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第13話 水中に……沈む橋??

 このシャウッドの森は人通りが少なく、この森に橋を架設するには数人の人工にんくが必要となる。


 幸い工事の人工はゴーレム三体で賄えるので問題は無い。

 それよりもここに設置する橋の種類の方が問題だ。


 本当なら水に強いのは眼鏡橋と呼ばれる上が盛り上がったタイプの橋なのだが、これは架設に金も時間も人数も必要なため、どう考えても却下だ。


 別の方法だと可動橋というのもあるが、これこそ人が常時必要な上、両側に人がいる事が前提なのでもっと問題外。


 だから消去法でここに架設するのは沈下橋ということになる。

 この沈下橋は四国の四万十川や埼玉県等氾濫する川が多い場所でよく見られるもので、雨が降らない時は低い場所に設置された橋、大雨が降ると洪水に逆らわずに沈没する事で水の抵抗を受け流す形の橋だ。


 この橋は欄干が無いように作る事で工事の手間も材料もかなり省略する事が出来る。

 京都にある上津屋橋のように木造による橋や、島田橋のような数十年以上前に作ったのに今でも現存する橋があるので、木造でも長持ちさせる事は出来る。


 まあその橋が長持ちする理由が、橋桁の上に枠だけを乗せていてそこに板を置いておくのが洪水で流れたらまた板を張り直すといった事で橋が壊れるデメリットを避けているからともいえる。


 ――つまりは、洪水時にはわざと水の中に沈み、上の板が流されてしまう橋を作ればいいという事だ。


 というわけで作業開始、まずはゴーレムに獣道の丸太橋が元々かかっていた場所を大きく地ならしさせた。

 ゴーレムは川を渡る際にその膝下くらいまでの深さしかないので、オレとモッカがその手の上に乗せてもらい、反対側に行くのは簡単だ。

 だが、それだとモッカの母親の墓参り、それにハチミツを手に入れるのが毎回ゴーレムを使ってオレが来ないといけなくなるので……それだと非常に効率が悪い。

 それならここに橋をかける事で、モッカの仲間の獣人達にハチミツを手に入れてもらったほうがいいだろうというのがここに橋を架ける本当の理由だ。


 ある程度にゴーレムが地ならしを終わらせ、別のゴーレムが丸太を持ってくる。

 そしてその大きな丸太を切り、橋桁のパーツとして川の地面に深く差し込んだ。


 流石はA級モンスター、力だけで言えばオーガーに匹敵する力だ。

 本来なら重機で杭打つか、深い場所ならケーソン基礎と呼ばれるコンクリの土台を沈めてその上に橋桁を作るのが工事の基礎と言えるが、ここにコンクリなんて便利なものは無いので、浅い川だから丸太の橋桁を立てた周りを大きな岩で埋め尽くすといった形で代理ケーソンに仕立てた。


 ある程度に橋桁が出来たところで今度は板を上に貼っていく。

 これはそれ程に力を使わないらしく、ゴーレムが二体でてきぱきと済ませてくれた。


 やっぱりオレのこのスキル、戦闘というよりはこの工事に最も適した能力といえるかもしれないな……。


 ゴーレム三体のおかげで沈下橋の架設は一日で終わった。

 これでようやくモッカの母親の墓参りが出来るというわけだ。


 オレは集落に戻り、川の所に橋を架けた事を住民に伝えた。

 すると住民は驚いていたが、その後でオレに感謝し、頭を下げてきた。


「アリガトうゴザいます。これであのカワのムこうにイくコトがデキます」

「いえいえ、それよりもお願いがあるんですが」

「モチロンです! ワレらのオンジンのいうことならなんでも」


 オレはオオミツバチの巣が川向うにある事を伝え、そのハチミツを集めて欲しいと伝えた。


「わかりました、そのハチミツをアツめればいいんですね」

「はいっ、それにそれがあれば町に売る事も出来ますから」


 この人達はあまり分かっていないだろうが、ハチミツなんて甘味は高級食材、嗜好品としてかなりの高値で取引されている。

 オオミツバチってのがどれくらいのヤツかは知らないが、ハチには変わりないだろうからハチミツを手に入れるのは出来るだろう。


 次の日、オレはモッカを連れて川を渡り、彼女の母親の墓参りをした。

 それについてきた獣人達は川に立派な橋が出来た事を喜んでいる。

 まあ、狩猟出来る範囲が広まったから生活が楽になるという事なんだろう。


 オレは採取してもらったハチミツを手に、町に戻った。

 これでようやく甘いドーナツなりなんなりが食べられる。


 ……そう思っていたのだが、そんなに世の中物事が上手くいかないものである。


 シャウッドの森からイツマの棟梁の家に戻ってきたオレは冒険者ギルドからの依頼の工事に取り組んでいた。

 まあ今の時点で出来るのは二階建てまでの建物限定の二級免許と同じ作業といったところだ。


 これが一級の免許だと三階建て以上の貴族の邸宅や王宮、公共施設等を建築、増築する事が許されるのだが、まあこんな郊外の町だとそこまでの免許が無くても成り立つ。

 仕事が一通り終わり、休憩している時に来た来客はオレにそんな時間を与えてくれなかった。

さらに、思わぬ来客はオレにとんでもない事を言って来た。


「コバヤシ・タイセイ。王宮よりの命令で貴様を連行するのである!」


 ようやく甘いものが食べられると思ったところでこれかよ!!

 オレ達の前に姿を見せたのは、騎士団長フォルンマイヤーさんだった。

 なんでこんな辺鄙な場所にまで来てオレを連行するってんだよ!?


 オレそんなに悪いことしたのか??

 まあ、迎賓橋を壊したのは確かにオレだけど……でもだからって王宮に呼び出されてオレは一体どうしろってんだ!!


 フォルンマイヤーさんは後ろに数人の屈強な騎士を連れているので、下手にここでゴーレムを暴れさせるわけにもいかない。

 いやむしろここでゴーレムを暴れさせたら今度は国家反逆罪で本当に縛り首にされかねない。


 ――冗談じゃない! こんな異世界で縛り首にされるなんてまっぴらごめんだ!!


 仕方ない、ここは下手に暴れずにフォルンマイヤーさんに従っておこう。


「わかりました、オレが王都に行けばいいんですね」

「こばやしがいくなら、モッカもついていくっ」


 モッカをこの騒動に巻き込みたくは無いのだが、本人は聞き入れる気はなさそうだ。

 フォルンマイヤーさんもモッカがオレに同行する事を許可した。


「安心しろ、大人しく王命に従うならば、今回の件は不問と処す、とのお達しだ。また、コバヤシには国王陛下自ら話が有るというのである。よって、私が使者としてここに来たのである!」


 あれ? これってひょっとして悪い話だけではないのかもしれない……。


 オレはイツマの棟梁や冒険者ギルドの人達に見送られ、フォルンマイヤーさんに連行される形で王都に向かった。


 今回はシャウッドの森を通るルートではなく、通常の街道と呼ばれるルートだ。

 ここは整備されていて馬車でも問題無く通れる場所だったので三匹のゴーレムはオレの後ろに着いてくる形で歩いてきた。


 街道ではすれ違う人にジロジロと何度も姿を見られたが、まああんなでっかいゴーレムを三匹も連れていて騎士団に連行されたらそりゃあ何度も見返すわな。


 そうして何度か野営をし、街道の町に立ち寄りながらオレ達は一度逃げ出した王都に到着した。

 橋の真ん中にはゴーレムがブチ空けた大穴があり、その周りは兵士が見張って人が落ちないようにしてある。


 本当にこれを不問にしてくれるってのかよ?

 迎賓橋を通る人はジロジロと大穴を見ながら通り過ぎていく。

 まあ言うならば東京の皇居の二重橋に大穴を開けたようなもんだ。


 これは勢いとはいえ、とんでもない事をやらかしたと言ってもおかしくはない事だよな。

 これ修復しようとしたらいくらくらいかかるのやら……。


 オレは大穴を見ながらそんな事を考えていた。


 そして、迎賓橋を渡り、オレ達は王宮の大門の前に立った。


「フォルンマイヤー様、お待ちしておりました! さあ、中へお通り下さい!」


 以前オレを門前払いにした兵士とは別の門番が城門を開いた。


 流石にゴーレムは中庭より先には進めないのでその場で待機させる事になった。

 その周りはいつどのような動きをされてもいいように騎士団と魔法隊が取り囲んだ状態だ。


 まあ、ゴーレムがA級モンスターだとすれば、この物々しさも仕方ないといったところか。


そして王宮の奥に案内されたオレ達は王様の待つ玉座の間に通される事になった。

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