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第30話

 ティーラを見ていた貴族の男は見つけたと、口元に手を当て口元をゆるました。仕事で羊毛の取り引きに隣国まで来てよかった、あの日いなくなったティーラはを見つけた。


「隣国の、この街に住んでいるのか。どうりで国中を探しても見つからないはずだ。会わないうちに綺麗になったな。ティーラまた会いに来るよ」


 見えなくなったティーラにたいして、自分勝手なことを言い、迎えに来た男は馬車に乗り込んだ。その頃、パン屋にいたティーラはゾクッと、背筋に寒気が走った。


(一瞬、寒気がしたけど……風邪を引くのかしら?)


 屋敷に帰りそのことをレオさんに伝えると。

「早く寝て!」と心配した彼に生姜湯を用意されて、ベッドに寝かされた。




 ランタン祭りまであと1週間になった。レオさんはまとめた書類を持って王都に行っていて、ティーラはいつも通り、洗濯掃除をしていた。


 ドンドン! ドンドン!


 ドワベルの音ではなく玄関の扉を乱暴に叩く音が、お風呂掃除中のティーラに聞こえた。あまりの音の大きさに何事かと、ティーラはエプロンで手を拭き玄関へと向かった。


  ドンドン!


「レオ、いるんだろう! 仕事が早く片付いちまって、早めに着いちまった。おーい、屋敷の中に入れてくれ!」


 早めに着いたという玄関前の人に、ティーラはランタン祭りの最中、森の警備をしてくれるレオさんと同じ獣人の人が来たと玄関の扉を開けた。開けた玄関には鋭い瞳、短い黒い髪の身長の高く。シャツとジャケット、スラックス姿で大荷物を持った男性がいた。


「あぁ? 誰だテメェ。まさか人間か⁉︎」


「はい。レオさんに雇われているメイドのティーラと言います。ただいま、レオさんは仕事で王都に行っております」


 両手を前で組み、ティーラは男性に頭を下げた。

 すると、この男性はさらに驚いた声をあげる。


「ゲッ、人間が俺に頭を下げやがった……。チッ、俺の名前はスオウ、レオの友でオオカミの獣人だ」


「まあ、いらっしゃいませスオウ様。もう少ししたら、レオさんも戻ると思いますので、中でお待ちください」


 オオカミの獣人、スオウ様をティーラは滅多に使うことがないが、いちおう掃除をしている応接間へと案内した。スオウは大きな荷物を入り口に置くと、ドカドカと応接間に入り、ドカッとソファに座り、ティーラをジロジロ見てきた。


「あのさ、お前は獣人が怖くないのか?」

「え? はい、怖くはありません」

「マジか! 俺が怖くないなんて変な人間だな。なら、この姿を見てもかぁ?」


 スオウ様は人型をとき、ティーラの前でオオカミの姿に戻った。ライオンのレオさんとは違う獣人に、ティーラは瞳を大きくして、不躾ながらスオウ様をマジマジと見てしまう。


「フン。声までねぇくらいに、ビビッたのかぁ?」


「いいえ、スオウ様も素敵。村にいた頃、森で野生のオオカミを見たことがありましたが……モフモフの耳と尻尾が素敵です」


(レオさんのモフモフのタテガミと、スラッとした尻尾には負けますが)


 思っていた言葉と違う言葉が返ってきて、スオウは声を詰まらせた。

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