村の老人はこの辺りの言い伝えに詳しいらしい。
彼はオレの聞きたい事に答えてくれた。
「コンゴウ様は、この国の守護神とも言えるお方ぢゃ。あの方は数百年前に魔族の大群相手に孤軍奮闘し、並み居る魔族を激しい光の力でなぎ払い、魔の者達を尽く打ち砕いたのぢゃ」
何そのスーパーロボット。
どう聞いてもそのコンゴウ様ってのが、黄金のスーパーロボットとしか思えないんだが。
「そのコンゴウって何者なんですか?」
「コンゴウ様は、古の民が作り出した黄金の神。その鋼のような巨体であらゆる敵を打ち砕く戦神なのぢゃ。多くの者がそのコンゴウ様の力を求め、探したが見つかったとは聞かぬ。多分古の民と共に眠りについてしまったのぢゃろう」
つまり、コンゴウとは古代文明によって作られた超巨大なロボットみたいなゴーレムで、古代文明の衰退と共に姿を消したってワケか。
そのコンゴウを巡って色々な連中が探したが、見つかっていないのが現状ってとこか。
もし、そのコンゴウという巨大ゴーレムをオレのスキルで従える事が出来れば、ダム建設やスタジアム、テーマパーク等の大規模工事を難なく進める事が出来るかもしれない。
「そのコンゴウってのはどこにいるんですか?」
「はて、コンゴウ様は塩の湖の遺跡に眠っていると聞いたが、塩の泉は来る者を拒み、その中に入ろうとしても誰一人入れない場所ぢゃと聞く
「塩の湖??」
どうやらコンゴウは塩の湖と呼ばれる場所にある遺跡に眠っているようだな。
だがその湖に行こうとしても拒まれて入れないという話だ。
「そうぢゃ。塩の湖はこの山の上、何者をも拒む迷いの森の奥にあるという話ぢゃ」
この川の上を遡っていくと塩の湖ってのがあって、そこにコンゴウが眠っている遺跡があるという事だな。
この話を聞けただけでも、オレ達がこの村の堤防造りをした価値があるというもんだ。
多分オレ達が普通に余所者を阻む田舎の集落で話を聞いても、昔の言い伝えを素直に教えてもらえる可能性は低かっただろう。
だが、オレ達はこの村の人達の為にゴーレムを使って堤防造りをした。
この堤防造りと水門や用水路に貯水池を作った事で、村人は全員がオレ達に感謝している。
中にはオレ達を神様の使いだと思っている人もいるみたいだ。
神様って……あのムキムキマッチョッチョの手下って扱いか……。
……うん、あまり、嬉しいものじゃないな。
次の日、オレは一連の作業の終わったゴーレムに語りかけた。
「よくやってくれたな、もう休んで良いぞ。アンタ達の村はもう安心だからな」
「グゴゴゴ……オレタチノ……ムラ……」
今まで言葉の話せなかったストーンゴーレムが、カタコトで呟いた。
どうやらそれだけ村への思いが大きかったのだろう。
「さあ、お前達はもう眠ると良いのだ。この村の事は生き残ったみんなが守っていくと言っているのだ。さあ、お休みなのだ……」
「グゴゴゴ……ゴ」
カシマールがゴーレムに呪文を唱え、Eの刻印を解除した。
すると、石で出来たゴーレムは細かく砕け、堤防の傍で石の山となって消えた。
「みんな、この村が好きだったのだ。だから、ここで眠りたいと言っているのだ……」
「そうなんだな、それじゃあここに墓を作ってやろう」
オレ達は堤防の傍に三つの墓を建ててやる事にした。
村人は全員が雨の中集まり、ゴーレムの中の魂だった男達に祈りを捧げ、冥福を祈った。
さあ、少し寄り道になったが、問題が全部解決したわけではない、この山の上に何があるのかを確認しなくては!
雨がそぼ降る中、オレ達は川の上流を目指して出発した。
山の上流から流れてくる川の水は、相変わらず流れが速く、山が水の保水が出来ずにそのまま水が流れ込んでいるのがよく分かる。
濁った色の川はそのまま堤防のある村の方に流れて行っているのだ。
オレ達が堤防を作らなければ、再び川の水が氾濫して二度目、三度目の災害が起きていたかもしれない。
オレ、モッカ、カシマールの三人は、雨で足元が滑らないように巨大なヤマオオカミの背中に乗って走っている。
このヤマオオカミを呼んでくれたのは当然ながらモッカだ。
彼女の魔物使いのスキルは大抵の動物を従える事が出来るようだ、流石は百獣の王の娘というべきか……。
「止まれ。キサマラ! この先、ボリディア領の人間以外は立ち入り禁止だ!!」
何やら胡散臭い兵士達が重武装でオレ達の行く手を阻もうとしていた。
「邪魔だ、怪我したくなければそこをどけ!!」
「やまおおかみ、おおきくさくをとびこえろっ」
「ワオオオォオオオーンッ!!」
モッカの命令でヤマオオカミは兵士達を蹴散らし、大きな鉄柵を飛び越えた。
「お、追え! 追えぇえ! ボリディア様の領地に入れさせるな!!」
ヤマオオカミは鉄柵の内側を走った。
そして、森がどんどんまばらになり、オレはついに見てしまった。
「やっぱり、こういう事だったんだな!!」
そこに広がっていたのは、森林が伐採され、禿山になった山肌に規則的に並べられ、魔法陣を組み込まれた魔鉱石パネルだった。
いうならば、異世界版メガソーラーというべきか。
その周りには魔鉱石パネルから生み出されたエネルギーで黒い煙が上空に目掛けて焚かれており、川下から上を見ても山の上の方が見えないようにされていた。
――オレは無性に腹が立ってきた。
こんなモノの為に、川下の村の人達は土砂災害や濁流で苦しめられていたのか!!
しかも、これらの魔鉱石パネルで作られたであろうエネルギーは川下には何の恩恵も与えていない。
多分この魔鉱石パネルで作られたエネルギーは、このボリディア領内だけで使われているのだろう。
こんなくだらない事を考えるのは、間違いなくあのナカタに違いない。
アイツ……マジでオレの想定通りのクズ経営者の行動パターンそのものを、異世界でやらかして弱者を苦しめているんだな。
もしかすると、トミスモ鉱山での落盤事故が未曽有の大災害になってしまったのもここに配置した魔鉱石パネルを作り出す為だったとしたら……鉱山で命を落とした人達はナカタのせいで命を失ったともいえるわけだ。
「ゴーレム、ここにいるなら出て来てくれ!!」
どうせナカタの事だ、工事で犠牲者が出てもそのまま作業を続けさせたに違いない。
オレはここで亡くなった犠牲者がいると想定し、ゴーレムを生み出した。
すると、壊れて廃棄されたであろう積み重ねた魔鉱石パネルが音を立て、スチールゴーレムのような姿になって姿を見せた。
「いけ、お前の無念を晴らせ! ここのパネルを滅茶苦茶に破壊してしまえ!!」
「ゴゴゴゴガァァァァアアーッッ!!」
「怒っているのだ、この魂……心の底からものすごく怒っているのだ……」
オレの生み出したゴーレムは、手当たり次第にパネルを破壊した。
そこに兵士が駆け付けてきたのはその少し経った頃だった。
「な、何という事だ!! 折角完成した魔鉱石パネルのエネルギープラントが!!」
「こ、殺せ! アイツをそのままにしたらおれ達の命が無いぞ!」
ボリディア領の私兵らしい連中がスチールゴーレムとオレ達の方に向かって攻撃を仕掛けてきた。
これを返り討ちで力任せに倒したら、そりゃあ簡単に全滅させる事が出来るだろう。
だが、それだともし何かの話し合いになった時に、相手を殺していたらこちらが不利になる。
だからオレ達は人を殺すわけにはいかない。
でもそう言っても相手はこっちを証拠隠滅の為に殺す気満々だ。
仕方ない、こうなったら相手を殺さずに無力化する方法を考えよう。