元々ゴーレムに入っていた時の戦奴の魂と違い、屈強な鉱夫の魂の入ったゴーレムは休もうとしない。
オレが呼びかけても、彼等はこのように返してきた。
「グゴゴゴ……セッカクコレダケオモイドオリニウゴクカラダ、ヤスムナンテモッタイナイ。モット……ハタラカセテクレ!」
まあ、魂だけで何年もずっと同じ場所で動けずに漂っていた彼等にしたら、屈強で思い通りに動くゴーレムの身体は最高のものなのかもしれないな。
まあオレ達は休ませてもらおう、どうやらオレが寝ても呪われそうには無さそうだ。
次の日、少し遅くまで寝ていたオレ達が目を覚まして食事の後に離宮の外壁を見ると、そこは既に大量の岩によるブロックが積まれていた。
三体のゴーレム達は朽ち果てた城の外壁を剥がしては粉々にし、それを再びとんでもない力を出せる手の握力でセメントと混ぜて圧縮して出来た塊を、巨大な両手剣を小さなナイフ代わりにして削っていたのだ。
オレが軽くその作られた岩のブロックを叩いてみたが、ものすごく硬い!!
これはオレの知っているテラゾーブロックとはまるで別物だ。
オレがセメントの作り方をザド、ガンミ、アジオに教えると、彼等は自ら石を砕き、水と砂利を混ぜて作りだした。
セメントの材料になる焼いた石灰石はフォルンマイヤーさんに頼んで用意してもらった。
その石灰石をモッカが呼び出したカエンオオトカゲが高温のブレスで焼き、そして三体のゴーレムが砕く。
この作業を繰り返し、砕いて圧縮した朽ち果てた石壁と混ぜる事で頑強なテラゾーブロックが作られたというワケだ。
頑強な疑似テラゾーブロックはセメントで間を埋められながら三体のゴーレムによってどんどん積み重ねられていく。
そして数日もすると朽ち果てた離宮の外壁は全てが頑強な疑似テラゾーブロックで覆われる事になった。
本来のテラゾーブロックは、人造大理石とも言われるくらい、見た目が綺麗なものなので、この朽ち果てた離宮が今や……白亜の宮殿とも言えるレベルのビフォーアフターだ。
外壁の修理にかかった期間はおよそ二週間。
流石に巨大なゴーレムでも三日程で完成させるのは無理だったと言えるだろう。
それでもこの三体のゴーレムは不眠不休で二週間ほぼ働き続けている。
だが、オレはスッキリした快眠で、ゴーレムによって呪われるといった事は無かった。
でも油断は出来ない、いつどのようにオレの命令や束縛から離れて暴走してしまうか、そう考えるとそれ程楽観視出来ないのだ。
さあ、ゴーレム達によって外壁の補修はほぼ完成に近づいている。
次は、この城の移動や避難といった問題点の解決だ。
オレは図面を引いてこの城のどこにエレベーターを設置するかを考えた。
「こばやし、このしかくいのはなにっ?」
「モッカ、ここは、床の部分が上下するエレベーターというシステムになるんだ」
「えれ……べえた?」
まあこの世界の人はエレベーターを知らないだろうから、この反応も当然だろう。
オレの説明は後々合流したフォルンマイヤーさんも理解できていない。
カシマールは我関せずといった感じで、ハチミツパンケーキを食べている。
まあこういう場合は実際に見せた方が早いかもしれないか。
オレはゴーレムに頼み、大きな床板になる鉄板を作ってもらった。
材料になったのは離宮にあった数十年前の朽ち果てた砲台だ。
この砲塔をかき集めて全部溶かし、一枚の大きな鉄の板にしたというわけだ。
鉄を溶かしたのはこれもカエンオオトカゲのブレスだ。
オレのこの仕事、ひょっとしたらモッカがいないと成り立たなくなってきているかも知れないな。
巨大な鉄の板は、人間が三十人は載れるほどの大きさになった。
人間三十人が乗れるエレベーターとなると、武器を装備して鎧を着た兵士一人100キロと考えて、3000キロ、つまり3トンとなる。
その重量を持ち上げる事が出来るようにしつつ、三階まで上下できる様にするとすれば、以前可動橋を作った際の大型船に使う錨の鎖を使うのが良いだろう。
動力源は、水車では心もとないのでやはり魔鉱石を使う必要が有るかな。
魔鉱石はこの世界の動力源としてはメジャーなものなので、国が管轄するとなれば十分手に入るだろう。
魔鉱石の採掘できるトミスモ鉱山が使えるようになったので魔鉱石は比較的安価に手に入るようになったからだ。
これでエレベーター設置の準備は整った。
場所としては、朽ち果てかけたバルコニーのあった部分に設置するのが一番いいだろう。
ここならば外から剥き出しでも問題が無く、元からのベランダ部分みたいな手すりがある。
普段は使わないで一階部分に床として設置しておくが、いざ何かを持ち上げる際には魔鉱石を動力源とすれば3トンまでの物なら持ち上げる事も可能。
これでいざという時の敵との戦闘になった際には十分持ちこたえらえる。
オレはゴーレムに命令し、このエレベーター設置を完了させた。
これで外壁の補修、要塞としての内部移動、それに外敵からの防御の問題は解決したと言えるだろう。
後は緊急用の避難経路の確保と小型のエレベーター設置、それと第三王子のいる尖塔のエレベーター設置でこの離宮の普請工事は終了か。
オレは小型のエレベーターを厨房と兵舎に設置し、数名ならいつでも利用できるようにしてゴンドラを設置した。
数名の昇降程度ならこれで十分だろう、それにこれくらいの動力なら魔鉱石の消費も大したものではない、言っても灯りと同じくらいの消費量だ。
残りの作業は一週間ほどで終わった。
内装作業に関してはこの場所にいる兵士達が率先して手伝ってくれた。
彼等にしてもエレベーターを設置してもらったのがとても助かったらしい。
本来なら階段の上り下りのキツイ作業だったのが、エレベーターのおかげで楽にできるという事で彼らは喜んで内装をどんどん綺麗にしてくれた。
そして朽ち果てた離宮と呼ばれた建物は、今や国内でも有数の綺麗で豪華な宮殿に姿を変えた。
さて、最後は避難用のラダーと滑り台、それに第三王子がいる尖塔の修繕か。
避難用の滑り台は普段はダストシュートとして利用できるようにしておこう。滑り台の出口は川にしておけば問題無いだろう。
そして、傾斜は降りるには楽だが昇るのは難しい一方通行にしておけば、防災面でも万全だ。
もし登ろうとしてきた相手がいたら上から熱湯や油、場合によっては汚物(こんなものは使いたくないが)を上から落とせば昇ってこようとする敵もひとたまりも無い。
これで避難用経路の設置も完成したが、やはり念には念を入れておくか。
「この離宮で余っている鉄線はあるか?」
「武器を縛るための物などで良ければいくらかあります」
オレが考えたのは魔鉱石をエネルギーにした明かりの導線だ。
これは使い方によっては数万ボルトの電圧にも匹敵するものにもなる。
下手に有刺鉄線でバリケードを作ったらまるで刑務所みたいになり、また維持も大変だ。
それに比べれば魔鉱石のエネルギーを流す導線を鉄で作れば、数万ボルトの電圧にも等しいエネルギーを流しつつ、防御面では鉄壁の要塞になる。
オレの指示でロックゴーレムは数万ボルトの電流に匹敵するエネルギーを流す導線を離宮の外壁全てに配置してくれた。
流石はロックゴーレムというべきか、作業中に何度か高圧のエネルギーを受けてしまったようだが、それでも平然としていた。
もしこの作業を人間がやっていたら、高圧のエネルギーで何人即死して犠牲が出ていたやら……。
オレは改めてゴーレムのタフさと力強さに感心していた。