「コバヤシ、国王陛下に粗相のないようにするのである……」
「わ、わかりました」
オレ達はフォルンマイヤーさんに連れられ、国王陛下の待つ玉座の間に来た。
そこに座っていたのはガチムキゴリマッチョな王様だった。
オレって……行く先々でガチムキゴリマッチョに出会う呪いにでもかかっているのか……?
「ダイワ陛下の御前である。者共、控えよ」
オレ達は頭を下げ、全員で国王陛下の前にひざまづいた。
モッカはどうも意味がよく分かっていなかったようだが、オレの行動をマネするように言うと素直に従った。
「皆の者よ、面を上げよ。余がダイワ王である」
ガチムキゴリマッチョの国王陛下はダイワ王という人物だった。
彼はムキムキの肉体を光らせながらポージングを決め、再び玉座に座った。
もし裸の王様の話の王様がこの人だったらパレードは鋼の肉体のポージングショーにでもなるんだろうな……。
なんてアホな事を考えている場合じゃない! オレの今後はこのダイワ王次第なんだ。
あまりしょうもない受け答えをすれば本当に首と胴体が離れてしまう。
「えー、その方、コバヤシといったか。お前の話は色々と聞いているぞ。なんでも我が国の誇る迎賓橋に風穴を開けたそうだが、間違いはないか!?」
「は、はい……事実で、ございます」
ここは下手に弁解するよりは素直に受け入れた方が生存率は上がる。
「して、その方法がゴーレムを使って暴れたというのも間違ってはおるまいな?」
「は、はい。おっしゃる通りです。間違いありません」
「そうか……」
ダイワ王は玉座に座ったまま目を閉じて何かを考えている。
「あの迎賓橋は、かつて凱旋橋と呼ばれ、我がダイワ国が敵国に勝利した際に作られ、当時の王が軍勢を連れて帰ってきた由緒ある橋なのだ。故にこの国の象徴とも言える場所であると言えよう」
オレ……そんなとこに風穴を開けてしまったわけか、マジで生きて帰れるのかな……。
「コバヤシ、お前はその迎賓橋に風穴を開けて壊した、この事実は変えようがない。だが、余はそれを許そうと思う」
「国王陛下、ありがとうございます!!」
だがその直後、ダイワ王は歯を光らせ、不敵な笑みを浮かべた。
そして太い指を立て、オレを指さしてきた。
「だが、条件がある」
やっぱりこうなったか、まさか……損害賠償を請求されるのか?
「国王陛下、条件とは……一体何でしょうか」
「まだ余が話しておるだろうが、話は最後まで聞け」
「た、大変申し訳ございませんでした!」
「まあよい、話を続けるぞ……」
ダイワ王の条件はかなりのものだった。
「あの橋を修復しようとすれば、数十人の
うわー、よりによってこの条件かよ。
まあ損害賠償を払えと言われるよりはよほどマシか。
「なお、橋を修復する資材は以前廃嫡された貴族の邸宅の物を使えばよい。そうすれば資材を新たに購入する必要は無かろう。つまりお前は
呑めるかどうかと言われると、呑むしかないだろう。
それ以外にオレの助かる道はなさそうだ。
というか、あのダイワ王……オレがゴーレムマスターだと分かった上でこの話を振ってきているのは、ゴーレムに実際作業させる姿を見る為かもしれない。
「わかりました、期日はいつまででしょうか?」
「そうだな、本当なら一か月と言いたいところだが、三か月の期間を与えよう。その代わり廃嫡された貴族の邸宅の解体も追加条件だ」
このダイワ王、抜け目がないな。
つまり、今回の騒動でのオレの処罰はしない代わりに貴族の邸宅の解体工事も一緒にやらせようというわけだ。
しかしそれを三か月で終わらせろというのは、かなりの無茶ぶり。
本来なら数十人の大工で取り掛かる作業なので、金額に換算するとそれこそ金貨千枚はかかりそうな大事業というわけだ。
「お待ちくださイ、国王陛下」
「おお、ナカタか。どうした?」
オレ達とダイワ王の会話に何者かが口をはさんで来た。
見た感じ、オレと同じような日本人っぽいが、残念ながらあっちの方がオレよりイケメンだ。
アイツ……どこかで見た覚えがあるような気がする。
確か、関東アクアアルートの環七直通大橋落成式で主賓側の椅子に座っていた奴にソックリだ。
あの人を見下した冷たい目、あの目はそう何人もいるような奴じゃない。
「あの貴族の邸宅の解体工事は私が担当するはずだったもノ、それを何故このようなどこの馬の骨とも分からない奴にやらせるんですカ?」
「ナカタよ。確かにお前のあの鉄の獣やドラゴンならばあの邸宅を解体するのも容易にできるだろう。だが、お前にはもっと別の仕事を依頼しようと思ってな」
「そうでしたカ、それでは陛下の命に従いましょウ」
何というかやたらと語尾を強めた言い方をする奴だな……。
コイツ、確かナカタって言えば……イツマの棟梁の仕事と部下を全部横取りしたやつじゃないのか??
コイツがオレの知ってる奴なら、人を人とも思わない冷酷な乗っ取りや搾取を平気でやらかす奴だ。
でも何でアイツがこの異世界にいるんだ??
「うむ、ナカタよ。お前はここから数日のあの土地を調べてくるのだ。今後の計画の為にも頼んだぞ」
「承知いたしましタ。それではすぐに用意して行って参りまス」
ナカタはオレ達を尻目にその場を離れた。
しかしすれ違いざまにオレと目の合ったナカタはオレの事を鼻で笑っていた。
アイツ、マジで気に入らねえ……。
「さて、コバヤシよ。そこにおるフォルンマイヤー嬢から話は聞いておる。お前は一級大工免許を手にする為にこのダイワの王都に来たのだな。よかろう、イツマとお前の二人分の一級大工免許を許可しよう。貴族の邸宅や迎賓橋を工事するにはその資格が必須となるであろうからな」
やった、ちょっと思った形とは違ったが、これでどうにかこの世界での一級建築免許みたいなものを手に入れる事が出来た。
「ダイワ王陛下、ありがとうございます!」
「よい、気にするでない。ではこの数日、この王都で待つが良い。免許が用意出来次第すぐに貴族の邸宅解体と迎賓橋の修理に取り掛かるようにせよ。もう下がって良いぞ」
「はい、ありがとうございました!!」
オレがダイワ王と話をしている間、モッカはこの広い王宮の方が気になったらしく、ずっとキョロキョロと王座の間を見渡していた。
まあそのおかげで下手に無礼な事もなく、平穏に終わったから良しとしておこう。
「良かったな、コバヤシ」
「いいえ、これもフォルンマイヤーさんのおかげです。この前はあんな事をして申し訳ありませんでした」
「いい、気にするでないのである。私も久々に楽しい戦いが出来た、そこにいる獣人の娘もなかなかやるな」
なるほど、このフォルンマイヤーさんは騎士だから戦いを楽しんでいるんだな。
アレだけ酷い目に遭わせた事を怒っていないようだ。
「コバヤシ、お前はしばらく町に戻れなさそうなので、イツマには私の部下から免許を届けさせておく。お前はこの王都で国王陛下の命に従い、工事に取り掛かるのである」
「わかりました、ありがとうございます。フォルンマイヤーさん」
オレがお礼を言うと、フォルンマイヤーさんはニッコリとして応えてくれた。
何故かそれを見ていたモッカの表情が不機嫌そうになっていたが、どうしてなんだろうか。
オレとモッカは数日、ダイワ王の用意してくれた宿で過ごして一級大工免許の発行を待った。
その間、ゴーレムは王宮の錬金術師や魔術師達によって徹底的に調べられる事になった。
そしてついに、オレの名前入りの一級大工免許が手に入り、オレは邸宅解体と迎賓橋の修復作業に取り掛かる事になった。
さあ、作業開始だ!
オレは三体のゴーレムを引きつれ、廃嫡された貴族の邸宅に向かった。