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第33話 堤防……建設??

「ガ……グゴゴゴ……」


 オレの生み出したゴーレムは、土で出来たクレイゴーレムや、泥で出来たマッドゴーレム、岩石で出来たロックゴーレムともつかない、石で出来たストーンゴーレムといったところだった。


「ストーンゴーレム、頼む。そこの土をどけてくれ」

「ゴゴゴ……」


 ストーンゴーレムはオレの指示に従い、土をどけて埋もれた家を掘り起こした。

 その後地元の住民が地面を掘り起こすと、そこには男性の砕けた死体が見つかった。


「とうちゃーん」

「アンタァァァァー!!」


 なんともいたたまれない光景だ。

 これがナカタのせいだとしたら絶対に許せない。

 アイツは直接では無いとしても、環境破壊により起こるはずの無かった土砂災害を引き起こして憐れな犠牲者を出しているのだ。


「おばさん、少し落ち着くのだ」

「アンタァ、アンタァああぁぁー!!」


 カシマールが声をかけるも、旦那さんを失った奥さんには声が届いていないようだ。


「仕方ないのだ。すまない、その頭、少し借りるのだ」


 カシマールは掘り起こされたバラバラの男性の頭部を持ち、何かの呪文を唱えた。

 すると、男性の頭部は、目を開き、奥さんに語りかけていた。


 傍から見ると不気味というかトンデモない光景だが、本人達は真剣なので茶化せるような物じゃない。

 これがネクロマンサーであるカシマールの能力だ。

 彼女は死者の魂に会話をさせる事が出来るのだ。


「お……おま……え」

「アンタ、アンタなのね。あたいのコト、わかるのかい?」

「あ、ああ。だが、あまり長くはもたなそうだ」


 カシマールのおかげで、男性は頭部から声を出す事が出来たようだ。


「お前達を残して逝くのは心残りだ。だが、最後に話す事が出来て良かった……お前、あの子を……頼んだぞ」

「とうちゃぁあん。とうちゃぁぁあー……ん!!」


 カシマールは奥さんに男性の頭部をそっと差し出し、何かの呪文を唱えだした。

 すると、男性の頭部から抜けた白く光る塊が空高く昇っていくのだった。


 多分、あの男性は最後に家族と話が出来なかったのが心残りだったのだろう。

 生き埋めになった世帯は他にもいくつも見られた。


 カシマールはそれらの魂と会話をする事で犠牲者の身体のある場所を見つけ出し、モッカはラージモールを呼び出して土を丁寧に掘り起こしてくれた。


 オレは、大きな家の残骸や土砂をロックゴーレムに命じて撤去させ、土砂に埋もれた惨劇の村はようやく落ち着きを取り戻せた。


「私は再び王都に戻るのである。この村の惨状、どうしてこのようになったのかの理由解明と、地元領主への災害復興手当の申請といった作業があるのである」


 騎士団長も務めるフォルンマイヤーさんは、こういった国内の災害や惨状をその度に王都に伝える任務もあるようだ。

 いわば異世界における自衛隊の司令官みたいな立場か。


「そういうわけでコバヤシ、私は一旦この場を離れる。地元領主のボリディア男爵には私から話をしておくので、何かあったらまた伝えてほしいのである!」


 そう言ってフォルンマイヤーさんは伝書鳩を飛ばしてから馬に乗ってこの場を離れた。

 さて、オレ達はこの村で何があったのかの情報収集だ。


 本来ならこういった田舎の村は閉鎖的で余所者等にあまり寛容的でないはずかもしれないが、災害の手助けをした事でオレ達は村長さんに歓迎された。


「皆様、この度はこのような辺境の村へお越しいただきありがとうございます。私が村長です」

「オレは小林こばやし太盛たいせいです。小さな建築会社をやっています」

「建築、ですか。それであの土砂災害から家の撤去を速やかに出来たのですね。この度はこの村をお救いいただき、誠にありがとうございます」


 いや、救うと言っても……犠牲者を助けるまでは出来なかったけどな。

 復興作業の手伝いといえば、そうなるのかな。


 モッカは村長の奥さんが出してくれた地元の果物を食べている。

 カシマールは先程の作業で疲れたのか、少しウトウトしているがそっとしておこう。


「実は、私共としましても、このような大災害は初めての事で、一体どうして良いのやらわからなかったのです。だからと言ってボリディア男爵の住む場所はもっと上流でここからだとかなり時間がかかってしまいますし。それで諦めておったのです」


 成程、地元領主はこの近くには住んでいない……と。

 でも、川の上流の方に領主の館があるとすれば、この川の汚染や土砂災害はソイツのせいだと考えてもおかしくないな。


「あの……ボリディア男爵とはどのような方なのです?」

「男爵は……貧しいながらもワシらの村々を大事に思い、面倒を見てくれる立派な方でした。ですが数年前に病で……」


 そうか、それだと今までと状況が変わったのは領主の後継者がナカタの口車に乗せられて環境破壊をするような開発に手を出したって事だろうな。 


山の持ち主だった地主が後継者になった途端、今までの契約や条件を反故にし、地元住民の反対を押し切って開発を進めたようなモノか。

こういった事例は前の世界でも何度も目の当たりにしている。

 それで工事を血気盛んな地元住民が反対して暴力沙汰や警察沙汰になったり裁判までもつれたってのも頻繁に聞いた話だ。


 しかし、異世界に来てまで……あのナカタは何を考えてるんだ。

 こんな別世界でも日本の建築会社と地元住民の軋轢みたいなものを生み出して、アイツはそこまでして儲けたいというのか。


 何でもかんでもナカタのせいに考えるのは短絡的かもしれないが、異世界人だけでこれだけ大規模な土砂災害が起きるような事案が発生するわけない。

 何故ならそこまでの天変地異を起こすような魔法使いとかの話はこの世界では聞かないからだ。


 オレがいる今のこの世界は、どうやら土着の魔物や魔獣、ドラゴン等はいるみたいだが、人間が自然の奥深くの彼等の領域まで踏み込まない限りは向うから人間に攻撃してくるというのはあまり聞かない話だ。


 魔族と人間との戦争といった事は昔にはあったようだが、今は魔王が封印され、魔族は人間との不可侵条約を結んでいて、今の人間社会は対魔族より対国家の人間同士の争いの方が多発している。


 こんなファンタジーそのものの世界で昭和平成に多発した建築会社と地元住民のトラブルを踏襲するヤツなんて、タチの悪い転生者以外には考えられない。

 それでいながら大規模な開発工事が進められる人間となると、魔法重機を作り出せるナカタ以外にはいないという事になる。


「お兄さん、どうしたのだ? とても怖い顔をしているのだ……」

「あ、ああ。すまないカシマール。少し考え事をしていたんだ」


 とにかく一度ボリディア男爵に会って話をしなくては。

 この村のような惨状をこれ以上繰り返さない為にも、ナカタの計画から手を切ってもらわないと。


「ボリディア男爵の住んでいるのはこの山の上の方ですか?」

「はい、男爵様はこの山の上の盆地に住んでおられます」


 成程、ナカタはその盆地に行く道を作る為に大規模な環境破壊をおこなっていると考えて間違いないな。

 これは急いでボリディア男爵に会わないと、長く続く豪雨で更に犠牲者が増えてしまう。

 だが、その前に一つやっておかないといけない事がある。


「村長さん、この村に男手はどれくらいいますか」

「そうじゃな、雨期で仕事が出来ておらんものが数十人、百人近くはおるかと」

「その人達に是非協力してほしいと頼めますか??」

「わ、わかった。貴方はこの村の恩人だ。貴方の言うことでしたら、すぐに人手を用意しましょう」

「みんな、計画変更だ。この村に堤防を作るぞ!」


 オレは、この村がこれ以上の水害に遭わないように、ここに堤防を作る事を決めた。

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