フォルンマイヤーさんの話で分かった事は……。
オレはこの国では希少なゴーレム使いである。
その能力を奴隷にして酷使しようとした貴族がいてオレはソイツの手下に嵌められた。
フォルンマイヤーさんはそんなオレを助けてくれた。
そしてかねてからの問題だった王宮の凱旋橋の老朽化をオレに工事させたかった。
といったところか。
まあ、フォルンマイヤーさんは悪人ではなさそうなので、話は信じていいかもしれない。
一方のモッカはフォルンマイヤーさんの出してくれたお茶とお菓子の美味しさに目をキラキラと輝かせている。
あー、見るからに甘そうなこのお菓子、早く話を切り上げてオレも食べたい。
「コバヤシ、どうしたのであるか? 何だか目が泳いでいるぞ。私の話は退屈だったか」
「い、いえ。そういうわけじゃないんですが……」
ここでタイミングよくオレのお腹の虫がなってくれた。
「そ、そうか。お腹が空いていたのか。それは悪かった、さあ、食事の準備をしよう。少し待つのである」
「あ、そ……それはっ」
食事の準備と聞いたメイドはオレが食べようと思っていたお菓子をすぐに引き上げてしまった。
モッカは甘いお菓子が食べられた事で少し満足そうな笑顔を見せている。
その後、オレはフォルンマイヤーさんの用意してくれた昼食を御馳走になった。
肉やサラダ、パン等は確かに美味しかったが、残念ながらデザートはお菓子や生クリームではなくカットしたフルーツだった。
――オレはサクサクした甘いお菓子が食べたかったんだよー!!
まあ、そう言っても出してもらった食事に文句をつけるわけにはいくまい。
それに、味は流石貴族の食事と言えるほどにこの世界に来て初めて食べた柔らかい肉や新鮮そのものといえるサラダだったから美味しさは折り紙付きだった。
一連の話が終わったオレ達はフォルンマイヤーさんに送ってもらいながら工事の続いている開閉橋の場所に戻ってきた。
コンクリートが良い感じに乾いてきているのでこの状態なら問題無さそうだ。
「警備は万全であります! 猫の子一匹通しません!!」
コンクリートに猫の子って、たまにあるんだよな。コンクリート打ちっぱなしが乾く前に猫が通って足跡がついてしまうって話。
まあやり直しするかそれともそのまま残すかはその現場によって変わるが、今回のこの開閉橋では今のところそういった問題は無さそうだ。
ゴーレム達は作業を終わらせ、その場にうずくまっていた。
オレが新たな指示を出したら動き出すのだろうが、流石に今はもうコンクリートが乾くのを待つだけなのでやらせる作業は無さそうだ。
本来ならあんな魔力で動く土人形に休みなんて必要ないのかもしれないが、何だか少し気の毒に思ったオレは新たな指示を出さずにゴーレムにそのまま数日間休ませることにした。
すると、何故かここ数週間ほとんど寝ても疲れが取れなかったオレが、まるで泥のように眠り続けてしまっていたようだ。
◆
オレはその時気が付いていなかったが、ゴーレムの傍に銀髪の少女が現れ、ゴーレムに触れて何かを話していたらしい。
「ようやくなのだ。お前達、いつか本当に休ませてあげるのだ。だから、もう少し待つのだ……」
少女は見回りの兵士が来ると、その気配を感じてすぐにその場から姿を消した。
◆
「こばやし、いつまでねているっ。モッカもうまちくたびれたっ」
「えっ? モッカ、オレ……そんなに寝てたのか?」
「こばやしがねてから、おひさまにかいのぼってしずんだっ」
マジかよ、オレ……二日間も完全に寝てたってわけかよ。
工事が終わってから二日間経ったなら、そろそろコンクリートも乾いているだろう。
オレはモッカを連れて開閉橋の工事現場に向かった。
幸いこの数日雨は降らなかったようで、橋の板とその上に貼ったコンクリートはすっかり乾いていたようだ。
叩いてみると、コンコンッと硬い音がする。
これでひび割れていなければ成功だな。
オレは橋のコンクリートが全部きちんと乾いているのを確認した上で、橋の横に設置した大きなレバーを動かしてみた。
このレバーは人力で動くようにしているのでそれ程に大きな形ではない。
今後はこのレバーの上げ下げは王宮にいる兵士達の仕事になるのだろうな。
オレが街側の橋のレバーを上に揚げると、鎖と歯車が動き出し、橋が横に大きく倒れてズズゥゥン! と鈍く大きな音を立てた。
よし、今度は反対側に回ろう。
オレは横に架設された小さな吊り橋を渡り、王宮側の橋のレバーを上に上げた。
すると、こちら側の鎖と歯車が動き出し、橋は真ん中の橋桁の浮島の部分に重なる形で大きく倒れた。
よし、成功だ!!
周りにいた群衆や兵士達が大歓声を上げる。
どうやらオレの大工事は成功したようだな。
迎賓橋が完成した事はすぐに国王に伝えられた。
すると、その橋はすぐに兵士が配備され、物々しい厳重警備になり、二週間後にセレモニーが執り行われる事になった。
まあ、落成式ってヤツか。
オレは厳重な警備に囲まれ、ある意味の軟禁状態だった。
今のオレは誰にどう狙われるか分からないので仕方ないといえば仕方ないな。
まあ、その間は宿で何でも自由に頼める状態だったのでそれほどまでの不自由は無かったかな。
ゴーレムはオレが命令を出していないのでそのままうずくまったままだ。
自身の意思は無いのだろうか、オレが命令を出さない間は自ら動き出す事は無さそうだ。
しかし不思議なものだな、オレがゴーレムを働かせていない間はぐっすりと眠る事が出来た。
ひょっとして、オレの睡眠とゴーレムって何か関係あるのか?
まあいい、今のゆっくり休めるうちにしっかりと休んでおこう。
今度町に戻ったらもっと仕事が忙しくなるはずだからな。
落成式って事はオレ、間違いなく呼ばれるんだろうけど、この世界では竣工式ってのは無さそうだな。
もし竣工式があったらオレはこんなにゆっくりと休めていないはずだ。
まあいい、折角休める機会だ、ここは落成式の前までゆっくり休ませてもらおう。
そう考えていたオレだったが、そこにフォルンマイヤーさんが血相を変えて飛び込んで来た。
「コバヤシ、すぐに来るのである。緊急事態だ!」
「えっ、ひょっとして橋が崩落でもしたのか!?」
オレは嫌な予感がし、フォルンマイヤーさんに連れられて王宮に向かった。
だが、橋は厳重な警備態勢で特に崩落した様子もなく落成式の準備が進められている状態だった。
なんだよ、心配させて。別に橋なんて落ちてないじゃないかよ。
「コバヤシ、国王陛下がお待ちなのである。粗相のないようにするのである」
フォルンマイヤーさんに連れられて再度王様に有ったオレだったが、この後話はとんでもない展開になってしまう……。
そこにいたのはあのいけ好かない転生者だった。
「お前がゴーレム使いの土建屋カ、なるほど、冴えない顔をしているナ!」
「な、何だと!! お前は誰だ!」
「橋を完成させたくらいで、いい気になるなヨ、この底辺労働者ガッ!!」
「二人共落ち着け、余の話を聞かぬか」
どうやらオレだけでなくこのいけ好かない転生者も呼ばれたようだ。
さて、一体何がどうなるんだ?
「お前達を呼んだのは他でもない、今後の我がダイワ国の事について話をしたかったからだ。面を上げるが良い」
「今後の話ですカ、それはもう決まっていたのではないでしょうカ!」
「ナカタ殿よ、それはコバヤシの話を聞いてから決める事だ、少し黙っているがよい」
オイオイ、王様はオレに一体何の話があるっていうんだよ?
このナカタってやつも関係ある話なのか。