「今度、あの女性が屋敷に来ても、ティーラさんは玄関を開けなくていいし、話もしなくていいから……」
「はい、わかりました」
レオさんは大好きなハンバーガーを手に持ったまま、眉をひそめる。どうやら彼も、あの綺麗な彼女のことが苦手みたい。
それはティーラも同じだった。あの自分勝手に話を進める女性に、かつてティーラの婚約者だったリオン君を奪ったセジール嬢を思い出す。だから、ティーラも出来るなら会いたくないと思っていた。
(レオさんがそう言ってくれて、よかった)
ティーラはホッと胸を撫で下ろした。
それから数日は何も起こらず、ティーラは毎日の仕事に励み、レオさんから貰ったたくさんの服の尻尾穴も修繕できた。村にいた頃とは違い着る服の種類が増えて、ティーラは部屋に備え付けの、クローゼットを開けることが楽しみになっている。
(メイド服にワンピース、可愛いシャツとフレアスカート……ふふ、明日のピクニックは何を着ようかしら?)
ティーラはクローゼットから、可愛いシャツと紺色のフレアスカートを取り出した。
次の日の早朝。レオさんと早起きして作ったサンドイッチを持って、ティーラ達は馬車で王都から西にあるらラベンダーが見事なスカー湖に来ている。
「ティーラさん、ラベンダーの花が綺麗だね」
「はい。こんなに、たくさんのラベンダーを見るのは初めてです。ラベンダーは香りがいいから石鹸にしてもいいし、ドライフラワーにしてもいいわ」
「詳しいね」
「村に咲いているラベンダーで、石鹸とドライフラワーを作ったことがあるんです。石鹸は肌にもいいし、作ったドライフラワーを飾るだけで、気分が癒されました」
「石鹸とドライフラワーかぁ。家ように持って帰ろう」
「はい!」
馬車の御者はレオさんのお友達、狐族のコンさん。馬車に残る彼に、昼食とポットに持ってきたスープ、果物を渡した。本日、レオさんがピクニックにこの湖を選んだのは、冒険者ギルドに調香師からラベンダーの花摘みの依頼があったと話した。
「この時期はラベンダーが綺麗だから、仕事だけど1人で行くより、ティーラさんを誘いたかったんだ」
「私を? うれしい。レオさん、ありがとうございます。素敵な湖とラベンダーが綺麗です」
誘ってくれたことが嬉しくて、ティーラははしゃいでいた。レオさんが昼食前にラベンダーを採ると言うので、ティーラも手伝いたくてシャツの袖をまくった。
「レオさん、ラベンダーをどれくらい取るんですか?」
「え? ティーラさんは服が汚れるから、そこで見てるだけでいいよ」
「1人でラベンダーを採るより、2人で採った方がはやいです!」
いつにも増して楽しそうなティーラにレオは笑い。
並んで、ラベンダー摘みをはじめた。