オレ達が廃坑の大穴から下に降りると、そこは落盤跡の打ち捨てられた現場が広がっていた。
この様子からして誰一人として助からなかったのだろう。
鉱山の仕事は罪を犯した廃嫡された貴族等が送られる場合も有るが、大抵は自主的に率先して仕事に来ているようなものだ。
ハイリスクハイリターンとはいえ、衣食住があった上で大金を稼げる、だから食い詰めた体力に自信のある男は鉱山で仕事をしていたと聞いた事あるな。
戦前の日本でもやはり同じように鉱山は危険も大きいが稼げる額も大きい仕事で、軍に行かない男や退役後の食い詰めた男が集まっていたと聞く。まあ有名なのは軍艦島だろう。
それで、ここのトミスモの廃坑も元々は栄えた鉱山だったらしい。
ここは規模がかなり大きく、大勢の人間が働いていたのだろう。
だが、今は見る影もなく打ち捨てられた場所になっている。
大半の鉱夫達は落盤による即死、圧死だったのだろう。
上の部分にぽっかりと大きな穴が開いて空が見えているが、その部分の岩盤が一気に地震か何かで崩れ落ちたようだ。
これはどう見ても逃げ出す時間なんて無かったと見える。
「聞こえるのだ、ここにいる人達の無念の声が……」
カシマールは目を閉じ、手を前にかざして何かを感じ取っていた。
彼女は死者の声を聞けるネクロマンサーだという、その彼女が何かを死者の魂から聞いているらしい。
「それで、彼等は一体何を言っているんだよ?」
「無念だ……ここの地下にはもっと多くの魔鉱石があったのに……そう言っているのだ」
魔鉱石とはこの世界で使われるエネルギー源、いわば石炭や石油のようなモノだ。
ここは国内でも最大級の魔鉱石鉱山だったらしい。
「おれ達に頑強な身体が有れば、こんな所でくたばってる場合じゃないのに。もう少しで最大級の魔鉱石鉱脈が見つかるところだった……そう言っているのだ」
そう言っても、声を聞けるカシマールにはともかく、オレをここに呼んだ理由って……まさかここにいる死者の魂でゴーレムを作れって事か!?
「お、オイ……カシマール。お前がオレをここに連れてきた目的って、まさか……ここの死者の魂でゴーレムを作らせるためなのか!!」
「……そうなのだ、お兄さんなら……出来ると思ったのだ」
「冗談じゃない! オレはもう死人の魂に振り回されて呪われるのは勘弁だ! こんな所に居られるか、すぐに帰るぞっ!!」
カシマールめ、オレに恩を仇で返しやがったのか! もういい、こんな所に来たのは無駄足だった。
こうなったらもうナカタとの対決なんて投げ出して、ここじゃない国で現代知識を使った仕事で暮らしてやる。
だがそんな剣幕のオレの袖をカシマールがグッと掴んで離さなかった。
「黙って連れてきたのは謝るのだ……でも、少しだけでも話を聞いてほしいのだ……」
……ったく、可愛い女の子にそんな涙目の上目遣いで見られたら、そういうのに慣れてないオレとしたら話を聞くしかないじゃないかよ。
「わかった。それで、どうしたいってんだ?」
「今から魂を具現化するのだ……本人に話をさせるので、少し待っててほしいのだ」
そう言うとカシマールは落盤に埋もれた骸骨の頭部を持ち、何かの呪文を唱えた。
この光景を見ると彼女がネクロマンサーだというのは疑いようのない事実なのだろう。
フォルンマイヤーさんは少し驚きながらも腰の剣をすぐに抜けるようにしている。
モッカは骸骨に対して警戒するように毛を逆立てて息を立てていた。
そして少しして、骸骨の眼窩が光り、その口から言葉が発せられた。
「お、おれの……声が、聞こえるか?」
骸骨は空気を吸い込みながらどうにか聞こえる声でオレ達に話しかけてきた。
「おれの名は……ザド、この鉱山で働いていた。だが、ある日、いきなり起きた地震でおれ達は……全員が落盤の下敷きになってしまった」
事故の当事者から聞いた内容は凄惨なものだった。
そして軽傷だったが生き埋めになったまま空気が吸えずに死んだ者も何人もいたようだ。
軍が到着した時には、もう誰一人として生存者はいなかったらしい。
まあ、72時間の壁というからな、それを過ぎると生存率は格段に下がる。
この世界で落盤なんて起きたら待っているのは死が確実ってワケか。
それでこのザドという男は生き埋めになって死んでしまったという事だな。
「おれ達は、家族に仕送りをする為にここで働いていた奴らが多い。だがおれ達が死んでしまった事で、家族がまともに生活できているのか、それが心残りなんだ……」
「そうなのか……それは辛かったのだ」
「それで、頼みがある……」
骸骨は悲しそうな声ですがるように話しかけてきた。
「娘さん、アンタ……死人使いなんだろう。オレ達に動ける身体を貸してくれ。この下の魔鉱石、これを掘り当てて家族にどうにか仕送りをしたい、それが出来なければおれ達は死んでも死にきれないんだ……」
……ひょっとして、それはオレに彼等の魂をゴーレムにしてくれって意味なのか。
「お兄さん、聞いてほしいのだ。彼らは、家族の為に魔鉱石を掘り出して仕送りをしたいそうなのだ。でももう彼等の肉体は落盤でバラバラになって、蘇生術も使えないのだ。だからお兄さんの力で彼等を……助けてほしいのだ」
「そ、そう言われても……」
オレは迷っていた。
ゴーレムマスターとしてのスキルは、死者の魂を核として作ったゴーレムを使う事だ。
そして、その死者の魂を留め置く事が出来るのが黒い宝石、ソウルオブシダン。
この二つの条件が揃っているので、彼等の魂をゴーレム化する事は問題無い。
だが、それが本当に彼等の為になるのかどうか、そこを聞いてみない事には。
「ザドさん。確かにオレはあなたに頑強な身体を与える事が出来る。でもそれで本当にやりたい事が出来るんですか? 苦しみに捕らわれ続ける事にはならないんですか??」
「……こんなところで死んだまま動く事も出来ず、身体も無くて家族の心配をし続ける事の方がよほどおれにとっては地獄だ。頼む、おれに身体を与えてくれ、そうすればどんな事でもやってやる!!」
骸骨は頭部を揺らしながら叫んだ。
……わかった、オレを呪わないというなら、力を貸そう。
「どんな事でも、それは……工事の作業を任せる事でもやってくれるのか?」
「身体をくれるならどんな命令でも聞く、それがもしどんな悪い事で人を殺す事でもな! ここで動けないよりはよほどマシだ!!」
い、いや。オレはそんな事やらせるつもりはないけど。
「わかった、それなら力を貸そう。ザド、オレのスキル……見てろ!」
オレは以前ゴーレムを生み出したように、スキルを使った。
「出でよ、ゴーレム!!」
すると、カシマールの持っていた頭蓋骨が砕けて粉になり、その中に入っていた魂は地面に吸い込まれて、大きな地響きが起きた。
ズゴゴゴゴゴゴ……!
そして、その辺りの岩石を集めながら、その場に三匹の巨大なゴーレムが姿を現した。
そして、その三体の頭部にはEの刻印が刻まれた、どうやらこのEの刻印がゴーレムを作り出す力だったらしいな。
「グォォォ……オレノ、ナマエ……ザド……。ゴシュジンサマ、メイレイ……ヲ」
鉱夫だったザドの魂は、ゴーレムマスターのオレが使ったスキルで巨大なロックゴーレムに姿を変えた。
その後ろから他にも二体のゴーレムが姿を見せた。
「ワシノ……ナマエハ、アジオ……。ゴシュジンサマ、ヨロシク……」
「ワレノ、ナマエ……ガンミ。ゴシュジンサマ、メイレイヲ……」
そしてオレは、廃坑跡で三体の巨大なロックゴーレムを自らの手下にする事になった。