「ティーラさんのことは君には関係ない話だ。いい加減にしてくれ」
レオさんは怒りを含む低い声で、うるさいアミア様を叱咤した。その声にアミア様だけではなく、キッチンにいるティーラもビクッとした。
(レオさんの怒りの低い声だわ)
「な、何よ……私だって、ここで働きたいわ」
「はぁ。君にメイド仕事は無理だよ。アミア様は貴族だ、屋敷でメイドのように働いていないだろう? 使う側が使われる側になれない。こんな所に来ず、社交界、お茶会で素敵な男性を見つけなさい」
――社交界かあ。
ティーラの両親が生きていて男爵令嬢のままだったら、十六歳のとき、屋敷に村の人を呼びデビュタントをして大人の仲間入りをしていた。
小さい頃は家庭教師を雇い、領地経営、ダンス、淑女教育を受けていた。
「何度も言うけど僕は貴族じゃない。君が貴族なら貴族の男性と婚約した方がいいし、僕の仕事の邪魔になる」
「だよな。俺達の邪魔だ」
もうすぐこの屋敷にレオさんの仲間が来る。
レオさんの仲間は獣人の方ばかりだから、獣人嫌いのアミア様がいてはみんながくつろげないし、森を管理する仕事の邪魔にもなる。
「私、レオがしている森の管理の仕事は邪魔しない。むしろ、管理の勉強はしているから一緒に管理してあげる」
めげないアミア様だが。
「無理だ、森の管理はそんなに簡単じゃない。森に冒険者などで手練れた者がやってくる。君の父親だって腕の立つ騎士を雇い、一緒に守ってきただろう?」
「そうだけど……私だって騎士に習っているから、剣は一応扱えるわ」
「お嬢様の習い事の剣では、実戦は無理だと思うよ」
アミア様を思ってのことだろう、レオさんは冷たく言い放った。彼女が嫌なら獣人の姿を見せれば済むが、姿を見て悲鳴をあげ、逃げる姿を見たレオさんとスオウさんは傷付く。
――彼女の事だから、彼らに酷いことを言うに違いない。
あの日、助けたくれた金色毛玉のレオさん。キッチンから出て行って「帰ってください」とティーラが出て言っても火に油を注ぐだけ。彼女は逆上して、さらに声を荒げるだろう。
(困った)
みんながそう思ったとき「よう! レオ、スオウ」野太い声が玄関から聞こえた。今日か明日に着くとレオさんが話していた、熊の獣人カンさんが到着したみたいだ。
「おまさんら、ここで何してる? オデのお迎えか?」
「お、カンじゃないか、久しぶり!」
「久しぶりだなカン、元気にしてたか?」
「ああ、元気だ。オデ、さいきん嫁子をもらって幸せだ」
「嫁をもらった?」
「お前、結婚したのか!」
熊の獣人カンの登場で、玄関がさらに賑やかになる。
居ても立っても居られず、ティーラはキッチンから玄関へと向かった。