オレとモッカはゴーレムをその場に残し、フォルンマイヤーさんの屋敷に向かう事にした。
何かきな臭い予感がするが、やはりあのいけ好かない転生者が絡んでいる話なのか??
フォルンマイヤーさんの屋敷を訪れたオレとモッカは想像以上の家に驚いていた。
「デカい、こんなにデカい家だとは思わなかった……」
「ここ、モッカのむらすっぽりはいるおおきさだっ」
オレ達を迎え入れてくれたフォルンマイヤーさんは鎧を脱ぎ、少し軽装とも言えるスタイルだった。
しかしその軽装だと、あのスタイルの良さが強調されてこれは目の毒だ。
大きな胸にくびれたウエスト、それでいながら鍛えられた筋肉のしっかりついた腰から下半身、まさにスーパーモデルでも通用しそうなスタイルの良さだと言えるだろう。
「来たか、それでは入ってくれ。話が有るのである」
「わ、わかりました」
「わかったっ」
屋敷の中に入ると、中の調度品は武器防具といった鎧と高そうな絵画や彫刻が目に入ってきた。
これが貴族の邸宅というものなんだな……。
どうやらフォルンマイヤーさんは伯爵令嬢という事らしいが、彼女の家系は代々騎士だという事なので彼女も騎士団長として働いているらしい。
そりゃああれだけ強くても納得だな、しかし……そのフォルンマイヤーさんと素手で互角に戦ったモッカって……実はメチャクチャ強いのか??
この世界の強さが何を基準にすればいいのかは分からないが、獣人は人間を遥かに上回る身体能力を持つ。
それでいながらモッカは歴戦の騎士であるはずのフォルンマイヤーさんと対等に戦っていたわけだ。
オレに懐いてくれているからいいけど、もし敵として出会ったらまず勝ち目は無いかもな……。
「コバヤシ、よく来たな。まあそこに座るのである」
「は、はい。それでは……」
オレとモッカは応接室のソファーに座ってフォルンマイヤーさんの話を聞く事になった。
「コバヤシ。だいたい想像はついているかと思うが、お前達は無実だと証明されたのである。お前のゴーレムが投げ飛ばした三人組、その後逮捕された奴らの一人から話は聞き出した」
どうやらあの時堀に投げ飛ばした三人の盗賊、アイツらが白状したようだな。
「その中でどうもあまり腑に落ちない話が有ったのだが、どうやらあの三人はコバヤシ、お前に罪を着せる為に雇われたらしいのである」
「えっ!? それは何のためなんだよ!」
「コバヤシ、お前は自覚が無いかもしれないが……この国でゴーレムを使いこなすスキルの持ち主は他にいないのである。お前のスキルはそれだけ希少なものだという事を覚えておいてほしい」
「オイオイ、という事は、オレはゴーレム使いのスキルの為に何者かに狙われたという事かよ??
「つまりだ、コバヤシ……お前が狙われたのは、お前を傷害の現行犯で逮捕させた何者かが罪を理由に拘束、そしてゴーレム使いの能力を使わせて戦奴にしようとしたという事だと考えられるのである」
「戦奴?」
「戦奴とは、罪を理由に投獄されて奴隷に落とされた者、戦う為の奴隷の事なのである。この国ではもうその制度を廃止しようという流れなのだが、その中で、戦奴の有用性を証明したい誰かにコバヤシが狙われたと考えればいいのではないだろうか」
冗談じゃない! ありもしない罪をなすりつけられた上で戦う為の奴隷にされるなんてまっぴらごめんだ!
「それじゃあ、オレはありもしない罪でその戦奴にされそうになっていたって事かよ!?」
「残念だがそうだったようである。そしてその一連の流れに私も利用されてしまっていたようだ、この事は深く謝罪するのである……」
そう言うとフォルンマイヤーさんはオレに深々と頭を下げた。
本来貴族は目下の相手に頭を下げて謝るといった事はしないはずなんだが、オレに頭を下げて謝れるという事は……フォルンマイヤーさんはオレを対等の相手と見てくれているのか。
「い、いえ。あの時はどさくさで周りまで巻き込んでしまいましたから。それでも罪にならなかったならそれはフォルンマイヤーさんのおかげかと」
「そうか、そう思ってもらえるならありがたいのである。それで……私も少し気になって調べてみたのだが、どうやらドッグウィル男爵がこの件の裏にいるようなのである」
「ドッグウィル男爵??」
オレは初めて聞く名前に少し驚いた。
「ドッグウィルは食い詰めた者達を騙し、安価な労働力としてこき使い、役に立たなくなったら罪を犯させてから投獄し、戦奴として死ぬまで戦わせる事を提案した男だ。まさに貴族の風上にも置けない人物である!」
何だよ、そのブラック企業丸出しの搾取は……。
「コバヤシはそのドッグウィルに目を付けられ、チンピラ達とわざと争わせる事で投獄して裁判無しに有罪にしてゴーレム使いとして戦地の最前線に送り込まれる予定だったのである。あの盗賊達に問いただして聞き出した話だ」
マジかよ、それじゃあオレは最初に王都に辿り着いた時から既に戦奴にするために目を付けられていたってわけか。
「そんな、オレこの都に来てそんなに時間経ってないぞ、それなのになぜそんなすぐに目を付けられたってんだよ??」
「うむ。コバヤシ、お前は自分がどういう噂になっているのか把握していないようであるな」
「オレの噂?」
「この国ではゴーレム使いのスキル持ちはほぼ皆無と言えるだろう。そんな中でゴーレムを使うスキルの人間がいたら、そりゃあ噂話がすぐに広がるのも当然である」
そうか、オレって転生後すぐに、ある意味で有名人になってしまっていたのか。
「安心しろ、ドッグウィル男爵は今までにも奴隷の売買等の容疑がかかっていたが、今回のこの件が決定打となったので今頃王国軍が出動している。コバヤシが彼に狙われる事はもう無いのである」
それは助かった。今後も同じようにオレのスキルを狙ってやってくるヤツがいたらどう対処すればいいかわからなかったからな。
「それに、コバヤシ。お前はかねてからの問題だった王宮の凱旋橋の問題を一人で解決してくれた。この件は国王陛下も大変お喜びだ」
「えっ、かねてからの問題? それってどういう事なんだ?」
ひょっとしてオレって便利に使われただけなのか?
「王宮の凱旋橋は老朽化が進み、いつ崩れてもおかしくない状態だったのである。だが、この橋は国の象徴とも言える場所。その架設を巡り、多くの貴族達は誰がこの工事を請け負うのかで大きくもめていたのである」
「それって……まさか」
「そう。コバヤシ、お前がもしあの橋を壊さなくても、いつかこのままではあの橋は大崩落を起こして多数の犠牲者を出していた可能性が高かったのである」
つまり、オレがトドメを刺したのには違いないが、あの橋はオレが何かしなくてもそのうち大崩落を起こす程に老朽化していたって事かよ。
「だがその橋の架設にも材料をどうするか、またはどの貴族が金を出すか……そういう話をしていた時にゴーレムを使って建物を建てる人物の噂話が王都で広まっていたのである」
「つまり……オレは最初から意図的にこの王都に呼び出されるはずだった……って事かよ」
「すまない、騙すような形になってしまったが許してもらいたい」
まあこの話を聞いたら何でフォルンマイヤーさんがオレに深々と頭を下げたのか、ようやく理由が見えた。
でも何だか釈然としないものを感じるのは……どうしてだろうか。
それでも橋は完成したしオレは無罪になったからマシと言えばマシなんだが……。
まあそれが貴族とか王族とのやり取りなのかと飲み込んでおこう。
こういった話は今後も有りそうだからな。