スカー湖の近くに咲く、ラベンダーをレオさんと採っている。
「とても綺麗、レオさんラベンダー採りが楽しいです!」
「よかった、僕も楽しいよ」
レオさんが王都の冒険者ギルドで受けてきた調香師からの依頼、ラベンダーの花摘みを採り終え、湖の辺りにシートを引き昼食にすることにした。
湖の水面を揺らし、時折り吹く風は心地がよい。
早朝、レオさんと作ったサンドイッチとスープ、果物、手拭き用のおしぼりをバケットから取り出した。
おしぼりで手を拭いて
「いただきます」
「いただきます」
と、サンドイッチにかぶりつく。いつもの卵とレタスのサンドイッチが、外で食べるとなお美味しい。夕食の残り、ベーコンとジャガイモのスープもさらに美味しく感じる。
散歩に行っていたのか、御者をしてくれるコンさんも、馬車を停めた木陰で、昼食をとっている姿が見えた。
「うまい! 外で食べる、ご飯は美味しいね」
「はい、とても美味しいです」
「それはよかった。そうだティーラさん、今日はギルドの依頼できたけど、今度は魚を釣りに来よう」
「魚釣りですか?」
レオさんはコクンと頷き。
「ああ、このスカー湖でパーチという魚が釣れるんだ。そのパーチをトマトで煮込むと美味しいよ」
「トマトで煮込む? ……とても、美味しそう。ぜひ、食べてみたいです。次は魚を釣りに来ましょう!」
次の約束が決まった。
昼食を終えて、レオさんはシートの上で寝転び、大空に広がる雲を眺めた。ティーラはその横に座り、青空とサファイアブルーのスカー湖、ラベンダーの花を見つめた。
(風が心地いいし、とても素敵なところだわ)
ゆったりな時間を楽しんでいた2人の近くに、一台の高級な馬車が停まる。何処かの貴族が、きれいなスカー湖に訪れたのかと、ティーラは馬車を目で追っていた。
御者が操縦席から馬車の出入り口に回り扉を開けた、その馬車の中から、赤い髪をなびかせアミア様が降りてくれではないか。シートの上に寝ていたレオさんは体を起こし「なんであの人が、ここに来るんだ?」と驚いていた。
彼女は連れてきたメイドから日傘を受け取り、にこやかに笑いこちらにやってくる。
「レオ、驚いた? 屋敷に会いに行ったら、使用人にラベンダーを採りにスカー湖へ行ったって聞いたから、会いに来てあげたわ。嬉しいでしょう」
笑顔の彼女に、レオさんはため息をつき。
「……アキの奴がそう簡単に口を割るわけがない。君が、僕が何処にいるか言わないと、ずっと屋敷に居座るとか脅したんだろう! アキは人が得意ではないからな」
今日、お留守番を頼んだのはレオさんのお友達、オオカミ族のアキさん。彼はティーラにも怯える人が苦手な獣人。森を管理するレオさんは、用事などで家を開ける時は友達に頼んでいる。
「変なことを言わないでよ、私は脅してなんていないわ。少し屋敷の中で待たせてと使用人に言ったら、この場所を教えてくれたのよ」
「はぁ……僕の留守中に屋敷に入るのもどうかと思うけど」
「なによ、婚約者なんだからいいじゃない。もっと一緒にいたいわ」
「婚約者? ……いい加減にしないか。その話は伯爵にも話しをして終わっている。君は僕の婚約者なんかじゃないと、何度言えばわかるんだ!」
レオさんの怒りを含んだ声が、スカー湖のほとりに響いた。