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第30話 改修……完工??

 アンディ王子は自身の住むはずの部屋の劇的な変化に驚いていた。

 暗く、空気を入れ替える穴程度だった雨水の入り込んでくる窓は消え、その代わりに天井からは半透明のクリスタルのようなガラス張りになっていて、斜めのガラスは雨をそのまま伝わせた後に貯水槽に溜まり、ろ過されて飲料水として飲めるようになっていた。


 また、飲むに適さない水だが、川からアルキメデスポンプで階段を上ってくる水が水洗トイレや手洗い、また……量を溜めれば簡易式の浴室にもなるようになっていた。

 浴槽を温める魔鉱石は、小さなもので二週間に一度くらい兵士が取り換えれば良い頻度だろう。


 今までまともなトイレすらなかった悪臭立ち込める古い尖塔は、採光に適したガラス張りの屋根と濾過された綺麗な飲み水、そして浴室やシャワーのある快適な環境に劇的な変化を見せたのだ。

 この豪華さ、下手すれば一流リゾートホテルのロイヤルスイートに匹敵するくらいだな。


 また、兵士達の手間も、階段を使わずエレベーターで移動できるので、食事や本を届けるのも今までよりも楽に出来るようになった。

 何か大変な事があった際には、塔のエレベーターを使ってすぐに脱出が可能であり、また、エレベーターが途中で止まってもいいように階段の各場所に踊り場が設置され、エレベーターがどの場所でも緊急停止できるようになっている。


 これで尖塔の工事も完全に完了だ。


 オレ達は全員が協力し、アンディ王子の住む離宮の改修工事を一か月で終わらせる事に成功した。


 この作業は、オレ、モッカ、フォルンマイヤーさん、カシマール、それにロックゴーレムのザド、ガンミ、アジオ、誰一人欠けても完了できなかっただろう。


 オレは全体の監督、総指揮を、モッカはカエンオオトカゲなどの魔獣を使い、ガラスを作ったり鉄を溶かしたりそれ以外にもゴミの廃棄を、フォルンマイヤーさんは王宮に頼んで兵士の配置や大量の魔鉱石や石灰石などを用意してもらった。


 そしてカシマール、彼女がいなければオレはゴーレムを使うどころか、知らずにこき使ってしまっていた戦奴の魂に呪い殺されていたかもしれない。

 また、優れた鉱夫だったザド、ガンミ、アジオの魂をゴーレムとして使う事が出来たのも彼女のおかげだ。


 ザド、ガンミ、アジオの三体のゴーレムは不平不満も言わず、夜寝る事も無くずっと働き続けてくれた。

 数年間動けなかった分思う存分実体のある体を動かせたので三体とも満足しているようだ。

 この一か月で下手すれば一気に数年分働いていたと言っても過言ではないだろう。

 ゴーレムの身体には細かいヒビや割れ、欠けた部分があちこちに見られた。


「ザド、ガンミ、アジオ。本当にご苦労様でした。貴方達がいなければこの工事は終了できませんでした、本当に……感謝しています」


 オレは自分の本心を三体のロックゴーレムに伝えた。

 すると、そんなオレに三体のゴーレムが反応をしてきた。


「グゴゴゴゴ……オレタチ、ハタライタ。オモウゾンブン、ハタライタ……」


 どうやらロックゴーレムの身体も一か月フルに動き続けたのであちこちが欠けて満身創痍のボロボロになっていた。

 もう、彼らも解放していいだろう。

 本人がそれを望むならの話とは言えるが……。


「三人とも、もういい。ゆっくり休んでくれ」

「グゴゴ……ダガ……オレタチノ……カゾクガ……」


 そんな彼等の前に一歩踏み出したのはフォルンマイヤーさんだった。


「ザド殿、ガンミ殿、アジオ殿。聞いてほしいのである」

「グゴゴ……? ナン……ダ……?」

「国王陛下からの御達しである。この度、トミスモ鉱山の落盤事故で命を落とした者達、その全員の家族に対し、国より今後の魔鉱石の採掘で得た収入から遺族補償金を給付するとの決定がなされた」


 フォルンマイヤーさんの話を聞いた三体のゴーレムの動きが止まった。


「安心しろ。お前達の家族は国が保証する。それは、死してなお、魔鉱石の鉱山を掘り当て、開坑させたお前達に対する国からの礼である」


「グゴゴ……オオ、ナントイウ……アリガタイ、ハナシ……ダ」

「コレデ……オモイノコス、コトハ……ナイ」

「アリガトウ……アリガトウ……」


 三体のゴーレムはその巨体で手を付けて頭を下げ続けた。

 そしてゴーレムの身体がどんどん崩れ出してきた。


「どうやら魂の固定化が気持ちの揺らぎで崩れ出したようなのだ。もうあの身体はそう長く持たないのだ」


 カシマールがゴーレムを見てそう言った。

 ――そうか、家族の事が心残りで成仏できなかった鉱夫の魂だったが、国が遺族に対して保証をすると聞いて安心した途端、緊張の糸が切れたようになったんだな。


 三体のゴーレムは光りながら少しずつ崩れていった。

 その三体に対し、離宮の兵士達は敬礼をしている。


「ご苦労様でした。貴方がたのおかげでこの場所はとても素晴らしいものとなりました。我等はこの事を決して忘れません!!」

「グゴゴゴ…………」


 ゴーレムはもう半壊し、その場から動く事も出来ないようだ。

 そんな彼らを見ていたカシマールが、一歩踏み出し、手を三体のゴーレムにかざした。


「いいか、もうお前達は休む時なのだ。もうこれ以上悩む事も、苦しむ事も無いのだ。ボクがお前達をあちらの世界に導いてあげるのだ……さあ、お休みなさい、なのだ。さあ、Eの刻印を解くのだ……」

「……アリガ……ト……ウ」


 ゴーレムが崩れ落ちると、丁度その時にわか雨が降り出した。

 ゴーレムの頭部に降り注いだ雨、それはまるで彼等の涙のように見えた。


 そして豪雨が激しくなる中、ドザ、ガンミ、アジオの三体のゴーレムはその場から姿を消した。


「終わった……か」

「彼ら、みんな満足していたのだ。お兄さんに感謝していたのだ」


 ゴーレムが姿を消した場所で、オレ達はここでやった工事と鉱山の事を思い出していた。


「グゥゥー……」


 緊張感を損なう音、それは周りに笑いを誘った。


「うう、お腹が空いたのだ……」

「プッ、アハハハハ……」


 雨はいつしか止み、空には夕焼けが広がっていた。


「皆様、ご苦労様です。ささやかですが工事完了のお祝いの料理を用意したので、是非ホールにお越し下さい」


 オレ達がホールに到着すると、そこには大量の料理が並べられていた。

 水回りをきちんと整備したからか、その場は綺麗に掃除されていて、ここがかつてボロボロの離宮だったとは誰も思い出せない程の変化ぶりだった。


「モッカ、もうおなかぺこぺこっ。すぐにたべるっ」

「うう、ごちそうなのだ。お腹いっぱい、食べるのだ」

「そうだよな、みんな頑張って働いたから。美味しく食べれるよな。やっぱ、働いて食べるご飯が一番美味しいってやつだ」


 工事完了の祝宴は夜通し続き、オレ達は一仕事終えた満足感を実感していた。


 だがオレは今後の事を考えていた。

 鉱山の鉱夫の魂が今回は力を貸してくれたからよかったけど、今後オレはゴーレムをどう扱えば良いんだろうか?


 まあ、期限一か月の離宮の普請工事、これの大成功はオレ達の功績としてダイワ王に伝えられるだろうけど、今後どのような仕事を割り振られるのか。

 今回は鉱山の魂がゴーレムの核になる事で協力してくれたが、オレは今後本当にゴーレムを使いこなしていけるのだろうか……。


 今回の仕事が終わった後、オレはそんな事を考えてしまっていた。


 ああ、キリがないな。もう今日は全部事忘れて飲んで食べて騒ごう!


 オレは開き直って、明日以降の事は明日考える事にした。

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