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第13話

 両親はいないと答えた彼女。僕が持ってきた地図は5年前のもので、彼女は北の奥地にアンドレイ領の文字を見て微笑んだ。その瞳は嬉しいけど、悲しそうに見える。もしかしてティーラさんは5年前までは、この領地のお嬢様で両親を亡くしてから……何かあったのかな。


(僕はマント領は知らないが、アンドレイ様なら知っている)


 僕が知る隣国にあるアンドレイ領の羊毛は質が良く、エルデ国でも人気があった。この数年、隣国からその行商は来ず、もう手に入らないと言われている幻の羊毛だ。


 ――その領地を他人に渡すか?


 彼女が寝言で言った「リオン君」の名前と涙。彼女が住み慣れた村を出てしてしまうほど、そいつと君の間に何かあったのだろう。


 いつの日か彼が君を迎えに来ても、僕は君を離さない。僕は君を泣かせたりなんかしない、優しくするし、大切にする。


 だから……僕を怖がらないでいて、できれば君を嫁にしたい。



 せっかくメイドとして、この屋敷で雇ってもらえることになったのに、翌日から風邪をひいてしまい彼のベッドを占領している。


「レオさん、……ごめんなさい……」


 なれないことを、したからなのかな。

 ずっと風邪なんて、ひかなかったのに。


(客間の掃除がまだで、私が彼のベッドを占領したから、体の大きいレオさんは小さなソファーで寝ている……私、ダメすぎ)


 コンコンコンと、風邪をひいたティーラを気遣って控えめに扉がノックされた。彼の優しさを、温かさをティーラは感じる。


「ティーラさん、起きてる?」

「はい、起きます」

「体調はどう? パン粥を作ったんだけど食べれる?」

「パン粥? いただきます」


 硬くなったパンとあれば砂糖、ミルクで柔らかく煮込むパン粥。昔、風邪を引いたときお母さんが作ってくれた。


(私にとって懐かしい味だわ)


「ティーラさん、食欲はある?」

「はい、あります」


 そう聞いたレオさんは椅子をベッドに引き寄せ座り、スプーンにパン粥をよそい、フウフウ冷ましてからティーラの前にだした。


 子供の頃、お母様にしてもらって以来のことで、ティーラはちゅうちょした。でも、口を開けてレオの手からパン粥をいただく。


「甘くて、美味しい」

「そう? よかった。ちゃんと食べて、早く治そうね」


 優しいレオさんに、ティーラは泣きそうになった。

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