 オレ達は兵士を振り切り、そこから近くに村が無いか探してみる事にした。

 川が流れているならその近くには村があってもおかしくない。


 だが……どこまで走っても、川は見つからなかった。

 いや、川はあるが水が枯れ、ただの道みたいになってしまっていたのだ。

 枯れた川は平らな地面のずっと向こうまで続いているらしい。


 おかしい、こんな雨の溜まるはずの盆地で川が枯れるなんて聞いた事も無い。

 オレ達はヤマオオカミの背に乗り、走ること数時間……ついに村らしい場所に辿り着く事が出来た。


 しかし、その村は活気が無く、誰一人としてオレ達に興味すら持とうとしなかった。


「お前ら、余所者だな。お前らに飲ます水は無い、さっさと出て行ってくれ」


 オレ達は歓迎されるどころか、さっさとここから出ていけと言われてしまった。


「一体何なのだ、その言い草は無いのだ!」


 カシマールが憤慨している。

 まあいきなり出合い頭に村から出ていけと言われていい気分になるわけが無いのはオレ達も同じだ。

 しかし、何か様子が変だ。


 それはこの村の活気の無さからも感じられた。

 一体、ここはどうなっているのだろうか?


 オレ達は、村人に邪険にされながらも、どうにか話を聞いてみようと試みた。

 すると、この村がどうして余所者に対して排除的なのか、その理由が見えてきた。

 それは、この村人達を苦しめる水に関する深刻な問題だった。


 オレ達は、その話を聞き、あまりの卑劣さに全員が憤っていた。

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