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第29話 劇的……ビフォーアフター??

 分厚いガラスによる窓の補修工事も完了し、ついに離宮の補修工事は大詰めを迎えた。

 最後はアンディ王子が住む事になる尖塔の改修作業だ。


 まずオレが考えたのは、トイレの水洗化だった。

 しかしその為に考えないといけないのは、水をどうやって上に上げるかの方法だ。

 残念だがこの世界にある井戸の水を持ち上げる程度の滑車では塔の上まで水を上げる事は不可能だ。


 だからと言ってオレにポンプを作る技術が有るかと言われるとそんなものは無い。

 それは専門の業者がやる事で、オレは水回りの工事は配備するだけしかやったことが無いんだよ……。

 そこでオレが考えたのは、学生の頃に習った古代のポンプシステム、つまりアルキメデスポンプだった。


 アルキメデスポンプとは、斜めにした筒の中に螺旋状の板を組み込む事で手回しで水を下から上に持ち上げる事の出来る原始的なシステムだ。

 これならば、この世界の技術力でも十分作る事が可能、そしてこの方法は中世でも船に溜まった海水を外に放り出す為に使われたりした実績のあるものだ。


 鉄は錆びついた武器を使えばまだまだ現地調達可能、錆を落として砕いた鉄をカエンオオトカゲが高温のブレスで溶かす事で溶けた鉄を筒状に巻いてその中に螺旋の円盤を何枚も仕込んだものを作った。

 この作業もゴーレムがやってくれたので、高温作業をものともしないゴーレムとカエンオオトカゲのどちらかが欠けても成り立たない状態だ。


 というかモッカの呼びだしたカエンオオトカゲがマジで大活躍だな。


 そして鉄が冷えて中に螺旋円盤を入れる事で、簡易式のアルキメデスポンプを作る事が出来た。

 このポンプは、外に剥き出しにしてしまうと攻めてきた敵に狙い撃ちされる可能性があるので、階段の横に設置する事になった。

 まあこの階段の傾斜をアルキメデスポンプで水が上るようにしたのでこれで水洗のトイレ設置は可能になったという事か。

 また、あまり大量の水は使えないが少し時間がかかっても良いならレバーで出せる簡易式のシャワーや浴室も使えるようにした。

 これで水の使えない不潔な環境は改善できたと言える。


 本当ならウォシュレットまで付けてみたいところなのだが、残念だがオレにはそう言った技術は持ち合わせていない。

 そう考えると、建築物や建造物を作るのって本当に大量の人の技術の粋を集めて作られているんだな……と、つくづく実感するものだ。


 水洗トイレの設置はこの離宮の他の場所にも可能だった。

 もっとも、そちらの方はアルキメデスポンプを緩やかな傾斜にして作ったので水の勢いが強いかもしれないが、川の水を使っている以上これは仕方ないだろう。

 水を吸い上げる為の動力は魔鉱石からのエネルギーで十分賄えそうだ。


 そしてエネルギーになる魔鉱石を設置する装置は川に設置した水車で固定し、魔鉱石を回転させながらエネルギーを取り出す事にした、まあ……初歩的なタービンだとか発動機といったところか。


 この発動機のおかげで、自動で水を吸い上げるアルキメデスポンプが設置出来た。

 これで水洗トイレや厨房の水回りはかなり快適になったと言えるだろう。


 こうやって離宮全体の水洗トイレ等の水回りの設置が終わり、次は尖塔にエレベーターを設置する作業に取り掛かる事にした。

 このエレベーターも動力になるのは魔鉱石だ。

 電気によるエレベーター程の性能は見込めなくても、安全に人や荷物を上げ下ろしするくらいならこのエレベーター一つで十分使えるだろう。


 このエレベーターは安全面からも考え、ロープではなく中型船の錨に使われる鎖を歯車と滑車で上下できるようにした。

 これはそれ程のスピードが出ないのでゆっくりと上下するようになっている。

 また、エレベーターの素材は金属製のゴンドラに出入り口を付けた、いわば遊園地によくありそうな簡易式の鉄檻のようなモノにしているので、空中への狙い撃ちの攻撃にも耐えられるだろう。


 まあ、とんでもない高温になると流石にしのげないだろうがそんな事はあり得ないと考えないと。


 ここはあくまでも中世レベルの技術力の世界、現代日本みたいな安全が全てに勝るといった作業が出来る場所では無いのだ。


 オレとしては、エレベーターは塔の内側の柱に設置したかったが、そうなると柱の強度が保てずに塔が崩壊する。

 そう聞いたのでオレは仕方なく外壁に沿う形で上下するエレベーターを作る事にした。


 この方法ならもし鎖が切れてしまったとしても、最寄りの階に停止したゴンドラから脱出して階段で移動できるからだ。


 だが、この作業と塔の修繕は思ったよりも大変だった。

 何故ならそれは、この尖塔の大きさがゴーレムの身長より高かったからだ。


 オレはゴーレムのザド、ガンミ、アジオにそれぞれが足場を支える土台になる事を指示した。

 二体のゴーレムに支えられた一体がゴーレムの身体を踏み台にして上によじ登ると、その高さは塔の最上階に手が届くくらいになった。

 そして高所作業をしたゴーレムは、エレベーターのゴンドラと滑車を尖塔の王子の部屋の前に設置し、これでついに離宮の修繕工事の大半が完了した。


 だが、これで終わりではない。

 最後に仕上げが必要だ、それまではまだアンディ王子を元の塔に戻すわけにはいかない。

 これからやる作業は、天井部分のガラス張り作業だ。


 以前の尖塔は逃げ出せないように小さな空気入れ替えの窓が一つあるだけだった。

 だから日々ほぼ真っ暗に近い中で常に明かりを灯し続けるような生活だった。

 これだと蝋燭等の照明もかなり消費する事になる。


 まあこの建物自体が百年以上前の隣国との戦闘の際に作られた砦だったのでこの造りも仕方ないだろう。

 本来のこの部屋は敵の捕虜を捕えておくための部屋だったわけだからな。

 だが今はアンディ王子が快適に住める環境にするとフォルンマイヤーさんに約束した以上、手を抜けない。


「ザド、ガンミ、アジオ。その大きなガラスを割らないように塔の上に持ち上げてくれ!」

「グゴゴゴ……ショウチ、シタ」


 三体のゴーレムは協力してその巨体を生かし、作った分厚い半透明のガラスを尖塔の上に持ち上げた。

 このガラスで天井にサンルーフを作り、斜めに切り取った部分にガラスをはめ込めば、採光に適した屋根を作る事が出来る。

 また、


 三体のゴーレムは鉄を溶かして特注で作ったゴーレム用のサイズの巨大カッターを使い、ガラスを断ち切った。


 しかしこれ、カッターというよりどう見ても斬馬刀かドラゴンスレイヤーだよな……。

 人間の武器にしたらデカすぎて誰も使えない。


 ガラスを切るには、筋を何度も同じ場所に入れて折るのが割らずに確実に切れる方法だ。

 こうしていくつもカットされたガラスは、元熟練鉱夫のゴーレムによる器用な手先で何枚も用意され、丸い尖塔の屋根の形に合わせて何枚もが少しずつ重なるように張り合わされた。


 そして仕上げはモッカの呼んだカエンオオトカゲがブレスを吐く事で溶かしながらゴーレムの手で圧着、これで頑強な隙間なく、接着されたガラス屋根が完成した。

 最後の仕上げはカシマールの語りかけてくれた浮遊霊がガラスのはめ込みとバリ取りをしてくれている。

 傍から見ると何も見えないのに作業が進んでいる異様な光景に見えるだろう。


 よし、ついに完成だ!!


 オレ達は当初の契約通りに一か月以内で無事、第三王子アンディの住む離宮の普請工事を完了させた。


 この一か月の工事で、風化して朽ち果てていた離宮は頑強なテラゾーブロックで覆われ、エレベーターに水洗ポンプを備えた堅牢な城塞に姿を変えた。

 そしてアンディ王子の部屋は採光に優れたガラスルーフで覆われ、塔はエレベーター完備の最高の環境になった。


「こ、これが僕の……部屋だったのか!?」


 改築工事が終わり、塔の部屋に戻されたアンディ王子は自分の住む部屋のあまりの劇的な変化に驚くしかなかったようだ。

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