まああんなデカい資材持って行こうとしても普通は持っていけないから問題は無いだろう。
それに王宮の周りはフォルンマイヤーさんの部下の兵士達が見回りをしているわけだからそういう意味でも安心だ。
さあ、次にやる事が決まったぞ。
シャウッドの森で開閉式迎賓橋の芯材になる巨木の確保だ。
シャウッドの森に到着したオレは、モッカの案内で森でもかなりの巨木のある場所に向かった。
この巨木のある場所は、オレが以前架設した沈下橋のある川のもう少し奥まった場所だ。
樹齢何百年だろうか、使わせてもらうからには無駄にならないように使い切らないと。
……そういえばずっと以前どこかのニュースでクリスマスツリーとして樹齢数百年の木を切り倒して使ったのはいいが、その後よく分からないストラップにして売るという事で炎上した話があったな。
それも山の持ち主に話を持ちかけて地元住民の反対は押し切ってたっけ。
たかだか数週間にもならないクリスマスの為に樹齢数百年の大樹を切り倒すのは愚の骨頂だとオレはその時思ったもんだ。
そう言えばあのバカみたいな計画の提案をしてたヤツとあの王宮の中に居たいけ好かない転生者、似てたよな……まさか同一人物か?
まあそんなこと、今はどうでもいいか。
それよりもこの大樹をきちんと持って王都に戻らないと。
オレは森の中で倒木を探した。
木は切ってすぐには使えない、何故なら水分保有量があるのでできるだけ寝かして乾いた木を使わないといけないからだ。
まあモッカの集落を建て直した際には生木に近い木を使ったが、これは時間が無かったことと、今後どんどん修復する際に新しい木で補強すればいいからといったところだ。
だが、今オレが探しているのは数十年、いや下手すれば数百年経ったような木だ。
これが腐っていると使えないが、そうでなければ適度に水分の抜けた良い材木となる。
そして、オレはゴーレムの掌の上に乗りながら森を調べ、ついに倒れたまま乾燥した木を見つける事が出来た。
よし、これがあれば迎賓橋の芯材として申し分無しだ。
オレはゴーレムに命令し、数十メートルの倒木を三体に担がせた。
巨大な倒木は二本あり、どうやら同じ時期に根元から大雨で浚われて倒れてしまったのだろう。
この巨木があれば十分な橋が完成する。
オレはゴーレム、モッカと一緒に王都に戻る事にした。
王宮の迎賓橋は現在通行止めになっており、今の段階で王宮の中に入るものは、裏門かもしくは臨時に用意された往復の渡り船が使われている。
さて、作業開始だ。
この作業は人のいない夜中に行われる事になった。
まあ軍事的にも誰かに見られていたら困るといった局面もあるという事か。
オレはゴーレムに堀の水を使って漆喰を粉々に焼いて珪石や砂利と混ぜたセメントを作らせ、力任せに練り上げさせた。
常人では一か月かかるくらいの量をゴーレムは一瞬で練り上げ、粘度も硬さも丁度いいものが出来上がった。
さて、それじゃあ次の工程に進もう。
もう二体のゴーレムはシャウッドの森の大樹を削り、巨大な一本の数十メートルの柱を作った。
だが、コレだけでは数十年も持たない。
現代建築の技術はこれからだ。
オレは巨大な柱を細く切らせ、それを格子状にいくつもいくつも組ませた。
これはハニカム構造、つまり蜂の巣のような構造を作る為だ。
このハニカム構造を建築に取り入れると、無垢材では重量的にも加工的にも難しい柱を、芯材が細い木の組み込みにすることで軽量かつ耐久性に優れたものを組み立てる事が出来る。
つまり、同じ大きさの物を作ったとしても、無垢材で組み合わせるよりもよほど軽量で加工に優れたものが作れるというワケだ。
だが、これは素人が簡単に作れるものではないので、やはり経験者でないと難しいだろう。
まあオレは何度も現場に出て実際の親方との交渉や工程の状況確認をしているので簡易式なハニカムもどきなら十分作れる。
それに、このゴーレム、オレのスキルで考えた物をそのまま実演できるので一級の建築士と事務所を一緒に三事務所雇っているくらいの働きをしてくれている。
だから本来数か月かかるような作業が一日二日で可能だろう。
問題があるとすれば時間経過が必要なコンクリートの乾きを待ったりする作業だな。
コンクリートは乾燥する際にかなりの高温を発する、これが運が悪いと自然発火の原因になるのだが、このハニカム構造に板張りをした上のコンクリートくらいならそこまでの高温にはならないだろう。
それに下が堀なので自然に冷却できるというのも利点の一つだと言えるだろう。
さて、橋の構築はゴーレムに任せて、オレがやる作業はどこで橋を開閉可動式にするかってところだ。
オレが迎賓橋を補強工事する際に考えたのが開閉式の可動橋だ。
これならば使わない時は橋を閉じ、時間になれば開くようにできる。
この方法を使えばもし軍事的に他国に攻め込まれそうになっても橋を閉じて敵を迎え撃つ事が可能だ。
この方法自体はフォルンマイヤーさんを通し、国王陛下に了承済みだ。
まあこんな方法があると聞いて目を丸くして驚いていたが、その場にあのいけ好かない転生者らしいのがいなかったのが幸いと言えるかもしれない。
アイツがもしその場にいたら、別の国に同じ方法を教えてこの可動橋の欠点を伝えらえてしまうかもしれないからだ。
可動橋の最大の欠点は、鎖を使った柱の持ち上げと言えるだろう。
跳ね橋と呼ばれるタイプの物はこの世界でも見かけられるが、それはあくまでもまだサイズ的に巨大ではない物で馬車が往復一台ずつ通れるくらいのものだ。
こんな十メートル以上の横幅で上下する跳ね橋なんてこの世界でもそう作れるものじゃないだろう。
だが現代日本の建築を経験してきたオレだから出来る事、歴史に残る建築物を作るといったオレの夢はこの世界で一つ叶いそうだ。
跳ね橋の細い木組みを数十重ねて作ると、まるであやとりの橋かワイヤーフレームで出来たような橋の素組みが完成した。
さて、この橋の横に長い鎖と重りを取り付けて、反対側が城側に、もう反対側が街側になるように……と。
巨大な歯車をゴーレムに作らせ、そのレバーは人が引いたりロックできるように設定、これを見ていた兵士が何か不思議そうな顔をしていたが、実際に素組みが上下するのを見ると、流石に驚いたようだ。
すると今まで見ているだけだったはずの兵士達が次々とオレの所に押し寄せた。
どうやらこの超巨大な跳ね橋に興味を持ってくれたようだ。
「な、なあ。俺達も作業手伝わせてくれないか?」
「あのゴーレム、すごいな! こんな夜の作業だけであんなデカいものが出来るなんて思わなかったぜ」
次々と兵士達が夜の警備の仕事から抜け出し、板の切り出しや貼り付け作業を手伝ってくれた。
これはオレにとっては想定外の事だったが、どうやら騎士団長のフォルンマイヤーさんはもしやりたい者がいるなら自主的に手伝うのは咎めないと言っていたらしい。
その後は兵士達が協力してくれたので素組みだった可動橋の大跳ね橋は二晩ほどで城側のものが完成した。
さて、次は城に渡ってくるための橋の補強と修繕工事だ。
でもやる事は王宮側とほぼ同じだ。
だが少し考えてから、オレは橋桁になる真ん中の部分はそのまま残す事にした。
それは橋の部分を三つに分割する事で重量を軽減させる為だ。
真ん中部分の橋桁の上の場所は基本そのままで可動橋が倒れてきた場合に綺麗に合わさるように少し橋の縁を削り、コンクリートで補強するくらいにしておいた。
この作業は王宮側の大跳ね橋を作る時間の三分の一程度で完了だ。
さあ、いよいよ橋の修繕工事もクライマックスといったところか。