ティーラの態度に声を詰まらせたスオウが、次に発したのは「俺の耳と尻尾が素敵? はっ、おかしな人間もいるんだな」だった。普通なら怖がられる存在の獣人を、まったく怖がらないティーラをいぶがしげに見つめた。
「あ、あのスオウ様、コーヒーと紅茶どちらにしますか?」
「コーヒー、紅茶? 俺はアイスティが飲みたい」
「アイスティですね、かしこまりました」
応接間を出てアイスティを淹れに、ティーラはキッチンに向かう。あまりにも見てくるスオウ様にティーラは困惑した。
(スオウ様に睨まれた……綺麗だなんて、失礼なことを言ってしまったのかしら?)
スオウは普通に見ていたが、彼の鋭い瞳にティーラは睨まれたと思い、レオさんのお友達を怒られたと落ち込んでいた。
「ティーラさん、ただいま」
レオさんが仕事から戻る。キッチンにいたティーラはその事を伝えに慌てて玄関へと向かったせいで、足がもつれて、帰ったばかりのレオの胸に飛び込んでしまった。
「きゃっ」
「ティーラさん? 大丈夫」
「はい。大丈夫です」
レオはティーラに触れられて、ライオンの姿に戻りながら、いつもと様子がちがうティーラを心配した。
「どうしたのティーラさん? 僕の留守中に何かあった?」
「はい。私、レオさんのお客様を怒らせてしまいました」
「はぁ? 僕のお客? 誰?」
「スオウ様です」
ティーラからスオウと名前を聞き、レオさんはどこにいるか聞いた。ティーラが応接間に案内したと伝えると、レオさんは「わかった。応接間にコーヒーとアイスティをよろしくね」と伝え、応接間へと向かっていった。
「スオウ!」
レオは乱暴に応接間の扉を開け、中にいる男の名前を呼んだ。男はティーラがいたときとは違い、ソファに横たわりだらけていた。
「君、ティーラさんに何をした?」
「はぁ? ティーラさん? あぁメイドのあの子か、俺は何もしてねぇよ」
「じゃ、なんでスオウはオオカミの姿に戻っている? ここに来る時は違っただろう?」
ソファで寝そべるオオカミの姿のスオウに聞くが、先ほどつまずいたティーラに抱きつかれた、レオもまたライオンの姿だった。
「その言葉を、お前に返す」
「これは仕方がない……不可抗力だ!」
「ふぅーん。真面目なレオがライオンの姿に戻るほど、あの子はレオのお気に入りかぁ。嫌いな人間だぞ」
「ああ、ほかの人間は苦手だが。ティーラさんはなんて言ったらいいかわからないが違うんだ、気に入っている。彼女を誰にも渡したくない」
いつもとは違う友の言葉に、スオウはそれ以上何も言わなかった。俺たち種族を守るために、人と関わる森の管理者を選んだレオ。
ただ、友の幸せを願うだけ。
「俺はレオがいいんなら、それでいい」
コンコンコンと応接間の扉が叩かれ、ティーラがコーヒーと、アイスティを淹れてきたようだ。レオは返事を返し、扉を開けてコーヒーとアイスティのトレーを受け取った。
そのトレーの上には飲み物の他に、レオの好きなお茶菓子ばかり並んでいた。