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第33話

 レオさんの屋敷に、オオカミ族のスオウが来てはや3日。彼は屋敷の外に天幕を張り、そこで寝泊まりしている。洗濯物もティーラと洗い、食事の仕込みも手伝ってくれる。


「お、ティーラ。今から街まで買い物か?」

「はい。近くの街まで行ってきます」


 そう伝えて買い物カゴを持ったティーラに、スオウ様は「待って、荷物持ちについていくよ」と言った。今日の買い物は夕飯のビーフシチュー用のかたまり肉、ジャガイモなどの野菜を買おうと思っていた、ティーラは遠慮なくスオウ様の提案に乗った。


「いいんですか? スオウ様、助かります」

「レオに頼まれているから気にしなくていいよ。それと俺のことはスオウでいい」


「はい。スオウさん」


 ティーラはスオウさんと一緒に、街へ買い物に行くことになった。いつも通りに商店街に向かいビーフシチューの材料を買い、パン屋で夕飯と朝食のパンを買った。あとは屋敷へ帰るだけだが、スオウさんは武器屋を見つけティーラを呼び止めた。


「悪いんだけど、そこの武器屋に寄ってもいいか?」

「いいですよ。私はそこの古本屋で待っています」


 ティーラは指を指して、近くの古本屋にいるとスオウさんに伝えた。スオウは「わかった」と頷き、武器屋に入っていく。その姿をティーラは見送り、自分も古本屋に向かおうとしたが、誰かが手を強く握った。


「きゃっ? だ、誰ですか?」

「俺だよ俺。リオンだよ」

「え? リ、リオン君?」

「探したぞ、こんな所にいたんだ」


 仕立ての良い貴族服を着たリオン君を見て、領地からこの国に、羊食品と羊毛製品を持ってきたことがわかった。なぜかと言うと、ティーラの両親も羊食品と羊毛製品を持って、いろんな国を回っていたからだ。


(子供の頃だったけど……屋敷に残る、お父様が付けていた取引先の帳簿を見たのかしら?)


「会えてよかった。前、ここで見かけたのは本当だった。また仕事でこの街に来れば、ティーラに会えると思っていた。村に帰ろう、みんなが心配している」


 リオンはティーラの話を聞かず連れて行こうとしたが、嫌だとティーラは首を振った。


「嫌です。手を離してください。リオン様、私は村には帰りません」


「どうして? その服、メイドの仕事がしたいならマント父上の所で働けばいい」


 このリオンの言葉にティーラは眉をひそめた。

 ティーラは裏切った2人を見たくなくて村を出た。その、ティーラにそこで働けと言うなんて……酷すぎる。


(この人は、私にしたことを忘れたの?)


 あなたからプロポーズをして婚約したのに……裏でセジール様と付き合い、セジール様を妊娠させた。酷い裏切りをしたくせに、帰ってこいなんてどうして言えるの。


「結構です。いまの仕事が好きなので村に帰りません。失礼します」


 自分の気持ちを伝えティーラは古本屋は行かず、スオウさんがいる武器屋に行こうとした。だが、リオンはティーラの手を離そうとしない。離してと、いくらティーラが力を込めてもリオンが掴んだ手は離れない。


「なぁ、帰ろうティーラ」


「なんでですか? 私とあなたはあの日に別れたの。その別れた私がどこで何をしていようが、今のあなたには関係ないことでしょう? その手を離して!」


「ティーラ……」


 大きな声を上げたティーラを、街の人は何事かと見てくる。そのティーラの声は武器屋にいたスオウ様にも聞こえたらしく、スオウさんが店から慌てて出てくる姿が見えた。


「あ、スオウ様、助けてください」

「何があった? ティーラ!」


 知らない男の名前を呼んだティーラに動揺して、リオンの手の力が抜けた。ティーラはそのリオンの手を振り払い、彼の元へと走っていく。その後ろで「ティーラ、待って」と呼んだリオン君の声を聞かないフリをして、ティーラは急いでスオウさんの元へと走った。

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