――どうしてこうなってしまったんだよ!?
オレは今、獣人達に囲まれている。
あーあ、やはりベテラン冒険者のいう事は素直に聞いておけばよかったかな……。
オレは血気盛んな獣人達に武器を突き付けられながら自身の行動を後悔していた。
「このモリ、ワレラのトチ。ニンゲン、ヨソモノはデテいけ!!」
カタコトっぽい話し方で獣人がオレをけん制してきた。
どうやらオレを敵だと思っているようだ。
まあ、怯えてしまっているとはいえ、オレの周りには三匹のゴーレムがいるわけで、確かに相手にすれば強力なモンスターを引きつれた人間が侵略しに来たと思われても仕方ないか。
だがこんな所で油を売ってる場合じゃないんだ。
オレはどうにかこのシャウッドの森を抜けないと。
だが、肝心のゴーレムは怯えてしまってまるで戦おうという気力が見えない。
コイツら、見た目の頑強さに比べて豆腐メンタルすぎるだろ。
一体中身は何で出来ているってんだ?
でも今はゴーレムは全くあてにできないわけで、オレはどうにかこの連中と渡り合わないといけないってわけだ。
ここで毛皮と鉄製の万年筆でもあればその二つをこすり合わせて火花を散らして呪術使いのフリでもしてハッタリで誤魔化せるんだが……。
でもそんな都合のいいアイテムがここにはない、ってか……このネタってオレどこで知ったんだっけ??
なんてことを言ってる場合じゃない!
どうにかここは獣人達にオレは敵じゃない事を伝えないと。
オレはゴーレムにその場でうずくまらせて自分達は敵対の意志は無い事を伝えた。
だが、それでも獣人達はオレの事を信用しないようだ。
一体どうすれば良いんだよ。
ここで甘いものでも持っていれば餌付けすることも出来るだろうけど、いかんせんこの世界に来てまだ満足できる食事に辿り着けていないのにそんな甘いものを用意できるわけが無い、むしろ安価で甘いものがあったらオレが食べたいくらいだ。
マジでどうしろってんだ? 獣人達はオレを見て武器を突き付けたままだ。
そんな状態の中、獣人達が頭を下げていった。
どうやら彼等の中で一番偉いのが姿を見せたようだ。
一体どんな巨大なバケモノが出てくるんだよ……。
――だが、姿を見せたのは、毛皮に包まれたフードの可愛らしい少女だった。
えっ? この娘がコイツらの長だというのか?
この子を人質にすればオレは簡単にここから抜け出せるかもしれない。
しかしオレはその選択をしなかった。
もしここで仮にあの子が本当に強い長の娘だったりした場合、そんな娘を危険な目にあわせたのがバレたらオレの命はいくつあっても足りない。
それなら強硬手段はやめておこう。
「おまえ、なにものだっ?」
「オレ……か? オレは
「こばやし、か。おまえ、おもしろいすきるもってるなっ」
「面白いスキル? ひょっとしてこのゴーレム作成の事か?」
「そうだっ、そのちから、モッカにかせ」
モッカってのは、オレの目の前にいる少女の名前の事なのか? それともこの獣人の一族の名称なのか?
オレとゴーレム達はモッカの預かりとなり、獣人達に囲まれながら集落の中に連れて行かれた。
「あんしんしろっ、モッカはおまえたち、とってくったりしないっ」
どうやらこの言い方、モッカとはこの娘の名前で合ってるようだな……。
モッカはオレに質問をしてきた。
何でこんな所にいるのか、オレが何者なのか、それらを根掘り葉掘り聞かれた。
だがモッカ自体はあまり頭が良くないのだろう、オレへの質問はモッカの後ろの獣人の老人が何かの石板に刻み込んでいるようだ。
「おキャクジン、モッカサマ。おマエにキョウミをモッた。ウソ、カクしゴトナくハナせ」
獣人の会話はやはり聞き取りにくい、オレは石板を譲ってもらい、絵で説明をしようとした。
それで絵を描くと、モッカはとても興味を示したらしく、オレにもっと何か描いてほしいと迫ってきた。
この距離感、ちょっと意識してしまうところがあるが、彼女はそんな事まるで気にしていないようだ。
オレの背中に柔らかくて小さい温かいふくらみの感触が伝わってきた。
いかんいかん、こんな少女にオレは何気を取られているんだ。
とにかく今はモッカの機嫌を良くしてここでの立ち位置を確保する方が先だ。
オレはその辺りにいた動物の絵を描いたり、風景を描いてやった。
まあ一応は建築パースと完成予想図に製図は手がけた事があるからな。
オレはプロそのものとは言わずとも、絵心が無いわけでは無い。
だがモッカにとってはその程度の絵でも満足だったようだ。
硬い粘土板のタブレットはどんどん追加されていき、オレは獣人達に一目置かれるようになった。
そして獣人達にとってオレの扱いは捕虜や敵対者から、長の娘であるモッカの客人となった。
ゴーレム達も獣人の敵でない事が分かった途端、大きなモノを運ぶ手伝いを頼まれたりしているようだ。
だが、そんなオレ達を襲ったのは突然の大雨だった。
雨は激しく降りそそぎ、モッカ達の掘っ立て小屋は雨に流されてしまった。
だがこれももう慣れた物らしく、高台に避難した事で幸い死者はいなかったようだ。
しかし、今は良くてもこれでまた雨のせいで病気が広まるとモッカ達の生活は苦しくなるかもしれない。
オレはモッカに家の事について聞いてみた。
「モッカさん、この村の家って、どうなってるんです? 雨が降ったら毎回作り直しなのですか?」
「あめ、かみさまのめぐみっ。もんくいったらひどいめにあうっ」
どうやら獣人達はこの時折降り注ぐ雨は避けられないものだと受け入れているようだ。
だが、こんな雨が降った後に泥まみれになる劣悪な環境だと、病気が蔓延してしまう。
オレはモッカ達にこの村で病気が起きてないのか聞いてみた。
「モッカさん、この村では雨が降った後に病気が流行ったりしてないんですか」
「かみさま、あめのあとわるいかぜでる。そしてモッカのなかま、おおぜいかみのくにいく」
これって、神の国に行くって言ってるけど、ようは雨の後病気が流行ってやはり死者が出るって言ってるのと同じじゃないかよ!
っ冗談じゃない。こんな場所にいつまでもいたらオレまで病気になってしまう。
ここはどうにかこの場所を改善しないとここの病気が町にまで広がったら大規模な伝染病になってしまう。
それに病気を持ち込んだとして誤解されたまま、獣人達が皆殺しにされたらもっとシャレにならないぞ!
ここはオレの知識と経験を活かしてこの村の住宅問題を建て直さないと。
そういえば東南アジアでの住宅事情がこの森の環境と似ているかも知れない。
雨が多くて地面に家を建てられないパターンの家を建てる方法だ。
えっと、あれは確か……丸い家を板状に作ってその上に壁の少ない柱を建て、茅葺きを作る……そうだ、絵にしてみよう。
オレが家の絵を描くと、モッカが興味を示した。
「これ、なんなのっ? こんなねぐらみたことないっ」
「そうだな、これを今から作るから、モッカさんは獣人の皆さんに協力をお願いできますか?」
「わかったっ。このむらのもの、モッカのいうことしたがう」
どうにか長の娘であるモッカを味方にした事で、オレの話は獣人達にすんなりと受け入れられた。
獣人達はオレの指示に従い、ゴーレムはそんな獣人達のサポートとして柱を支えたり木を切り倒して持ち運んだりした。
流石にゴーレムの力はA級モンスターに相当するらしく、三匹いるゴーレムのおかげでモッカの家は完成した。
これを本来の獣人や人間達だけで作ろうとすると、間違いなく一週間以上はかかるだろう。
だがオレ達はそれをものの一日で完成させたのだ。