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第34話 山の上で……立ち入り禁止??

「村長さん、この村に男手はどれくらいいますか」

「そうじゃな、雨期で仕事が出来ておらんものが数十人、百人近くはおるかと」

「その人達に是非協力してほしいと頼めますか??」

「わ、わかった。貴方はこの村の恩人だ。貴方の言うことでしたら、すぐに人手を用意しましょう」

「みんな、計画変更だ。この村に堤防を作るぞ!」


 オレは、この村がこれ以上の水害に遭わないように、ここに堤防を作る事を決めた。


 オレは小雨のぱらつく中、地元の男衆を集め、話した。


「みんな、この村は今大変な状況になっている。それは、川の上流の方で何かが起きているのでその影響がこの川下のふもとの村に出ているからだ。」


 今は落ち着いているが、このまま雨が続くと山津波が起きてもおかしくはない。

 どうやら山の保水量が何らかの原因で落ちているのが原因だと思えるだろう。


 こういう時にありがちなパターンというと……。


「村長さん、最近何か山の方で変わった事はありませんでしたか?」

「そうじゃな、最近はキツネ狩り、鷹狩りなどのスポーツハンティング場とやらを作るとかの話で、自由に入れていた山の上の方が立ち入り禁止になっている場所が増えたような気がするな」


 間違いなくそれだ!

 この件にアイツが絡んでいるとすると、地元住民を立ち入りできなくさせて貴族だけのプライベートリゾートを作るという。

 しかし、それは目くらましで本当の目的は間違いなく……アレだ!!


「村長さん、山で他には何か見て分かるような変化はありませんでしたか?」

「そういえば、何かの板を山の上に運ぶ怪しげな一団が数年前からちらほらといたような……」


 これで確証が得られた!

 この一件、やはりナカタの奴が絡んでいる。

 山の水はけが悪くなり保水量が落ちる原因の大一要因は樹木の大量伐採だ。

 コレだけの土砂災害が起きるとなると、木を伐採した事で山の一部が禿山になっていて雨水が浸みこまずにそのまま山肌を流れて土ごと川に流れ込んでしまったからだろう。


 アイツ……この異世界でメガソーラー利権みたいなことまでやりやがったな。

 メガソーラー設置をする為には、パネルを置く場所を作る為に大規模な森林伐採が行われる。

 それが、山の水はけを悪くし、土砂災害や地滑りが起きやすくなる理由だ。


 村長さんに聞いたところ、どうやら以前は見えていた山の上の方が最近は黒っぽい煙で全く下から見えなくなっているというのが、間違いなくメガソーラー発電パネルみたいなものを下から見えなくする為だといえる。


しかし今はそれをどうこうするよりも、これ以上の土砂災害、川の氾濫を止める方が先決だ。


「出ろ、ゴーレム!!」


 オレはゴーレムマスターのスキルでこの村で死んだ男の魂をコアにして新たなゴーレムを生み出した。


 ロックゴーレムは三体に増え、オレの指示に従い川の周りにどんどん土を積み重ねていった。


 積まれた土をなだらかにするのは村の男衆がやってくれている。

 どうやらこのゴーレムは技師等の技術は持っていないらしく、手先を器用に使う事は出来なそうだ。


 ゴーレムの能力はどうやら生前の魂の経験によって決まるようだな。

 このゴーレムは土掘りや運搬はかなり得意らしいので、どうやら元々は農夫だったのだろう。


「お兄さん、この子達、お兄さんに感謝しているのだ。自分達の好きだった村がこれ以上水で苦しめられなくて済む。大事な家族を守ってあげられる……そう言っているのだ」


 ゴーレムはよほどの魂の意思が無ければ会話をする事は出来ないようだ。

 そういえば最初の時の戦奴の魂の入っていたゴーレムはほとんどオレと会話出来なかったが、鉱夫のザド達の魂で出来たゴーレムはオレにカタコトで言葉を語りかけてきた。

 今考えるとあのザド達のゴーレムはよほど強い魂の意思があったのだな、まあ……数年間動きたくても身体が無くて動けなかった無念が強い意志になったとも言えるだろう。


 オレは死者と会話をする事は出来ない。

 その能力を持っているのは戦巫女の末裔でネクロマンサーのカシマールだ。


 だから今は意思疎通さえ出来ればオレは彼女を通じて死者と会話ができるとも言える。

 言うならば、東北の恐山に居るというイタコみたいなものか。


 ゴーレムはオレの指示に従い、土をどんどん積み重ねて数メートルの堤防を川の周りに作ってくれた。

 この川の堤防の一部に鉄の門を埋め込む事で川の水を用水、水路として使う事が出来る。

 ようは水門を作り、流れる水のコントロールをするわけだ。


 これで堤防に溜まった水を水門開放する事で豪雨の際にはその水の流れる方向に一定量以上の水が流れ出ないようにする。

 こうすると川下の方にある町には汚泥や濁流が流れ込まず、綺麗な水がそのまま届けられるというワケだ。


 だが……これはあくまでも一時しのぎでしか無いだろう。

 本当にこの問題を解決するとすれば、川の上流にある問題の解決、つまり山肌の伐採された場所の把握と、川の上流に巨大なダムを造る事だ。


 だが、その為にはゴーレムの力は必須になるだろう。

 人力でダムを造ろうとしても、この異世界では技術力も無ければ、巨大な物体を動かしたり積み重ねるといった事も出来ない。


 この問題を解決するには……長期的に力を発揮できる巨大な物が必要だろう。

 そうなると、やはり以前聞いた黄金のゴーレムの力を借りるしかないのだろうか。


 だが、それが本当に存在するのかどうかも分からない今の状態であてにするのは愚策だ。

 それよりは今この村で出来る事、つまり堤防の設置が優先事項だといえる。


 雨が降りしきる中、ゴーレムと村の男衆は休む事も無く堤防造りに取り組んだ。

 モッカはこの付近に住む魔獣を呼びだし、力を貸してもらい、大きな木の残骸を運んだり、水門を運んでもらった。


 一旦全部の堤防の土を積み重ねた後のゴーレムは、村の外れの空いた土地を掘り起こし、広くて浅い貯水池を作っている。


 村の女性はそんな働く人達の為に服を洗ったり、食事を用意してくれている。

 あまり数は多くないが、子供や老人もそれを手伝い、村が一丸となって堤防設置の作業に取り組んでいる状態だ。


 ここにいる皆の気持ちは一つになっていた、堤防を作り……村が水害で苦しむ事が無いようにしたい、その想いで全員が働いていた。


 雨が降る中、作業は一週間に渡り続き、そしてついに堤防が完成した。

 その日は雨が止み、つかの間の陽が出ていた。


「よし、水門の扉を開くぞ!」


 村長が水門の鍵を開け、村の衆が鎖を引っ張った。

 すると、水門は鈍い音を立てながら開き、水は堤防から用水路に流れ、余った水は村の横に作られた巨大な貯水池に流れ込んだ。


 ――成功だ!!


 その時、村の人達の歓声が溢れた。

 数年にわたり苦しめられた水をついに克服したからだ。

 これでもうこの村が雨水の氾濫で水浸しになる事は無いだろう。


「貴方がたはこの村の恩人です。もし私どもに出来る事があれば、何でもお手伝いいたします」

「わかりました、村長さん。それでは一つお聞きしたいのですが」

「はい、何でしょうか?」

「この辺りに伝説の巨大なゴーレムがいたって話を御存じですか?」


 すると、村長は村の生き字引とも言える老人を連れてきてくれた。


「その話かどうかは分かりませんが、このじいじ様なら詳しい事を知っておるかもしれません」

「はて、お客人、儂に何を聞きたいのですぢゃ?」

「お爺さん、あなたは伝説の巨大なゴーレムの話を御存じですか?」

「はて、黄金の巨人……それはコンゴウ様のことですか」


 どうやら、この村でオレは何かの話を知る事が出来そうだ。


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