目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第36話

 彼女は手紙だけでは収まらなかった。早朝、コンコンコンと玄関の扉が鳴る。今、三人で朝食を食べていた途中にだ。


「こんな朝早く誰だろう?」

「うるせぇ」

「誰でしょうか?」


 レオさんは口元に手を当て少し考え、冒険者仲間からまだ連絡はないと言った。なら、あの人が来たのだとため息を付き。まだ起き抜けで、朝食の手を止められ苛立つスオウさん。


「そんな奴は無視しておけ。こんな早朝に連絡もせずくるなんて、非常識だ」


「そうだね。来るなら来るで連絡して欲しいな。いきなりだと断ることができない」


 二人は文句を言いながら大欠伸をした。

 今日はレオさんの仕事が休みの日で、昨日は遅くまでお酒を飲みながら、レオさんの寝室でカードゲームをしていた。負け続けのスオウさんが「もう一回」「もう一回だ」と言う声が、隣のレオさんの部屋から聞こえていた。


 ふわぁっと、二人の欠伸がうつるティーラ。

 ティーラも、ティーラで、昨夜は本を読んで夜更かしをしていたのだ。


「ティーラさん、昨夜うるさかったよね。スオウのせいだから、今日はこき使っていいよ」


「げっ、レオも負けたらもう一回って言っていたくせに、よく言うよ!」


 三人は玄関に訪れたあの人を無視して、朝食をとっていた。あの人も無視されているのに気付いたのか、ドアを叩きながら大声をあげ出した。


「レオ、いるんでしょう! 出てきなさいよ」


 相変わらずアミア様の上からの物言い。レオさんは「ティーラさんはここにいて」食卓を立つと人型になり玄関へと向かった。スオウさんもそれを見て人型になると、レオさんの後追って玄関へ向かう。


「こんな早朝に誰ですか?」

「あ、レオ! アミアよ、アミア」


 玄関からレオさん、スオウさんとアミア様の声が、ティーラがいるキッチンにまで聞こえてきた。


「レオ。手紙にも書いたけど、あの女を追い出した方がいいって。あの女、男なら誰でもいいのよ」


 朝の挨拶もなしに、自分の言い分を言う彼女。

 連絡もせず来といて、その行動は貴族らしくないと思う。


(物語に出てくる貴族達はみんな素敵なのに……アミア様は自分勝手すぎるわ)


「僕のメイドに失礼です。それとアミア様、来るなら来ると数日前に連絡してください。こんな早朝に来るのは迷惑です」


「ほんと迷惑だ!」


 レオさんの後にスオウさんが続いた。素敵な二人に迷惑だと言われてもアミア様の耳には届かず、彼女は口に手を当て頬を赤くした。


「レオ、素敵な人。いまから、うちの屋敷でお茶をしませんか? うちのコックが作るデザートはすごく美味しんです。あと、私の新しいドレスも見て欲しいな」


 お茶の誘って……まだ早朝だ。

 お茶の時間には程遠い。


「誰が行くか! 人の都合を考えろ、帰れ!」


「そうだね。連絡なしにいきなり来て、挙げ句の果てにはお茶の誘い? 君はもっと、人の都合を考えた方がいいよ」


「なんで? 私からのお茶の誘いをどうして断るの? あ、わかった。あの女に言われたのね。いるんでしょう出てきなさいよ」


 玄関でティーラを呼び、喚き出したアミア様。

 彼女は人の話をまったく聞かず、自分の考えでしか物事を語れない人のようだ。


(こんなに話の通じない人も珍しいわ)







コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?