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第6話 許可証……期限切れ??

 真剣な表情でオレに向き合ったイツマの棟梁は、深々と頭を下げてきた。


「コバヤシ、お前さんは凄いよ。儂はもうまともに外に出る事も出来なくなると思っていた。だがお前さんの作ったこの車椅子という道具、これのおかげで儂もまだ外に出かける事が出来たんだからな」


 オレが酒場の主人に頼んで譲ってもらった丸テーブルと丸い柱の端材、そして鎖と椅子は全部を組み合わせた簡易式の車椅子になった。


 イツマの棟梁が変わった椅子で外に出かけているのを見た町の人は足腰の弱った老人や病人の為にこの車椅子を作ってほしいとオレの所に押し寄せた。

 まあ、イツマの棟梁本人が街に出かけているのが宣伝効果になっていたってわけだ。


 また、上半身は無事だったイツマの棟梁はリハビリとばかりに車椅子用の鎖に巻きつける歯車を器用に作っている。

 やはり工具を使っているのが彼にとっては生活の一部なんだろうな。


「それでだ、儂はお前さんを正式に大工ギルドで弟子として登録しようと思ってな。紹介状を書こうと思っているんだ。それがあればお前さんはいっぱしの大工として儂の仕事を任せる事が出来るからな。あのデカいのもお前さんの言う事なら聞くんだろう」


 イツマの棟梁の言い方は初めてオレと会った時とは真逆だった。

 やはり職人には仕事を通して話をするのが、一番お互いが理解できるのかもしれないな。


 町の人達もいつしかオレをイツマの棟梁の弟子と認めてくれるようになった。

 冒険者としては大成出来なかったが、やはりこの建築といった分野では前の人生の経験が活きているようだ。


 それにオレのアイデアで作った車椅子は飛ぶようにヒットし、一つが金貨一枚で売れるようになった。

 まあ家族を介護する側にしたら、相手の下半身が不自由になって動けなくなるよりはこの金額でも外に出る事や移動が出来るだけ納得というところか。


 オレは車椅子の制作費用とイツマの棟梁から引き継いだ大工の仕事でそこそこの金が稼げるようになってきた。

そしていつしか、巨大なゴーレムは建築用の運搬や工夫としてはとても便利な存在になっていた。


 ――だが、そんなオレの出鼻をくじくような事が起きてしまった。


 オレはいつものように町の住人の工事を請け負い、ドブさらいをゴーレムと一緒に行っていた。

 すると、ここにこの辺りでは滅多にお目にかけないような女騎士が姿を見せたのだ。

 馬に乗った彼女はかなりの美人だと言えただろう。


「止まれ、工事を中止するのである」

「へ? どういう事だよ、この工事はきちんと許可取ってるはずだろ」

「残念だが、この工事の許可証は無効だ。責任者の名前の欄をよく見てみるのだな」


 女騎士らしき人物はそう言うとイツマの棟梁が記入した工事許可証をオレに突きつけてきた。


「確かにイツマ殿の名前はここに署名されている。だが、ここの時期を見るのだ。よく見てみろ、この許可証の期限は数日前に切れているのである!」

「えっ? マジかよ……」

「大工の普請を行うには一級大工の許可証が必要だという。だが、イツマ殿の免許は数日前に切れている。つまりはこのまま工事を進めるのは無許可で行っているのと同じ事となり、国の法律に逆らう事になるのである」


 あーあ、これは面倒くさい事になったなぁ。

 異世界ならそこまで法律ガチガチに建築に関する法律とかで縛られていないと思ったのに、これじゃあまるで元々いた世界と大差変わらないじゃないかよ。


 せっかくイツマの棟梁から仕事を託されて少しずつ仕事が上向きになりつつあったのに、いきなりこんな邪魔が入るなんて。


 コレってひょっとするとオレと同じ世界の転生者が身内にだけ工事させる為に法律を都合よく作り替えたのかもしれない。

 周りにいる人達の反応を見る限り、今までにこんな話聞いた事も無いといったそぶりだ。


「それで、この工事の続きをやるにはどうすれば良いってんだよ?」

「そうだな、今からでは期限切れなので各町での申請というわけにはいかないので、王都に向かいそこで新たに大工ギルドにイツマ殿の一級大工の許可証を更新してもらう必要があるといえる」


 オイオイ、あの車椅子でイツマの棟梁にここからかなり離れた王都に行って許可証を更新しろというのかよ、コレ間違いなくイツマの棟梁に仕事をさせない為の裏工作だろ。

 どうやらオレと同じ世界にいたと思われる転生者はかなり悪辣で狡猾な奴みたいだな。


 自分達以外に仕事をさせないようにする事で許可制の仕事を牛耳る事ができるわけだからな。


「ちょっと待ってくれ、イツマの棟梁は下半身を怪我してしまい、もう王都に行くのは無理なんだ、他に何か方法は無いのかよ」

「なんだ貴様は、馴れ馴れしいヤツだな。そうだな、もしイツマの代わりに誰か王都に向かい申請許可証を更新するなら今の仕事の続きを再開する事は可能である。でも誰が行くのだ? 専門性の問われる申請許可を本人以外が出来るのか」


 オレが前の世界でやっていた仕事はこういう許可系の申請やマネジメントも含まれていた。

 つまりこれはオレなら十分可能ってわけだ。

 幸い、転生ボーナスだったのかこの世界の文字はオレにも読めるように神様が設定してくれている。

 だから今のオレならイツマの棟梁の代わりに書類を書くのは何の問題も無いってわけだ。


「コバヤシ、お前さんが代わりに引き受けてくれるのか。面目ねェ、儂がこんな事にならなければな……」

「イツマさん、大丈夫ですよ。オレが代わりにきちんと書類申請してきますから」


 まあ実際オレは前の世界でも建築士の資格を持っていた、だからこんな異世界でも書類申請はお手の物だと言えるだろう。


「良いだろう。私は一足先に王都に向かう用事があるのでここで失礼する。貴様はコバヤシといったか、王都に着いたら大工ギルドにフォルンマイヤーから話を聞いたと伝えろ、そうすれば申請許可は出せるようにしておいてやる」


 どうやらこの女騎士、全く話の分からないタイプではなさそうだ。

 まあよくいる杓子定規の公務員タイプってところか。


 仕方ないのでオレは一旦仕事を中止し、イツマの棟梁の代わりに王都に向かう事になった。


「ここから王都に向かうならシャウッドの森は回避した方が良いだろう、少し時間はかかるがその方が安全だからな」

「シャウッドの森?」

「錬金術士・スイセキが手がけた森だ。かつてこの国を自らの燃える油を使った発明品で環境をメチャクチャにした錬金術師が自らの行いを過ちとし、森を再生させたものの、今度は森の浸食が大きすぎて人の踏みこめない土地になってしまった場所だ」


 なんだよそれ、やる事成すことメチャクチャな奴もいるもんだな。


「今では獣人やエルフ達の住処として人間が踏み込めない土地になっている。悪い事は言わないからその森は避けた方が良いぞ」


 ベテラン冒険者がオレに忠告してくれた。

 だが、そんな悠長な事を言っている場合では無い。

 このまま仕事が出来なければこの町の人達が困ってしまうんだ。


 そしてオレはシャウッドの森を突き抜けるショートカットルートを通り、王都に向かう事にした。


 ――だが、やはり世の中はそんなに甘いものでは無い。


 何故かオレは今、大勢の獣人達に取り囲まれてしまっていた……。

 獣人達は手に武器を構え、オレとゴーレムを睨みつけている。


 一体オレはこの後どうなってしまうってんだよ??

 オレ、アンタ達と戦うつもりなんて全く無いんだよー!


 あーあ、オレ、このまま生きて帰れるんだろうか……。

 オレはシャウッドの森に入った事を後悔していた。


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