トミスモの廃坑で、オレは落盤事故に遭って死んだ鉱夫の魂をゴーレムにする事になった。
どうやらオレのスキルでは一度にゴーレムを作り出せるのは同時に三体までのようだ。
その後はスキルを使おうとしたが、腕だけが出来て崩れたり、頭だけが出来てすぐに崩れ、ものにならなかった。
どうもオレのスキルのキャパシティが問題のようなので、それ以上はチャレンジせずに諦めた。
三体のゴーレムは、それぞれが、ザド、ガンミ、アジオと名乗った。
それが生前の彼らの名前だったのだろう。
オレが三体のゴーレムに最初に命令したのは、鉱山の落盤現場の処理だった。
巨大な三体のロックゴーレムは、崩れ落ちた大きな岩盤を持ち上げ、素早く鉱山の外に持ち出した。
それはこの大型ゴーレムだから出来た事だろう。
ザド、ガンミ、アジオはそれぞれが十メートル少しの大きさで、それだけの巨体が手慣れた手つきで岩をものともせずに繊細に掘り起こしていた。
以前の戦奴の魂の入っていたゴーレムの緩慢な動きとはまるで別物だ。
その動きはまるでスーパーロボットのようにダイナミックでありながら細やかなものだった。
言うならばエースパイロットの乗ったロボットといったところか。
鉱山の本職が巨大な身体を得て、作業を進めた結果……落盤事故の処理は一日半で完了した。
そしてオレやモッカ、フォルンマイヤーさん達は、ゴーレムの掘り起こした岩盤の下敷きになっていた骸骨を集め、墓を作って埋葬してやった。
死者の魂を天に送ったのは、ネクロマンサーのカシマールだ。
彼女の祈りは無念の中にあった鉱夫達を沈める事ができたのだろう。
「私はひとまず先に王都に向かうのである。この鉱山事故の遺族たちに保証をしなくては。その為の書類を用意するのである。コバヤシ、お前はもう大丈夫そうだ、数日後に離宮で会おう」
フォルンマイヤーさんは馬を用意し、トミスモの廃坑を離れる事になった。
「カシマール・シュミッツ。お前の手配書は取り下げさせておこう、お前はもう無罪だ、コバヤシの事を頼むのである!」
「えっ……それって、どういうことなのだ?」
「お前がいなければコバヤシはそのまま死んでいた、その事に対する礼である。お前はもう自由の身だ」
そう言ってフォルンマイヤーさんはカシマールに微笑んだ。
そして、彼女は一足先に馬で王都に向かった。
残されたオレ達は三体のロックゴーレムによって大きく広げられた鉱山で掘削作業を見ていた。
下手に素人の俺達が手伝うよりは、頑強な身体の手に入ったベテランの鉱夫に任せた方がよほど効率的だからだ。
オレ達はザド達が掘り出した岩盤の中から見つけた魔鉱石を外に運び出す作業を手伝った。
「こい、おおもぐら!」
モッカが指笛を噴くと、魔獣ラージモールが姿を見せた。
流石は魔獣使いというべきか、この場所にいる魔獣もモッカの命令で従うらしい。
ラージモールは背中に鉱石の入った袋を括りつけられ、鉱山の入り口まで運んでくれた。
この作業を人間がやっていたら軽く一か月以上かかるだろう。
そして数日で魔鉱石の鉱脈までのルートを掘削した三体のゴーレムは、ついにその動きを止めた。
「ググゴゴゴ……コレダケ……アレバ、カゾクニ……ラクヲサセレル……」
三体のゴーレムはそれぞれが、家族が一生不自由しないだけの魔鉱石の鉱脈を掘り当てる事が出来た。
そして、フォルンマイヤーさんの報告を受けた王国の調査隊が訪れたのが一日後だった。
「これは、凄い。本当に魔鉱石の鉱脈がありますね。わかりました、これからこの場は王直属の鉱山として再び開坑することになります。コバヤシ殿、この度はご苦労様でした!」
どうやらこの鉱山の掘削事業はナカタとの対決におけるオレの功績として認められたようだ。
そしてオレはモッカ、カシマールとこの場を離れる事にした。
工事をする予定の離宮に向かう為だ。
「グゴゴ……ゴシュジンサマ。オカゲデ……オレタチ、ムネンヲハラセタ。ゴシュジンサマ、ツギノごメイレイヲ……」
「ザド、ガンミ、アジオ。オレ達はこれから第三王子の居る離宮に向かう。その工事を手伝ってくれるか」
「ゴゴガガガ……モチロンデス……ゴシュジンサマノ、ゴメイレイデシタラ……」
ロックゴーレムのガンミがオレにうやうやしく頭を下げた。
どうやら本当にこの三体、オレの工事の仕事を手伝ってくれるようだな。
だが、コイツらとの仕事はそこまでにしておこう。
コイツらの魂をゴーレムに束縛し続け、下手すれば効果が切れて暴走でもされたらたまったもんじゃない。
まあ後一か月無いくらいなら呪われる事も下手に束縛からの暴走も無いだろう。
オレ達はトミスモ鉱山を離れ、離宮に向かった。
道中、モンスターが何度か襲ってきたが、そのモンスター達は三体のロックゴーレムによって粉々に砕かれたり、地響き一つで怯えて逃げ出した。
これが本来のA級モンスターと呼ばれるゴーレムの強さか、目の当たりにすると圧巻だ。
流石……鉱山の荒くれ男の魂が入ったゴーレムは、戦いに怯えていた戦奴のものとはまるで違う。
コイツらが敵でなくて良かった……。
そんな三体のゴーレムのおかげでオレ達は危険な目に遭う事も無く、三日後には離宮に到着した。
オレ達が到着した離宮は、あちこちの壁がボロボロに風化し……ドアがボロボロで外れかかっていた場所がいくつも見られた。
雨水や隙間風があちこちから入り、それが風化を促進しているとも言えるだろう。
第三王子の部屋は高い塔の最上階に用意されており、外部からの侵入者を寄せ付けない造りになっているようだ。
さて、この離宮をどうやって堅牢な要塞に仕立てるか。
オレはある方法を考えていた。
それは、周りの川を使った自然の堀からの水を活用する方法だ。
だがそれだけではエネルギー源としては乏しい。
この離宮でも魔鉱石は使われているが、あくまでもそれは食事の煮炊きや照明を灯す目的程度だ。
政治的に敗れた第三王子にはそれほどの予算が与えられるものではない。
だが下手にここに予算をかけないと今度は敵対する隣国によって第三王子が奪われ、争いの火種になってしまう。
それを避けるにはこの離宮を堅牢な要塞にする必要があるのだが、いかんせん……ここは人手も少なければ設備もボロボロ。
さてどうやってこの建物をどう普請すればいいのだろうか。
その答えは、現代建築にあった。
それは、水路の確保と避難経路の設置と、エレベーターの設置だ。
この世界にも罠としての釣り天井は存在する。
だが、エレベーターというシステムは誰もまだ発見も発明にも至っていないようだ。
郊外の町でオレが車椅子や荷物の上げ下げの為に井戸の滑車と屋根板を転用した簡易式のエレベーターはあるが、それも局地的なもので一般化はしていない。
だからこの場所で第三王子の部屋の入り口近くにエレベーターを設置する事で、食事等を届けやすくする事と、いざという非常時にはこのエレベーターで外に脱出させる事で誘拐犯から第三王子を守る事が出来る。
それにいざという時には別の場所に設置しておいたエレベーターを使う事で階段を使うよりも早く大勢の兵士が集合できるようになる。
これらの色々な要素からも、この離宮の補強工事にはエレベーターの設置が必要になるというワケだ。
さて、今回は石のスペシャリストがいるので削り出しの石壁を作るのが簡単に済みそうだ。
三体のゴーレムはまるで子供がナイフで工作をするかのようにその巨体で岩石を削って同じ形のブロックを器用に作っていた。