大雨が止んだ次の日、オレとカシマールは泥から乾いて土になったクレイゴーレムを元に戻してやる事にした。
「お前のEの刻印を解くのだ、さあ……眠ると良い、お休みなさいなのだ」
「ゴゴグゴゴ…………」
墓地の近くでカシマールが呪文を唱えると、クレイゴーレムはその場に崩れ出した。
そして、数分後にはその姿は元の土に戻っていた。
「お兄さん。あの子、感謝していたのだ」
「感謝??」
「そうなのだ、彼は以前川でおぼれる子供を助けようとして溺れ死んだ勇敢な男の魂だったのだ」
そうか、だから今回の川の氾濫を食い止めるのに力を貸してくれたんだな。
オレは勇敢な男の魂に花を供えた。
オレの後ろにはたくさんの町の人が集まり、みんなが花を供えだした。
「ありがとう、貴方がいなければこの町はどれだけの人が死んでいたのか……」
「ゴーレムさん、ありがとう」
「この町は俺達が綺麗にしてやる、だからゆっくり休んでくれ」
町の住民達はマッドゴーレムによって命を助けてもらった事を感謝して礼を言って去っていった。
どうやらネクロマンサーとしてのカシマールはこの町でもきちんと受け入れられたようだ、最近はゴーレムカンパニーに近所の人が来てお菓子をくれる事が増えてきた。
まあ、この町でお菓子が手に入りやすくなったのはシャウッドの森に住むオオミツバチのハチミツが手に入りやすくなった為とも言えるだろうけどな。
町の泥撤去作業はおよそ一週間で片付いてきた。
それを主導したのはイツマの棟梁とその弟子達だ。
冒険者ギルドも特別報酬として町の清掃作業の依頼を出している。
こうして大雨から十日程で、町は本来の静けさを取り戻す事が出来た。
フォルンマイヤーさんが王都から戻ってきたのはその後だった。
「コバヤシ、話したい事がある。聞いてもらえるか?」
「フォルンマイヤーさん、どうしたのですか」
「私は国王陛下にコバヤシが施工したアンディ王子の離宮の件を伝えたのである。すると、国王陛下は大変関心を示し、王宮にもそのエレベーターなるものを設置せよとのご命令だったのである」
まあ、そうなるかもなとは想像していた。
一度エレベーターの便利さを知ってしまえば、そりゃあ欲しくもなるだろう。
「ですが、まだエレベーターは試作段階の物で、安全テストとかを経ないとそのまま使うのは危険ですよ、アンディ王子の場合は工事期間が一か月という期限付きだったのでそのまま完工しましたけど……」
実際エレベーターなんてものは、突貫工事で作って一度ワイヤーが切れて落ちれば大惨事だ。
だからもっと実際の施工を繰り返して安全を完全に確保できなくては使い物にならない。
「そうか、それでは仕方ないな。それで、どのような条件ならそのエレベーターを王宮に設置出来るというのであるか?」
「そうですね、同じようなものを何か所か実際に作ってそれで問題が無いと確証が得られれば……ってとこかと」
「そうであるか。わかったのである」
だが、あんな離宮に作ったような大型エレベーターを作る案件、ゴーレムが無ければまず作るのは不可能だ。
しかし、死者の魂を使ってその度に何度もエレベーターを作るってのも……考え物だ。
そうなると、ずっと長い間動き続ける事の出来るスーパーロボットみたいなゴーレムが必要となる……。
さあどうしたもんだ、困ったな……。
「こばやし、どうしたっ。なんだかげんきがなさそうだっ」
「あ、モッカ。大丈夫だ、問題無い」
やはり、この間話に上がっていた伝説の黄金のゴーレムを探しに行く方が良いかもしれないな。
「お兄さん、呼んでいるのだ。山の方、怒っている。汚れた水を垂れ流す者に怒っている魂が助けを求めているのだ」
カシマールが何やら予言した。
どうやらオレ達は山の上の方に行く必要が有りそうだ。
こうなったら彼女の言う事に従ってみよう。
「カシマール、山の上の方に何があるんだ?」
「わからない、でも金色の何かが見える……のだ」
金色の何か? ひょっとして、それは伝説の黄金のゴーレムの事なのか??
こうしてはいられない、ひょっとすると本当に何かがあるかもしれないな。
オレ、カシマール、モッカ、フォルンマイヤーさんの四人は、イツマの棟梁に町の工事の事を任せ川の上流を目指して旅に出た。
川は何かよく分からない物が流れ、水は常に濁っているようだ。
実際川下の方にある、オレ達の住んでいる町も川の水は飲み水にならず、一度煮炊きしてから使っている。
聞いた話によると以前はもっと水が綺麗で、飲めるような水だったと聞くが……何かまた胡散臭いものを感じるな。
――この話、まるで昭和によくあったというリゾート開発地が上流に出来た為に、川下の村々で澄んだ水が濁ったという話と似ている。
まさか、この騒動の裏にもあのいけ好かないナカタが絡んでいるのか?
もしアイツがこの騒動の原因だとしたら、数年前まで綺麗な水が飲めていたのが、今や濁った水しか流れてこないって話もアイツが何かいらない事をやらかしている為だろう。
町の住民の嘆き方がどう聞いても、昭和のリゾート地造成でのトラブルでの話そのもの過ぎて、ここが異世界だという実感が出てこないのだ。
まあオレも日照権の問題とかで工事反対の住民との交渉は前の世界で何度もやって説得したり妥協したりした事もあるが、ここまで強引かつ独断的に環境破壊をする奴なんて、住民の事を何一つ考えていない勘違い特権階級の連中がやる事だ。
あのナカタの奴がオレの想像以上のゲス野郎なら、この牧歌的で自然環境に優れた異世界を、魔法の重機で滅茶苦茶に環境破壊していても何もおかしくはない。
アイツは典型的な田舎の地元住民の声を無視する、大都会の建設会社のクソ社長、会長の考え方そのものだ。
金儲けの為ならどのような手段も選ばず、住民よりも大手出資者のご機嫌取りで工事を決行する嫌な経営者、オレの考え方とは真逆のヤツだ。
ナカタがこの一件に絡んでいるとすれば、川の上流に何かロクでもないモノを作ってしまい、それが原因で川の水が汚染されたと考えて間違いない。
町の人が言うには、数年前までは川の水は綺麗でそのままでも飲めたという話だ。
もし……ナカタがオレよりも前にこの世界に転生後、川の上流で工事を始めたとするなら、この一連の時間経過、全部つながってくる。
マジでアイツだけは許せんな。
アイツはこの世界をどうしたいんだ? どうせただ金儲けして私腹を肥やしたいだけだろうが、ここまで多くの被害者を出してやるような事か??
アイツはこの異世界の人間達を下等で劣る連中、踏みにじっていい相手だとでも考えているのだろう。
こうなったらアイツの野望を徹底的に阻止してやる!
さあ、急いで川の上流に向かわないと。
オレ達は何度も雨に打たれながら、川の上流目指して遡っていった。
その途中で立ち寄った村、ここは惨劇に見舞われたらしく、川下の町よりも被害が酷かった……。
「とうちゃーん、とうちゃぁーん!!」
「誰か、うちの人がまだ家の中に……」
「奥さん、もう……あきらめるんだ」
山のふもとの村は、土砂崩れに巻き込まれ、多くの犠牲者が出ていた。
災害発生からもう十日以上、二週間近く経っているので生き埋めになった人は……もう生きてはいないだろう。
「お兄さん、聞こえるのだ。土の中で苦しんでいる魂の叫びが……」
「カシマール、オレはどうすれば良いんだ?」
「お兄さん、彼等の為にも……ゴーレムを呼び出して欲しいのだ」
やはりこうなるか、でも埋もれたまま苦しむ人の為なら仕方ない。
「わかった、ゴーレムよ、出てこい!!」
オレは、その土地に眠る魂を使ってゴーレムを生み出した。