オレ達の前に立ちふさがったのは自警団と騎士団長のフォルンマイヤーさんだった。
彼女は馬にまたがったままオレ達と戦うつもりらしい。
「口で言って聞かないなら、実力行使しかないのである!」
馬が凄いスピードで橋をかけてきた。
橋の上は自警団によって通行止めになっている。
フォルンマイヤーさんの馬は無人の野をかけるが如く、オレ達に向かって来た。
「モッカ、危ないっ」
「グガァッ……ガァァアアッ!!」
頭に血の登ったモッカは紙一重のタイミングでフォルンマイヤーさんの突撃を躱した。
だが、彼女の猛攻はそんなモッカを追い詰めていった。
「私とて女だてらに騎士団長は勤めていないのである。我が槍捌きは祖父のマタザ直伝、そう簡単に躱せるものでは無い!」
フォルンマイヤーさんは馬に乗ったまま槍で、突く、なぎ払う、カチ上げる、振りまわすを器用にこなし、モッカの足を引っかけて打ち払った。
「ガギャァァアッ!!」
槍で打ち払われたモッカはそのまま堀の中に落ちた。
まあ獣人族は泳げないわけでないのでそこは心配していないが……むしろ、これでオレが自警団やフォルンマイヤーさんと戦う羽目になってしまった。
辺りを見ているとどんどん野次馬が増えてくる。
その中にオレはどうしても許せない奴がいる事に気が付いた。
ニヤニヤしながらオレの様子を見ていたのはあの時の盗賊達だ。
くっそー、アイツら……絶対に許さん。
「ゴーレム、野次馬の中のあの帽子をかぶったヤツを捕まえてくれ!!」
野次馬はいきなり巨大な岩石巨人が自分達の方にゆっくり大股で歩いてきたことに驚いていた。
まあそりゃあそうだろう、普通は野次馬が被害に遭うなんて誰も思うまい。
だが、そこに居るのは野次馬ではなく、騒動の当事者だ。
例に漏れずそいつ等はその場から逃げ出そうとした。
だが逃がしてなるものか!
「ゴーレム、地面を踏み鳴らせっ、地響きを立てろ」
「グゴゴゴゴ……」
大きく足を上げたゴーレムは一気に地面に足を踏みつけた。
ズズズゥゥゥンッ!!
激しく鈍い音が辺りに響き、その場にいた物が全員動けなくなった。
そしてオレは逃げそこなった盗賊達三人組をゴーレムに捕まえさせ、王宮の堀に向かって投げ飛ばさせた。
「そらっ、水でも被って反省しろ」
「うわぁぁああっ」
水の中に投げ捨てられた盗賊三人組のポケットから次々と盗品らしき宝石や金貨がバラバラと落ちた。
「あ、アレは……。おい、衛兵、あの者達を堀から引き揚げろ」
これでどうにかオレの誤解が解ければいいんだが、今はそれどころじゃない。
こんな大騒動になったら後々大変な事になる、ここはさっさとこの場を離れた方が良いだろう。
「ん……? どうしてモッカはこんなとこでみずあびをしているのだっ??」
「モッカさん、気が付いたんだね。早くそこから上がって、この場所を離れるよ!!」
「わ、わかったっ、こばやし。わかったのだっ」
オレとモッカは自警団が盗賊達に気を取られている間に橋の上に戻り、そこから逃げ出す事に決めた。
「こ、こら待て、コバヤシ。話を聞かせろ、一体どうなっているのだ!?」
フォルンマイヤーさんはこの場所から逃げようとするオレ達を追いかけ、橋の方に戻ってきた。
だめだ、このままじゃ追いつかれる。
オレはゴーレムに命令し、橋の上で大きく地響きを立てさせた。
ズズズズゥウンッ……!!
「な、なんだこれはぁあああっ!」
どうやら老朽化していた橋はゴーレムの地響きがトドメになり、真ん中に大きな穴が開いてしまった。
フォルンマイヤーさんは馬ごとその穴の中から堀に落ちてしまったようだ。
あーあ、貴族相手に大立ち回りやってしまった、もうこれでこの王都に戻って来られる事はなさそうだな……。
オレはモッカ、ゴーレムと追手が追い付けないうちにシャウッドの森目指して全速力で逃げ出した。
あー、マジでひどい目に遭った……。
しかし建築ギルドの件、どうしよう。
これでイツマの棟梁の仕事を継ぐってやり方はもう出来なくなってしまったな。
仕方ない、一度町に戻って考えよう。
大工の一級許可証を手に入れる以外の方法が何かあるはずだ。
オレはモッカとシャウッドの森に入り、彼女の集落に向かった。
流石の騎士団でもこの入り組んだ森に獣人の案内無しに入るのは自殺行為に近い。
下手に森で迷ったからと森の中を焼き払おうとすれば、獣人以外の種族すら敵に回す事になる。
だからオレ達はある意味安心してここを抜けられるというワケだ。
オレ達が集落のあった場所に到着すると、辺りはまるで東南アジアの村に辿り着いたように大きく風景が変わっていた。
二体残したゴーレムと獣人達は朝昼となく働き、村の全員の家が高床式の風通しのいい住居になっていたのだ。
流石はゴーレムといったところか、まあ……オレが休まなくても問題の無いゴーレムに朝夜関係なく働き続けるように命令をしていたのが功を奏したのだろう。
しかし、なにか突き刺さるような悪意を感じるが、これは一体誰のものなのだろうか……?
まあいい、ここなら久々にゆっくりと休む事が出来そうだ。
オレはモッカの父親である長のチョージさんに歓迎してもらい、久々にゆっくりと羽を伸ばした。
この数日間、森の中だったり牢屋の中だったりでまともに寝れる状態じゃなかったオレはようやくぐっすりと眠れると思っていた。
……だが、いくら寝ても全然寝られたような気がしない。
一体どうなっているんだろうか、まるでオレが二十四時間起き続けて完徹四日目くらいの感覚だ。
だが一応は寝ているのだろうか、身体はそれほどまで重くは感じない。
オレは起きあがって朝食を摂ってから、集落の工事の進捗具合を確認した。
流石は獣人達というべきか、彼等はオレの思った以上の働きで、高床式の家と家の間を渡り廊下でつなぐ工事に取り掛かっていた。
つまり、中二階に当てはまる場所が玄関だとすると、そこの入り口から別の家に移動できるように家と家を繋いで木製の橋で板の渡り廊下を作っているわけだ。
この作業は鳥の獣人がロープを咥え、サルの獣人がそのロープを橋と端に結わえて、その間の板をゴーレムがはめ込んでいく形で作業が行われていた。
オレはこんな事まで指示していなかったんだが、生きる上での知恵って思いつくもんなんだな、オレは家作りのヒントを出したくらいなんだけど……。
そして数日もあれば家と家の渡り廊下を作る作業も完了し、モッカ達の集落は見違えるように快適な場所になった。
「コバヤシどの、アナタのおかげでワシら、イマまでにないスバらしいイエをタてれた。カンシャする」
「い、いえいえ。これは皆さんが頑張って家を作ったからですよ、オレ一人の力じゃないですから。それに、ゴーレムがいてくれたからこれだけの作業が出来たとも言えます」
「そうか。コバヤシ、ワシからタノみがある、キいてくれるか?」
チョージさんはオレに何かを頼みたいようだ。
「頼み……ですか、それはいったい?」
「コバヤシ、ワシのムスメ……モッカをツれていってほしい。モッカもコバヤシにナツいておるようだし、ワルいハナシではあるまい」
えっ、いきなりそんな事を言われても困るんだが……。
まあオレはモッカのおかげでこの森の中で迷わずに済んだ恩もあるし、まあ、外に行くかどうかは彼女の気持ち次第だけどな。
「おさ、モッカ……こばやしとたびしたいっ!」
「おお、そうか。モッカもタビにデたいんだな。コバヤシどの、モッカのコト、よろしくたのむ」
「わ、わかりました。オレで出来る事なら……」
そしてオレはモッカを連れて獣人の集落を離れる事にした。