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第23話 呪いの……魔法使い??

 オレが町で道を遮られた少女は、オレに向かってとんでもない事を言った。

 それは、オレが相当に強い呪いでこのままでは死んでしまうという話だった。


 だがこの少女が何でそんな事を知っているのだろうか?

 それよりも、この子は一体誰なのか??


「お、お嬢ちゃん。いきなり何不吉な事を言うんだ? 冗談はやめなさい」

「冗談じゃないのだ、お兄さん……このままでは呪いで死んでしまうのだ。今すぐにここから出かけるのを止めるのだ!」


 フードの内側から見えた目は銀色の髪とのコントラストで、彼女はかなりの美少女だった。

 だけど、一体何故オレがそんなに呪われているっていうんだ。


 このままでは仕事にならないのでオレ達は結局異世界ゴーレムカンパニーに戻る事になった。

 とりあえずこの娘の話を聞いてみる為だ。


 会社の小汚い応接室のおんぼろソファーに銀髪の少女が座った。

 そしてオレは車椅子に座ったまま彼女と話をする事にした。


「お兄さん、今少し楽にしてあげるのだ……そこを動かないで、リラックスするのだ」


 オレが身体から力を抜くと、銀髪の少女は手をオレの顔の前に差し出し、謎の言葉を呟いた。

 すると、オレの身体から黒いモヤのようなモノが少しずつ抜け出し、彼女の上に溜まり出した。


「お兄さん、以前あげた黒い石、持っていたらすぐに出すのだ!」

「えっ、わ……わかった」


 オレは荷物入れから黒い石を取り出した。

 すると、黒い石は怪しく光り輝き、黒いモヤはその中に全て吸い込まれた。


「こ、これはいったい……」

「ボクがお兄さんの身体に溜まっていた呪いを取り出したのだ、これで身体が少しは楽になったはずなのだ」


 そういえば身体が軽い!

 あれだけ疲労困憊で倒れそうだったオレがここまでスッキリできたのは転生直後以来だ。


「あ、ありがとう。キミはいったい……誰なんだ?」

「ボクの名前は、カシマール。カシマール・シュミッツなのだ」


 彼女は自分の名前を『カシマール・シュミッツ』だと言っていた。

 ひょっとして、それって……指名手配の人相書きに描かれていた呪いの魔法使いの名前じゃないのか!?


「カシマール……シュミッツだとっ!?」


 彼女がカシマールだと名乗った直後、フォルンマイヤーさんが剣を抜き、彼女に突きつけた。


「お前が、呪いの魔法使いカシマールか! 大人しくしろ、そうすれば手荒な真似はしないのである!」

「まままま、待つのだ、呪いの魔法使いって、どういう事なのだ!?」

「とぼけるなっ! 死者を冒涜し、墓場の死体を使って自らの手下とするネクロマンサーめ! 貴様の行為は神に背くものだ!!」

「誤解なのだ、ボク……悪い事はしていないのだ!!」


 どうも話が食い違っているみたいだが、オレの事を助けてくれたこのカシマールが邪悪な魔法使いだとはオレはとても思えなかった。


「フォルンマイヤーさん、一旦落ち着いて下さい、一度彼女の話を聞いてみましょう」

「う、うむ……コバヤシが言うならそうしよう。だがもし少しでもおかしな行動をとれば、即座に斬られる覚悟をするのである!」

「わわわ、わかったのだ……だからその剣をしまって欲しいのだ……」


 カシマールとフォルンマイヤーはお互いを睨み合った状態で、オレは二人の間に取り持つように座る事にした。

 モッカはこの一連の流れの意味が分からないまま混乱しているので、一度外に出して散歩させておいた。

 モッカがいたら下手すればもっと話がややこしくなりそうだからだ。


「それで、呪いの魔法使い、お前は何故コバヤシが呪われていると知っていた? ひょっとして呪いをかけたのがお前自身で、その呪いを解いてやる事で大金をせしめようとでも思ったのか?」

「そんなくだらない事をするわけが無いのだ! ボクは戦巫女の末裔なのだ、戦場で散った魂を沈める為に世界中を旅して魂を救っているのだ」


 おや、何だかそれを聞くと呪いの魔法使いというのは確かに誤解なのかもしれない。


「それでは何故お前は古戦場や墓場といった場所で死者を冒涜していた? 自らの手下として使役する為では無いのか?」

「違うのだ、ボクは……友達がいないから、あっちの世界の人達と夜寂しい時に話をしていただけなのだ。ボクは何も悪い事をしていないのだ!」


 聞いた感じ、カシマールの言っている事は嘘では無さそうだ。

 それに彼女が本当に邪悪な魔法使いならオレを助けてくれるわけも無い。


「まあ良いだろう、お前は証拠不十分で今の時点では罪ではない、だがそれはお前の今後の行動次第だ。それで、お前の言っていたコバヤシの呪いとは一体何なのだ?」

「わかったのだ、今からそれを説明するのだ」


 オレに関する呪い、その正体をカシマールは知っていたという事か。


「お兄さんが使っていたスキル、ゴーレムマスター。これはボクの一族に伝わる伝承で、神の力で死者に再び力を与えるものとも言われているのだ。つまり、お兄さんは死者の魂を使っていたというワケなのだ」


 ――なんだそれ!? ひょっとして、このゴーレムが古戦場で生み出された理由が死者の魂を使っていたからという事なのか!


「そして本来、ゴーレムは一度使うと一度きりで土や石に戻るのだ、だけどボクがお兄さんに与えた黒い宝石、ソウルオブシダンはその魂を留め置く事が出来るモノだったのだ。だから、お兄さんのゴーレムが土に戻らなかったのはボクのせいなのだ……」

「だったら貴様はどうしてそんな物をコバヤシに渡した!?」

「何も……持ち物の無かったボクが唯一お兄さんに助けてもらったお礼として渡せるのが、この石しかなかったのだ……」


 そう言うとカシマールは悲しそうな顔をした。

 それを見たフォルンマイヤーさんは、少し言い過ぎたと思ったようだ。


「そ、そうか……でもお礼とは」

「ボクが溝に落ちて上に登る体力も気力も失ってに行きかけていた時、助けてくれたのがお兄さんだったのだ。だから命を助けてもらったお礼にこの石を渡したのだ。でもお兄さんがゴーレム使いだと知っていたら……こんな石は渡さなかったのだ!!」


 なんともやるせない話だ。

 カシマールは唯一渡せるお礼が魂を束縛できる石だったわけで、本来ならすぐに土に戻るゴーレムがその石のせいで元に戻らなかった。

 そしてオレは古戦場の死者の魂をこき使って土木の仕事を休ませる事も無くずっと働かせ続けていたってわけか。


 そりゃあ呪われても当然だな……。


「でも、もう呪いも解けたし、このゴーレムの魂を解放すればオレの体調不良も無くなるんだろ。カシマールさん、お願いだ。このゴーレム達をもう眠らせてやってくれ」

「お、おい! コバヤシ!! お前、仕事はどうするんだ」

「死んでまでこき使われるなんてオレが同じ立場なら絶対に嫌だ、例えオレが契約不履行になってもコイツらを休ませてやりたいんだ」

「そうか…………」


 フォルンマイヤーさんは何とも言えない表情で、心配そうにオレを見ていた。


「カシマールさん、お願いだ。キミならゴーレムの魂を眠らせる事も出来るんだろう、彼等を……もう休ませてあげてほしい」

「わかったのだ、お兄さん、その黒い石を渡すのだ」


 オレから黒い石を渡されたカシマールは、謎の言葉を呟き、三体のゴーレムに語りかけた。


「その魂、天に還るのだ。もうお前達は苦しむ事は無い、Eの制約を解く。お前達は永遠の安らぎの中で眠ると良いのだ……」


 三体のゴーレムの身体にヒビが入り、少しずつ崩れ出した、腕や足が土に戻っていく。


 そしてゴーレムの中からは光の塊が浮き出し、丸い光の塊は天高く昇っていった。

 戦いの中で死んだ戦奴達の魂は、今ようやく本当の安らぎを得る事が出来たのだ。

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