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第21話 新会社……設立??

 イツマの棟梁との信頼関係も構築され、この町だけでなく王都でも一目置かれたオレは、いつしかゴーレム使いの大工としてあちこちで評判になっていた。


 実際町に戻るとオレとイツマの棟梁はひっきりなしに仕事の依頼を受けて東奔西走する事になった。


 オレがいない間はイツマの棟梁がこの町の大工仕事を仕切ってくれていたようだ。

 どうやらフォルンマイヤーさんは本当にイツマの棟梁に一級大工の免許を届けてくれたらしい。


 イツマの棟梁の元にはかつて彼を裏切った弟子たちよりも多くの志願者が押し寄せている。


 ――こりゃあオレは手を引いた方が良さそうだよな……。


 最初はこの世界で経験者の弟子になる事で建築会社を譲ってもらえるように考えていたオレだったが、今はそのやり方をする必要も無いくらい、オレは知名度が上がっている。


 それに手元にはオレの一級大工としての免許もあるわけだから、ここで下手にイツマの棟梁の下で働いてお互いの考えの行き違いでの決裂ってのも御免だ。

 実際そういった形で親方から独立したものの、会社が成り立たずに倒産した中小の工務店をオレは前の世界でいくつも見ている。


 だから同じ失敗を繰り返さない為にもここは一旦手を引いた方が良いだろうと考えたわけだ。


 そんなオレの意図を汲んだのか、イツマの棟梁がオレに話しかけてきた。


「コバヤシ、お前さん……独立してみる気はないか?」

「えっ、いきなり何を言うんですか!?」

「おいおい、最初からそのつもりだったんだろう。ナカタに裏切られ、全てを失って腐っていた儂の所に来た若造からはそんな匂いを感じたんだがな」


 そうか、イツマの棟梁はあの時からオレの考えが分かっていたのか。


「だがお前さんはあのナカタとは違う、お前さんも本当はアイツと同じ別の世界から来た人間なんだろう。だが、アイツとお前さんは根本から違う、儂の長年の人を見る経験からそれは分かった」


 それほど多くの人を見てきたはずのイツマの棟梁がなぜあんな魂の腐った人間のクズとも言えるナカタに入れ込んでしまったのだろうか……??


「儂も浮かれておったんだろう、アイツのスキルで生み出された巨大な鉄の獣や首長の土を喰らうドラゴンを見てしまい……その凄さに目を奪われてアイツを見る目が曇ってしまったのかもな……」


 まあ異世界人がいきなりブルドーザーだのパワーショベルだのを生み出すスキルを見たらそりゃあその相手の事を信望してしまうのも仕方ない。

 その能力があれば今までの仕事が馬鹿馬鹿しくなってしまう位に作業効率が倍増するわけだからな。


「イツマさん……」

「だがお前さんのあのゴーレムを使うスキル、アレはそれとは違ったワクワクを儂に思い出させてくれた。そう、物を作る楽しさ、それを思い出させてくれたのがコバヤシ、お前さんというワケだ」


 そう言ってイツマの棟梁はオレをある場所に連れて行った。

 その場所は町から少し外れた川沿いにある小さな建物だった。


「ここは……??」

「さあ、古い場所だがお前さんなら内装も見た目も作り直せるだろう、儂がかつて持っていた建物を取り返したヤツだ、ここをお前さんの新しい仕事場にするがいい」

「そんな、オレ……そこまでしてもらう事なんてありませんよ!」


 だがイツマの棟梁は髭面でニッカリ笑ってオレの肩を叩いた。


「これは儂からの弟子へのプレゼントだ。儂はお前さんのおかげで前よりもよほど良い仕事に恵まれたから、そのお礼だよ」


 オレの肩を叩いたイツマの棟梁は最初に会った老人に見えた時とはまるで別人のような生き生きとした職人の顔をしていた。


「コバヤシ、頑張れよ。儂も応援しているからな」


 イツマの棟梁の所にいた何名かの工員がオレと仕事をしたいと言ってくれた。

 だがオレはあえてそれを断った、何故ならそれはイツマの棟梁に対して引き抜きをするのと同じ事になるからだ。


 オレはあのナカタみたいなゲスなやり方は絶対にやらない、だから最初はオレとゴーレムだけいればいい。

 ……まあモッカは仕事を手伝ってくれると言っているが、あまり無茶はさせないほうがいいな。


 獣人のモッカは確かに力には優れているが、細かい作業とかをやらせると壊滅的にグチャグチャにしてしまう恐れがある。

 だから彼女に頼むのは何か持ってきたりする軽作業といったところだ。

 軽作業と言っても普通の冒険者数人分の働きを一人でやってくれるからオレとしては非常に助かっている。


 だからオレが立ち上げる会社はオレ、モッカ、そして三体のゴーレムで十分だ。

 これだけいれば普通の建築の仕事くらいなら十分にこなす事が出来る。


 まあ一年後のナカタとの対決までそれほど時間は無いが、このゴーレムの力があればそれも十分にやりとげる事は出来るだろう。


 そう、ここからがオレの新会社のスタートなんだ!!

 会社名はもう考えている、これ以外にはあるまい。


『異世界ゴーレムカンパニー』


 オレはイツマの棟梁に譲ってもらった小さな建物に看板でそう現地の言葉で描いた。

 どうやら神様のおまけでくれたスキルで、オレが日本語で書いた物はこの現地の言葉に変換されるようだ。


「こばやし、あれ……なんてかいてるのっ?」

「モッカ、アレは……異世界ゴーレムカンパニーって描いてるんだ」

「いせかい……ごおれむかんぱにい?」


 モッカにはまだ文字を覚えるのは早かったかな。

 多分言葉の意味は分かっていないだろう。


「コバヤシ。お前さん、コレ、どういう意味の名前だ?」

「イツマさん……お察しの通り、オレはこの世界とは別の世界から来たんです。そのオレがゴーレムを使った建築の仕事を始めた、だから異世界ゴーレムカンパニーって名前なんですよ」

「カン……パニー?」

「会社、それ以外の意味だと付き合い、連れ、仲間達、といった意味の言葉なんです。だからみんなでやっていく仕事場、カンパニーという名前にしたんです」


 この説明でどれくらい理解できたかは分からないが、イツマの棟梁はオレの門出を祝ってくれている。


「そうか、コバヤシ……仕事は辛い事もあるかもしれないが、物を作る楽しさ、人に喜んでもらえる気持ちを大切にしろ、それがいつかお前さんの為になるからな!」

「はいっ、これからもよろしくお願いします。イツマさん!」


 オレの会社、異世界ゴーレムカンパニーはこうして旗揚げされた。


 それから後は……毎日が恐ろしく忙しい毎日だった。

 寝る時間がかなり削られてしまったが、その分はゴーレムに任せてオレは昼間だけ仕事をして後はゴーレムに指示を出す、これでどうにかオレは寝る時間を確保していた。


 ……だが、それでもまるで休んだ気がしない、オレは日に日に食欲も失い、外に出るのも厳しいほど体力的にボロボロになっていた。

 おかしい、あれだけ休んでいるはずなのにまるで寝た気がしない、それなのに仕事はどんどん増えていくんだよな。


 このままではオレはこの世界でも前の世界みたいに過労死してしまいそうだ、だが何故なんだ??

 オレはきちんと身体の事を考えて休みを取っているのに、新会社を立ち上げて忙しくなってから……まるで休みを取っていないかのような疲れっぷりだ。


 そんな体力的にボロボロのオレの所に突如の来客が訪れた。


「コバヤシ、お前に仕事を依頼したいのだが」

「仕事……の依頼ですか? それはいったいどのような仕事を??」



 オレの新会社、異世界ゴーレムカンパニーに訪れた来客は、フォルンマイヤーさんだった。

 彼女はどういった要件でここに来たのだろうか??


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