彼女は手紙だけでは収まらなかった。早朝、コンコンコンと玄関の扉が鳴る。今、三人で朝食を食べていた途中にだ。
「こんな朝早く誰だろう?」
「うるせぇ」
「誰でしょうか?」
レオさんは口元に手を当て少し考え、冒険者仲間からまだ連絡はないと言った。なら、あの人が来たのだとため息を付き。まだ起き抜けで、朝食の手を止められ苛立つスオウさん。
「そんな奴は無視しておけ。こんな早朝に連絡もせずくるなんて、非常識だ」
「そうだね。来るなら来るで連絡して欲しいな。いきなりだと断ることができない」
二人は文句を言いながら大欠伸をした。
今日はレオさんの仕事が休みの日で、昨日は遅くまでお酒を飲みながら、レオさんの寝室でカードゲームをしていた。負け続けのスオウさんが「もう一回」「もう一回だ」と言う声が、隣のレオさんの部屋から聞こえていた。
ふわぁっと、二人の欠伸がうつるティーラ。
ティーラも、ティーラで、昨夜は本を読んで夜更かしをしていたのだ。
「ティーラさん、昨夜うるさかったよね。スオウのせいだから、今日はこき使っていいよ」
「げっ、レオも負けたらもう一回って言っていたくせに、よく言うよ!」
三人は玄関に訪れたあの人を無視して、朝食をとっていた。あの人も無視されているのに気付いたのか、ドアを叩きながら大声をあげ出した。
「レオ、いるんでしょう! 出てきなさいよ」
相変わらずアミア様の上からの物言い。レオさんは「ティーラさんはここにいて」食卓を立つと人型になり玄関へと向かった。スオウさんもそれを見て人型になると、レオさんの後追って玄関へ向かう。
「こんな早朝に誰ですか?」
「あ、レオ! アミアよ、アミア」
玄関からレオさん、スオウさんとアミア様の声が、ティーラがいるキッチンにまで聞こえてきた。
「レオ。手紙にも書いたけど、あの女を追い出した方がいいって。あの女、男なら誰でもいいのよ」
朝の挨拶もなしに、自分の言い分を言う彼女。
連絡もせず来といて、その行動は貴族らしくないと思う。
(物語に出てくる貴族達はみんな素敵なのに……アミア様は自分勝手すぎるわ)
「僕のメイドに失礼です。それとアミア様、来るなら来ると数日前に連絡してください。こんな早朝に来るのは迷惑です」
「ほんと迷惑だ!」
レオさんの後にスオウさんが続いた。素敵な二人に迷惑だと言われてもアミア様の耳には届かず、彼女は口に手を当て頬を赤くした。
「レオ、素敵な人。いまから、うちの屋敷でお茶をしませんか? うちのコックが作るデザートはすごく美味しんです。あと、私の新しいドレスも見て欲しいな」
お茶の誘って……まだ早朝だ。
お茶の時間には程遠い。
「誰が行くか! 人の都合を考えろ、帰れ!」
「そうだね。連絡なしにいきなり来て、挙げ句の果てにはお茶の誘い? 君はもっと、人の都合を考えた方がいいよ」
「なんで? 私からのお茶の誘いをどうして断るの? あ、わかった。あの女に言われたのね。いるんでしょう出てきなさいよ」
玄関でティーラを呼び、喚き出したアミア様。
彼女は人の話をまったく聞かず、自分の考えでしか物事を語れない人のようだ。
(こんなに話の通じない人も珍しいわ)