「コンゴウ、そこの鉄鋼、こっちに運んでくれ!」
「グォゴゴゴゴ……」
オレの指示でコンゴウと呼ばれた巨大な金色のゴーレムが資材を肩に担いでいた。
その大きさは大体二十メートルあるかどうかといったところか。
その反対の肩には銀色の髪の少女が座り、お菓子を食べている。
「コンゴウ、もう少しゆっくり歩いてほしいのだ……」
「ゴッ……ゴゴッ……」
そしてオレは他のゴーレムを使い、別の場所の支柱を立てたりコンクリートを流し込んでいた。
「こばやし、しざいもってきたっ」
「わかった、そこに置いておいてくれ」
ここでは異様な光景が広がっている。
数体の巨大なゴーレムや魔獣が建材資材を持って忙しそうに動いているのだ。
そう、オレはこの連中をまとめる社長、この会社は『異世界ゴーレムカンパニー』なのだ。
オレ達は魔王軍の襲撃に備える為の飛行艇空軍基地を設営中だ。
しかし、最初はたった一人だったオレだけの会社、大きくなったもんだな。
オレは以前の事を思い出した。
それは、オレがまだこの世界に来る前の話だ……。
◆
「頼む、もう少し寝かせてくれ……」
まさかそれがオレのこの世での最後のセリフになるなんて、普通は考えないよな……。
少し仕事を休んでいる間にクーラーの消し忘れによる低体温症での死亡なんて、シャレにもなんないよ。
気が付いたらオレは何故か光の眩しい場所で目が覚めた。
「どこだよここは? オレ寝られなかったんだけど、もう少しだけ寝かせてくれ、そうじゃなきゃ仕事が……」
「お前さんはもう仕事する必要ないんじゃがな」
へっ? 一体どういう事だよ。
早く元の場所に戻らないと、あ……そうか、これは夢だ。早く起きて仕事をしないとスケジュールが。
「お前さんは死んだのじゃよ。ここは冥界と人間界の間の世界。今のお前さんは魂だけの存在なんじゃよ」
オレに語りかけてきた人物は筋骨隆々でマッチョな男だった。
オイオイ、こういう場合って優しい女神様が語りかけてくれるもんだろ、何でガテン系のゴリマッチョな現場監督みたいなオッサンがいるんだよ。
ただですら仕事で接しているのがゴリマッチョの現場の人間ばかりだってのに、オレには可愛い女の子と知り合う機会も無いのかよ……。
確かにこの会社は中堅ゼネコンで事務員や秘書課には確かにそこそこ可愛い子もいるけど、大体そういうのってもうKО大だのWA大だの卒の営業担当が手を付けていて現場とのやり取りをやっている専門系の三流大卒のオレみたいなのは相手にもしてもらえない。
って愚痴を言っててもここに可愛い女の子がポンッと出てくるわけじゃないんだよな。
あーあ、オレの人生って何だったんだろ。
小さい頃はサグラダファミリアだのビッグエッグだのレインボーブリッジだのといった大型の建物を作りたい、歴史に名の残る建造物を作りたいと思っていたが、入った建設会社は大手と孫請けの間での金のやり取りや
食うためには仕方ないと割り切って仕事をするものの、大手ゼネコンと孫請けの間での軋轢はかなりのもので……胃薬に頼る日々にウンザリしていた所だ。
だから甘いもの食べまくってストレス解消するっきゃなかったんだよな。
幸いオレは食べてもあまり太らない体質だから、誰もいない残業タイムはオレのおやつタイムでもあったんだ。
でも今考えると……たんに外見的に太らないだけで内臓にかなり負担を与えていたのかもしれない。
挙句の果てには仕事場での
しかしだからといってオレに何が出来るってんだ?
魂だけの存在だというならこの後は天国か地獄行きか、さあどうとでもしてみろよ。
「わかったよ、オレが死んだというならさっさと天国でも地獄でも連れて行きやがれ、もうどうとでもなればいいからな!」
「残念じゃがそういうわけにもいかないんじゃ」
へ? 一体どういう事だ。
天国でも地獄でもない、それじゃあオレはどういう扱いになるんだよ。
「実はな、今は天国も地獄も定員が一杯になっていて順番待ちなのじゃ、だからといってここで煉獄の火に焼かれ続ける程、お前さんは悪事もしていなければ善行もしてない。でも自堕落に日々を過ごしていた罪かといえば、それほどサボっていたわけでもないから非常に宙ぶらりんの中途半端な魂なんじゃよ」
なんだよそれ。
子供の頃から中途半端とか平均以上上級以下とは言われたが、死んでまでそのあつかいとは……。
「そこでお前さんにはもう一度チャンスをやろうと思っておる。幸い異世界にはお前さんが生きていけるだけの場所がありそうじゃからな、地球に再度戻す事は出来んが、異世界ならお前さんの現在の姿そのまま転移という形で人生のやり直しをさせる事も出来るのじゃ」
なんだなんだ、つまり、オレは異世界で転移して今のスペックのまま生きていけるってわけか。
「じゃがそのままではお前さんが異世界に生きていけるだけの能力が足りんからな、何か一つスキルを与えてやろうではないか。さあ、何か望みを言えばそれに近いスキルを与えてやろう」
オレは神様にスキルを一つ与えてやると言われた。
しかし、一体何のスキルを望めばいいんだ……?
神様が言うには、異世界で転移して生きていくのにスキルが必要だという話だ。
しかしそのスキルって一体どんなものがあるのだろうか。
「オレにスキルをくれるって、それは一体どんなスキルなんだよ」
「うーむ、まだ今は言えんが、間違いなくお前さんが望むスキルじゃ。その力で異世界を建て直してくれないか、お前さんだから出来ると見たのじゃ」
「へ? オレだから出来るだって?」
「そうじゃ、ワシはお前さんの事を知っておる。そして、元の世界ではその想いが決して果たせないという事もな。じゃが、お前さんの経験、センス、そしてやる気……それらはこれから行く異世界ゼネラリア・コンワールで発揮されるじゃろう!」
ゼネラリア・コンワール?
オレが移転する新たな世界の名前か。
「そこだとオレの願いが叶うってのか、アンタはオレの心が読めるのか」
「無論、ワシは神じゃ。お前さんが何をしたいのか、よーくわかっておるわい」
そう言うとオレの身体……いや、魂が光り出した。
「さあ、行くが良い、新たなる世界へ」
「本当に、本当にオレの願いが叶うってんだな」
「くどい、あまり言うとお前さんの記憶を消してしまうぞ」
「か、勘弁してくれ。それじゃあ何をしていいのか分からなくなってしまう」
神様が太い丸太のような腕を振り上げると、オレの魂は一気に持ち上げられ、そして再び彼が手を振り下ろすとものすごいスピードで地面に向かって落下していった。
◆
ドゴォォオオオーン!
「いてて……一体どうなってるんだ、オレ……ここは一体ドコだ?」
どうやらオレはどこからか落下してきたみたいだ、だがどうなってるんだ? 確かオレは会社で仮眠をとっていたんだが、寝ている間に変な夢を見たような気がするんだよな。
って事は、ここは夢の中の世界なのか?
それにしては、痛みを感じたり随分とリアルだな。
ちょっと思い出してみよう。
確かオレは……
株式会社佐藤武蔵建設、それは趣味が釣り三昧の社長の創業した中堅建築会社佐藤建設と、暴走族の総長からサラリーマンになった三代目社長の武蔵建設が合併した中堅建設会社だ。
仕事のハードスケジュールの中でようやく仮眠したところから記憶が無い……。
何か変な夢を見たような気がするが、夢の中で夢を見るというのも変な話だ。
それに今のここって夢にしてはやたらとリアルな気がする……。
そんな事を考えていたオレだったが、現実はそう甘くはなかった。
いきなりオレに向かって何かの生き物が叫び声を上げながら襲い掛かってきたのだ!
「くそっ、一体どうなってるんだよ!」
アレは以前ゲームで見たゴブリンに似ている。
そうか、この世界こういう奴らがいる世界なのか……って、オレ武器何も持ってないぞ。
一体どうするんだよ。
異世界転生してきなりゴブリンに襲われて死亡なんて、情けなすぎる。
こういう場合、異世界転移だの異世界転生だのってなったら何かスキル貰えるものだろ、以前漫画やゲームで見たぞ。
仕事の休憩時間の合間にスマホやタブレットで、『なれる系ライトノベル』でそういう作品をブクマしまくって読んでたからな。
こうなったら、なれる系主人公みたいにやってやる! イチかバチか……そうだ、スキルを使ってみよう。
「何かぁー、出ろぉお!」
ニュッ。
ゴボォッ!!
地面から大きな土の手が生えてきて、ゴブリンを殴り飛ばした。
何か知らないけど、助かったんだよな……。
オレがほっとすると、地面に出来た土の手は一瞬で姿を消した。
さっきのは何だったんだろう、でもアレがオレのスキルなんだろうか……。