獣人達はオレの指示に従い、ゴーレムはそんな獣人達のサポートとして柱を支えたり木を切り倒して持ち運んだりした。
流石にゴーレムの力はA級モンスターに相当するらしく、三匹いるゴーレムのおかげでモッカの家はすぐに完成した。
これを本来の獣人や人間達だけで作ろうとすると、間違いなく一週間以上はかかるだろう。
だがオレ達はそれをものの一日で完成させたのだ。
突貫作業とはいえど、コレだけ立派な家が作れるとは……。
やはりこのゴーレムを使った建築ってのは目の付け所としてアリかもしれないな。
ゴーレムは通常モンスターの中でもA級と言われている。
つまり、普通のB級モンスターが冒険者数人がかりでようやく倒せるとしたら、ゴーレムは冒険者だけではなく下手すれば騎士団総がかりで倒せるほどの強さだと言える。
そんな大型モンスターの力で木を切ったり運んだり出来る。
その大型モンスターを操るスキル、これは元の世界で言うなら大型のショベルカーやブルドーザー、もっと言えば人型の大型ロボットを操るような能力とも同じだ。
まあオレが下手にこれを攻撃、暴力に使わない限りは国や騎士団を敵にするって展開は無さそうだから能力の暴走って危険性は無さそうだ。
実際このスキルのおかげでオレは獣人達の信頼を得て、ここで客人扱いされている。
これもスキルさまさまといえる事だ。
オレが建築技術を教えた事で、獣人達は次々と自分達の家を建てていった。
流石は獣人というべきか、人間だと数人がかりで持ち上げる様な木材や石でも片手で軽く持ち上げている。
それでも手に余るようなものはオレの指示でゴーレムが動き、たった数日で雨に流された獣人の集落はとんでもないビフォーアフターを遂げた。
――なんということでしょう! あれだけ地面がぬかるんだ藁の上に寝そべっていた掘っ立て小屋の集落が、まるで少し小奇麗で東南アジア風の高床式住居にかわったではありませんか。
地面に直接置いていた為にカビや虫の被害にあっていた果物や木の実は少し高い場所に設置した吊り下げ式の棚で腐る事も無く風通しよく保存できるようになりました……。
って、どっかのテレビ番組ネタみたいなことを言いたくなるくらいの変貌っぷりだ。
まあこれでこの集落で伝染病が流行る事は無くなるだろう。
モッカ達はまるでオレを神様の使いか何かのように見ている。
そして、モッカの後ろから姿を見せたのは……とても大きな傷だらけの獣人だった。
どうやらここ数日は病気で臥せっていたらしいが、どうにか気力で持ち直したそうだ。
ヤバ……やはり、下手にモッカを人質に取るような事をしなくて良かったとオレは心底心の底から感じていた。
「おキャクジン、コバヤシといったか。ワシはこのシャウッドのモリのゾクチョウ、チョージだ。ワシのムスメ、モッカがセワになったようじゃな」
チョージと名乗った初老の獣人、どうやら彼がこの獣人族の長であり、モッカの父親のようだ。
「い、いえ。皆さんが協力してくれたから出来たんです。他の家も早く作ってしまいましょう」
ここで油を売っているわけにはいかないが、乗り掛かった舟だ。
今ここで下手に離れたらせっかく作った家の手入れや他の住人の家の事がおろそかになってしまう。
まあ急がば回れとも言うし、ここで焦るのはあまり得策ではなさそうだ。
「コバヤシどの。タシかイソいでいるのではないのか? ここでワシらのコト、テツダってくれるのはありがたいが、そのタメにナガイさせるわけにもいかんですわい」
どうやらチョージさんはオレが早く王都に行きたい事がわかっているようだ。
下手に突っ放すように、今急いでますので! と言っていたなら印象は真逆だっただろう。
まあこれも処世術の一つだ、押してダメなら引いてみろってとこか。
オレは宴を開いてもらった次の日、王都に向かうために森を離れる事にした。
すると、チョージさんに言われてモッカがオレの方に寄ってきた。
「このモリ、ヌけるのにアンナイがいるだろう。モッカならこのモリをシりツくしておる。モッカ、コバヤシどのをオウトにトドけるのだぞ」
「ちちうえ、わかったっ。モッカ、きちんとこばやし、おうとにとどけるっ」
オレは二体のゴーレムをこの集落に残し、王都に向かう事にした。
ゴーレムが二体いればこの村の家作りは十分成り立つだろう。
それに獣人の力は人間を遥かに上回るポテンシャルだ、彼等ならノウハウさえわかれば家を建てるのに苦労はしないだろう。
オレ、モッカ、そしてゴーレムの三人はシャウッドの森を抜け、王都に向かった。
シャウッドの森は複雑に入り組んだ自然の迷宮のような場所だったが、モッカとゴーレムのおかげでオレ達は無事、森を抜けて王都に到着した。
王都に到着したオレとモッカ、そしてゴーレムは泥だらけ、汚れだらけでまるで見た目が浮浪者か難民だ。
こんな姿で城に行けるわけもない、仕方ないので明日服装を整えよう。
幸いお金はイツマさんと請け負った数日の工事でそこそこに溜まっている。
オレはその日少し多めに宿屋に払う事でこの姿のままで無理して王都の宿に泊まった。
――だがどうやらその時の姿を盗賊団に見られていたようだ。
その事に気が付くのはこの後の話になる。
オレは街の仕立て屋で既製品の服を探した。
どうやらオーダーメイドが普通のこの世界で着古した服が無いか聞いたオレの態度はかなり異様なものだったらしい。
そういった普通と少し違った行動は目立ちやすいのだろうか、オレは街の中でジロジロと注目されてしまった。
まあそれでもオレとモッカの服は金貨一枚で用意出来たのでこの姿なら王城に入る事も出来るだろう。
オレとモッカは小奇麗な姿に着替えて王城を目指した。
◆
「ダメだ、許可無き者を通すわけにはいかん」
「あの、フォルンマイヤーさんという方の紹介なんですが、建築ギルドの大工資格更新の為に王都に来たんです」
「建築ギルドだと……?」
オレが建築ギルドの名前を出すと、門番の態度が急変した。
それが吉と出るか凶と出るか……結果は、悪いモノだった。
「フォルンマイヤー殿の紹介だというなら、何故彼女は一緒にこの場にいないのか? おおかた名前を騙っただけであろう、さっさと帰れ」
「そんな、それじゃあ資格の更新はどうすればいいというんだよ」
「そんなもの直接建築ギルドに行けばいいだろうが、わざわざ王宮に来なくても街に行けば支所はどこにでもある!」
なんというか典型的なお役所仕事というか、けんもほろろというか。
オレは完全な門前払いを喰らってしまった。
「こばやし、アイツ……ギタギタにしていいか?」
「モッカちゃん、落ち着いて……」
オレはこういう事態には前の人生でも慣れているが、どうやらオレよりもモッカの方があの門番の態度に腹を立ててしまったらしいな。
オレがモッカをなだめていると、後ろの方からガラの悪そうな男達が姿を見せた。
困ったもんだ、ゴーレムは入り組んだ道を遠回りしているのでオレ達には追い付いていない。
「よお、兄さん。アンタ、金持ってるんだろ。オレタチにも少し分けてちょうだいよ」
どうやらオレ達はタチの悪い盗賊に囲まれてしまったらしい……。
オイオイ、ゴーレムがいないこの状態で一体どうしろってんだよ。
困ったもんだ、オレが途方に暮れていると、モッカが尻尾を立てて低い唸り声を上げ始めた。
「ガルルルルル……モッカ、いまものすごくきげんがわるいっ。おまえたち、ギタギタにするっ!!」
そういえば、モッカは獣人族の長の娘だったな、ひょっとしてこの娘、ものすごく強いのか??